7-2. 甘やかし背中と、くすぐったい夜
夜が深まったあたりで、肝試しをすることになった。
わたしは猛反対したのだが、みんながノリノリなもんだから、決定してしまった…
誰が好き好んで、肝試しをするのか…
全く理解できない…
男女のペアで行くことになり、くじを引いたら3番だった。
これは、3番目に出発するペアということ。
わたしのペアは誰だろ〜と思っていると、レオハルド王子がわたしの番号をチラっと見た。そして、耳元で「俺、変わっておくよ。ハオと楽しんで」とウインクしてさっとみんなに紛れていった。
レオハルド王子って、やっぱり気が利く男No.1だな…と改めて思った。
3番目のペアとして並ぶと、隣にはハオが来てくれた。
やったー!ハオと一緒に行ける!
もう、遠慮なく抱きつくんだからね!と先に決めている。
私たちの番が来て、わたしがビビりまくっているけれど、ハオはそれを無視してスタスタと先へ行こうとする。
わたしは必死にハオを止めて、彼にしがみつく。
「ネネルーナ、ちょっと、近すぎる」
わたし、本気で怖いのに…
塩対応スタートが辛いです…
「だって、だって、だって、本当に無理だもん」
ハオは平気な顔で歩いていく。
そして、説明をしてくれる。
「ネネルーナが怖いと思えば思うほど、怖く見えてしまうんだよ。実際、サーラーン王国にはお化けが少ないからいいじゃないか。波動が高い国だから、安心したらいいよ。この肝試しだって、魔法の演出だから、実際にいるわけじゃないし」
え?ハオってお化けのこと知ってる系?
なぜそんなに詳しいのだろう…
「実際にいるわけじゃないって、何でわかるの?」
「それは、ネネルーナが実際に見たことないから言えるんじゃない?」
わたしを怖がらせるセリフをニヤっとしながら言い放つ。
それって、お化けがいるってことを言いたいんだよね…無理ー!
「あっ!ほら!」
急に立ち止まって指を指すから、てっきりお化けがいるのかと思ってキャーっと叫んでハオに思いっきり抱きついた。
ハオはわたしの反応を見て、からかうことが成功して面白そうに笑ってる。
「ほら、見えない?」
嘘…からかってるわけじゃなくて、本当にいるの…?
わたしの心臓がどんどん早くなる。
いや、その指差す先を見たいんだけど、でも見たくもないのよ…とハオに顔を埋めていたら、
「森の妖精がいるよ」
わたしの肩をポンポンと叩いて、指先を見るように促した。
森の妖精?!
そんなの見たことないんだけど!
わたしは妖精なら見たい!と思って顔をぐいっと指差す方へ向けた。
ハオがライトをつけてくれたから、どこに妖精がいるのかすぐにわかった。
なぜか、葉っぱがくるくる回っていたのだ。
別に風が吹いているわけではないのに、その葉っぱだけがくるくる回っている。
「……これが、森の妖精…?」
「そう、可愛いよね、ダンスしてる」
「ハオってもしかして…見える人だし感じる人でもある?」
「いや、普通だと思うけど?」
普通の人って、やっぱり特別だな…。
ハオって、やっぱり“感じる人”なんだ。知らなかった。
──と、思っていたら。
「ひゃっ!?!?」
ふわっと何かが頬に触れて、わたしは本気で叫んでしまった。
魔法の演出って分かってる。でも無理。
腰が抜けて、地面にぺたんと座り込む。
「立てる?」
ハオがしゃがんで、優しく聞いてくれる。
「ごめん、ハオ、わたし腰が抜けたみたい…」
わたしは立てなくなってた。そんなわたしの様子を見て
「仕方ないな」
そう言って、ハオはくるりと背を向けて、しゃがみ込んだ。
背中──差し出されてる…!
「…うぅ、ハオ様…!」
わたしは、甘えるように抱きついた。
首もとにぎゅっと顔をうずめると、優しいシダーウッドの香り。
大人っぽくて、安心する香り。
ハオって、体温も声も、全部落ち着いてて、包まれるみたい。
わたしも、早く大人になりたいな。
*
「出口が見えてきたよ」
「ここまでおんぶしてくれてありがとう。もう、降りたほうが──」
「いや、みんなのとこまで連れてって、公開処刑にする」
「はあ!?ちょっとなにそれ!」
ハオの背中でバタバタ暴れるけど、降ろしてくれない。
そのままみんなの焚き火のところへ──
「このお姫様、怖すぎて最初のお化けで腰が抜けました〜」
ハオが涼しい顔で告げると、みんなが爆笑した。
「何それ〜!ネネ、可愛すぎ!」
「ビビりすぎでしょ〜!」
「ハオ君、ネネを助けてくれてありがとう。でも、君達距離近すぎるぞ」
と、さまざまなツッコミの嵐。
最終的には、お兄様によって強制的に引き剥がされた。
公開処刑ってこういうことか…!
でも、わたし、ちゃんと「降ろして」って言ったよね!?!?(必死)
その後、イケメン美少年ルークが抱きついてきて、わたしは後ろにバタリと倒れる。
「ちょっ、ルーク!?」
「ネネ、ぼくも怖かったの〜ぎゅってして〜」
甘え声で飛びつかれて、押し倒されるかたちに。
そのタイミングで、聖獣たちが襲来。
「ちょっ、くすぐったいってば〜!シソ!クレン〜〜!」
わたしは笑いながら身をよじるけど、ペロペロ攻撃が激しすぎて身動きが取れない。
だけど、わたしはひらめいた。
(イケメンと聖獣……そうだ、アレが見たい!)
《ミミ、お願い。わたし、ハオが動物と戯れてるとこ見たいの。癒されたいの》
《了解しました、ネネルーナ様》
短いしっぽをふりふりしながら、ミミがハオに駆けていく。
続いて、シソとクレンもターゲット変更。
「わっ、ちょっ……くすぐったいって」
ハオが珍しく困った顔で、でも笑ってる。
ミミはあろうことか、ハオの胸に飛び乗って、そのままぺろぺろ。
シソとクレンはその周りでうれしそうにじゃれまわってる。
ああ、眼福。これがイケメン×動物というやつ……。
はぁ……ずっと見てたい。
お泊まり合宿の初日は、こうして笑って過ぎていったのでした。




