7-1. ひとさじの恋と、美少年ルーク
第七章始まりました!
3年生が終わって夏休みに突入した。
今年の夏休みは、一味も二味も違って、楽しみで待ちきれない。
わたしの友達と、使節団メンバーでコテージでお泊り会をすることになった。
わたしは毎年、家族でコテージで泊まるのだけど、今年は友達と一緒に行きたい!と言ったら、思いのほか簡単に承諾してくれた。
女の子の仲良しメンバー10人、使節団メンバー10人、お兄様と両親だから、かなりの大所帯。こんな大人数でお泊まりするなんて、楽しいに決まってる!
しかも、このお泊まり会に、ハオの弟も来ることになった。
ハオがあれだけかっこいいんだから、弟も美少年なんだろうな〜会えるのがとにかく楽しみ。
学校で一度集まってから、聖獣に乗ってみんなで移動する。
ハオは聖獣を見せたくないみたいだけど、どうするんだろう?
遠くから使節団一行がやってくる。
ハオの姿を探すと、ハオはレオハルド王子の聖獣に一緒に乗せてもらっていた。
従者なのに、王子の聖獣に乗せてもらうなんて…どこまで頑なに隠したいのだろうか…
ハオと一緒に、弟くんも見える!
何と言うこと…黒髪にエメラルドの瞳が輝く、美少年がいる。
ハオがかっこいい系だとしたら、弟くんは優しい顔立ちをしていた。
みんなが集まったところで、弟くんが自己紹介をする。
「ルークです。従者ハオの弟です。よろしくお願いします。」
女子メンバーは美少年ルークが可愛いと騒いでいる。
「ルークくんは何歳なの?」
「ルークでいいですよ。僕は9歳です」
「初めましての人が多くて、名前覚えるの大変だよね」
「大丈夫です。僕、名前を覚えるのが得意なので」
ニコッと笑って応えている。
9歳とは思えない社交性…
本当に、ハオの弟なのか?と思ってしまう…。
自己紹介も終わり、コテージへ移動開始だ。
お父様がクレンにまたがり先頭を走って飛んでいく。
お母様がシソに乗って最後尾を走るみたいだ。
私たちはおのおの聖獣に乗って移動する。
コテージの場所は自然に囲まれた湖のある静かなところ。
湖で遊ぶこともできるし、夏にはもってこいの場所。
コテージについたら、まずはお昼ご飯。
魔法でさっと作ることもできるけれど、手間暇かけて作るご飯もとても美味しいとわたしは思う。
私たち家族は、コテージでは、たいがい手料理を作ることが多い。
みんなでスープを作ることにした。
人数が多いため、準備も大変そう。
わたしは公爵令嬢だけど、ちょこちょこ料理を作っている。
コテージへ来ている時は、積極的に料理の手伝いをしていた。
野菜を切っていると、ハオがひょこっと横から覗き込んできた。
「慣れてるね」
意外そうな顔でこちらを見てくる。
「そうなの。わたし、意外と料理するの好きなんだよね」
「へぇ、それはいただくのが楽しみだ」
そう言って男子の輪に入っていった。
今日のハオはご機嫌みたい。
向こうから声をかけてきたくらいだし。
わたしは嬉しくなった。
あと、最近のハオはとても優しい…
わたしの専属護衛になってから、大切にされてると感じることが多い。
みんながいる時は塩対応だけど、二人の時は、なんというか…優しいというか…甘い…?
するともう一人、ひょこっと顔を出した人がいた。
美少年ルークくんだった。
「ネネルーナさん、料理上手だね。」
「ネネルーナでいいよ。ハオの弟くんだし」
「じゃあ、僕のこともルークって呼んでくれる?」
美少年の上目遣いはずるい…可愛すぎる…
なんというか、この美少年はあざとい。
自分が可愛いことが、この歳でわかっている感じがする。
女子メンバーが楽しく料理を作っている輪に入って、可愛がってもらっていた。
弟って、きっとこんな感じで懐に入るのが上手なんだろうなと、客観的に見ていて思った。
ふとお兄様を見ると、使節団のメンバーの中に溶け込んでいた。
さすがお兄様。
お兄様って、クセ強めなのに、意外と社交術はあるのよね…
ハオは男子達の輪のそとで、その光景を眺めていた。
どこか遠くを見るような視線が、わたしは気になってしまった。
ハオは今、何を思ってるのかな…?
