6-5. 夕食会は波乱の予感
いよいよ、夕食会当日。
前日、夜な夜なキスマを魔法でどうにかしようと奮闘した。
魔法薬を使ってみたり、幻影魔法をかけてみたり、肌色変化魔法まで試した。
どれも効果がなかった。
肌色変化の魔法はわたしにとっては難しくて、途中、爆発して顔面パステルピンクになってしまった。
ルカヨからは
「やめなさい。悪化してるから」
と言われてしまった。
もうわたしは降参した。
キスマをつけて参加するしかない。
王城に到着すると、バレンシャン王国のレオハルド王子とハオも来ていた。
お父様はなぜかハオを気に入っている。
でも、夕食会に王子とハオを呼ぶのはおかしくないか…?
状況が理解できない。
お兄様も王城へ到着し、わたしに衝撃の一言を放った。
「ネネ、証人を連れてきたぞ」
ドキっと大きな鼓動が響いた。
ヤバい…これ、バレてる…?
なんで?どうしてバレた?
誰かに見られてた?
え?
いやいや、ここは平常心。
大丈夫、何とかなる。
いや、何とかしよう。
レオハルド王子と従者のハオが先に入室する。
続いてお兄様が入り、わたしがそれに続く。
「お父様、お母様、お久しぶりです。」
そう挨拶をして入室し、席まで歩いて行く。
入り口の位置、わたしの席が、ちょうどキスマが両親から見える位置…
こんな時に限って、なぜ右側にキスマを付けるかな!と自分の運に納得いかない。
「あら、ネネ、あなた首を怪我したの?赤くなってるわよ」
お母様…わたしを心配してくださったのは嬉しいのですが、そこは気づかないでいただきたかった…
「あ、の、これは…」
「これは、キスマークです、お母様」
カッとお兄様を見た。
兄ィィ…!
裏切り者という目で、お兄様を見つめる。
お兄様は何食わぬ顔でいる。
レオハルド王子、ハオもいる前で堂々と言うなんて…
穴があったら入りたい…
「キスマークだって?」
いつも冷静なお父様も、珍しく動揺している。
お母様は「あら」となんだか、楽しそうにふふふと笑っている。
両親の真逆の反応を楽しんでいる余裕はなく、わたしはどんな質問が飛んでくるか身構えた。
「今週、ネネルーナはキスマークをつけて登校したんです。
もちろん、学校は噂で持ちきりでした。
ネネはハオ君に懐いているので、ハオくんなら知っているのでは?と思いまして。
ハオ君は王子の従者なので、レオハルド王子も夕食にご招待させていただきました。」
俺は正しいことをしていると主張するかのような堂々とした物言いだった。
お兄様が全部伝えたから、お父様もお母様も状況が理解できたはずだ。
「ネネ、お前は将来アイドルを目指しているのだろう。
今後、そんな行動は控えなければならない。
わかっているな?」
お父様は優しくわたしに諭してくれる。
「はい、わかっています。」
わたしは素直に答えた。
「ネネはハオ君にいつもべったりなので、ハオ君は何か知っているか?」
お兄様がハオに尋ねた。
いやいや、キスマを付けた張本人に、それ聞いちゃう…?!
「わたしは何も知りません。
確かに、ネネルーナ嬢と同じ雷型なのでかぶる授業も多いですが…
いつも一緒にいる訳ではありませんので。」
緊張することなく、サラッと嘘を言ってのけた。
まあ、ここで本当のことを話されるのもダメなのだけどね。
お母様が手をパチンとたたき、いいアイデアが浮かんだわ!という表情で言ってのけた。
「ソラン、ハオ君にネネを護衛してもらうのはどうかしら?」
わたしは開いた口が塞がらなかった。
え?そっちの展開にいくの?
うそ…
いや、でも、わたしとしては最高の展開なのでは…?
「ハオ君はネネにどれだけアプローチされてもなびかないと聞きますし、同じ雷型で腕も立つとのことですから、ピッタリなのではなくて?」
実は、ハオは禁書の一件以来、お父様とお母様の信頼を得ていた。
口封じの魔法という強力な魔法を自ら願い出たことが大きかったのだと思う。
お母様は、まるで、わたしいい案を思いついたでしょ〜と嬉しそう。
わたしから見ても、お母様は本当に美しくて可愛いと思う。
さあ、この展開はどうなる?
「それはいいな。
ハオ君が嫌でなければ、ぜひお願いしたいのだか。」
ちょっ、ちょっとお父様。
どうしたの?
そんな簡単に賛成しちゃうの?
まさかの、わたしにとっての嬉しい展開に、胸が高鳴る。
「ハオに護衛を任せるなら、責任者としてわたしも彼女に付き添おう」
今まで状況を見ていたレオハルド王子まで出てきた。
そして、あえてハオに圧をかけつつ、ネネににっこり微笑む。
なんであの王子、わたしに関わろうとするの…!?とわたしは混乱してきた。
ハオ本人は何も言わないのはどうしてよ!と心の中で叫ぶと、やっと口を開いた。
「レオハルド殿下の手を煩わせるわけにはいきませんので、ネネルーナ様が嫌でなければ、わたしが護衛を務めさせていただきます。」
わたしはやった!とその場で飛び跳ねたくなるのを抑えて、落ち着いた声を出すよう努めた。
「ハオ、いいのですか?護衛になってもらえたら嬉しいです。」
ハオが公認の護衛になればいつも一緒にいられるし、他の男子からのアプローチもなくなるはず。
テーブルの下でぐっとガッツポーズをする。
「僕は反対です。
昔からネネを護衛している者に、学園内でもお願いすればいいのでは?」
お兄様が反対意見を述べて、しゅんとなる。
お兄様、余計なことは言わないで…と心の中で祈った。
「これは本人たちの問題だから、ネネとハオ君がいいと言うのだからそれで良いだろう」
お父様の言葉に、そうですねとお兄様も素直に従ってくれた。
そのあとは、わたしの話は終わり、たわいもない話をしながら夕食を楽しんだ。
夕食会も終わり、お兄様は、今日は寮へ帰らず王城の自室で休むと言う。
わたしは寮へ帰ろうとしたら、お父様がハオを呼び止めている。
「ハオ君、このあと少し残ってくれるか?」
優しく微笑みかけている。
何を話すのかな?と思っていたら、次はわたしにも声がかかった。
「ネネも少しいいかい?」
護衛のことで何か決め事でも話すのかな?と呑気にしていたけれど、想像以上の展開になってしまうのだった。