料理をしながら人間観察をしていると、また美少年が戻ってきた。
「ネネルーナは兄貴が好きなの?」
「ぼふっ…」
あまりのストレートな質問に、飲み物を飲んでないのにむせそうになった。
「何でそう思うの?」
「だって、兄貴が話しかけた時、ネネルーナの瞳がキラキラしてたから」
そんなに明からさまなんだ…
9歳でもわかってしまうほどに…
「ハオは魅力的な人だと思うよ」
と照れながら答えた。
「じゃあ、僕が協力してあげる!」
そう言って、料理をしているわたしに横から抱きついてきた。
こんなに人の心を見透かすような言葉…ほんとに9歳?
色んな意味でドキドキしていると、飲み物を取りに来ていたハオがそばにやってきた。
「ルーク、危ないから離れなさい。料理してる時は抱きついたらダメだろ」
ハオがルークに注意してくれた。
まるで、子どもに注意する未来の旦那さまみたい…?
とわたしの妄想が膨らんでいきそうになるのを、急いで止めた。
「だって、ネネルーナ可愛いんだもん」
ハオは結局横まで来て、わたしからルークを引き剥がしていた。
「手料理って、時間はかかるけれど、作り手のエネルギーが入るから、より美味しく感じるよね」
と、飲み物を持ちながら話しかけてくるハオは、今日はやっぱりご機嫌だと思う。
何かいいことでもあったのかな?
それとも、わたしと話せて嬉しいとか…
そんなわけ、ないよね…
周りにみんながいても、こうやって話しかけてくれるなんて…
わたしは嬉しくて仕方ないけれど、何だかここまでくると、怪しいと思ってきた。
わたし、疑い深すぎるかな…?
「だよね、わたしもそう思う!やっぱり手料理が1番美味しい。」
「最後、俺も手伝おうか?」
うそ!手伝ってくれるの?
ハオ様、大サービスなのでは?
ハオが持っていた飲み物を置いたので、わたしは包丁を渡した。
腕まくりをしてから、ハオも手慣れた感じで切っている。
「あれ?ハオも料理する人?」
「得意料理だけね」
野菜を切る横顔がカッコ良すぎて、ずっと見つめたくなる。
包丁を握る手が大きくて、力強くて、でも優しい。
そんな手に、なんだか心がぎゅっとした。
ハオが野菜を抑えている手首にはアメジストのブレスレットが輝いている。
「ハオっていつもこのブレスレットつけてるよね。」
「あぁ、これね。」
と返事をしながらも、野菜を切り続けているハオ。
「わたしもこのブレスレットほしいな…あ…」
…嘘!心の声が出ちゃってた!?
一人で焦りだす…
そして、ハオはちゃんとその言葉が聞こえていたみたい。
「ダメ、これは俺の」
野菜を切る手を止めて、わたしを見つめてくる。
太陽の光に照らされたハオの瞳に、まるで吸い込まれそうな気持ちになる。
このダメって言い方に、なぜかときめいてしまった。
この人って何してもかっこいいんだ…
ほんと完璧すぎるよね…
ルークが抱きついてきたおかげて、二人で話すことができた。
ルークに感謝しないと…!
引き剥がされたルークはというと、すぐに他の女子に構ってもらっていた。
その横を、クレンとシソが2体でじゃれながら、野菜のつまみ食いをしながら通っていった。
女子達が「あ!盗み食いー!」と叫んでいる。
あの2体は本当に仲良しだな。
可愛くて、癒される。
その光景をみて、ハオも笑ってる。
この一瞬を瓶に詰めて、時間を止められたらいいのに…
そう思うほど、幸せだった。




