6-1. 幸せだったのに、なんでよ!
陽春の香りがわたしの鼻をくすぐる。
草花のエネルギーで美しい空気が流れるこの季節が好きだ。
わたしは週末、ルームメイトのルカヨと一緒にお出かけすることにした。
お父様のお誕生日が近いから、プレゼントを買いに行くのだ。
街へお出かけするのは久しぶり。
わたしはめいっぱいオシャレして街へ繰り出す。
土日はマーケットが開催されているから、とてもにぎわっている。
陽春の陽気も重なって、街が活気づいている。
お父様にどんなプレゼントを買おうかと、いろんなお店や屋台を回る。
金髪に赤い目のわたしは、正直言って目立つ。
街中で何人かの人に、「王女様」と声をかけられた。
わたしの父が元王族なだけで、わたしは正式な王女様ではないのだけれど、敬意をもって呼んでくれていることがうれしい。
いろんなお店を回っているうちに、お父様だけじゃなくて、使用人の方たちにも何かあげたくなり、いろんなプレゼントを買ってしまった。
ルカヨと一休みしていると、わたしのセンサーが反応した。
あの噴水に腰かけてる二人組、オーラがあふれ出ている…
一体誰だろう…ルカヨに伝えると、近くまで見に行ってみようとなった。
わたしたちは荷物をもって、近くを通り過ぎるふりをする。
「あ!」「あ!」
向こうも私に気づいて、同時に声を出した。
そこにいたのは、ハオとレオハルド王子だった。
いつもの黒づくめの服ではなく、カジュアルな服装をしている。
青い色のパンツに白いTシャツというスタイルだった。
「爽やか」という言葉がこの人以上に似合う人はいるだろうか…
「ハオもお買い物?」
わたしは嬉しくなって、ぴょんとハオの横へ行くと、首をかしげて聞いた。
「…バレたか…」
ちょっと気まずそうな反応をするハオをみて、笑えてきた。
確かに、バレンシャン大国特有の黒髪は変身魔法で変えてはいるのだけど…
イケメンは髪色を変えても、相変わらずイケメンでした。
こげ茶色の髪色も似あうんだな~と、私は一人関心してしまった。
横にいるレオハルド王子は金髪に髪色を変えていて、これもまたよく似合っていた。
ルカヨは王子推しだから、さっきから横で興奮している。
わたしもハオに会えて嬉しいし、せっかくだから一緒に街を回りたいと思った。
「ハオたちは街に何しに来たの?」
「俺は、弟がもうすぐ誕生日だからプレゼントを買いに来た」
へぇ…ハオって弟がいるんだ。
また一つ、ハオのことが知れて嬉しい。
「弟さんは何歳なの?」
「今年9歳になるよ。ちょっと年が離れてる」
「ほんとだね、8つ違いかぁ」
レオハルド王子も私たちに
「お嬢さん二人は何のお買い物?」
と優しい笑みを浮かべながら聞いてきた。
「わたしはネネのお買い物の付き添いできました」
そう応えるルカヨが可愛すぎる。
ちょっと緊張して顔が赤くなってるし。
「わたしのお父様がもうすぐお誕生日だから、プレゼントを買いに来てたの。」
「そんなにいっぱい?」
ハオが私の買い物袋を見て、その多さに驚いている。
「あ、これはね、せっかくだから使用人の方々にもなにかあげたいなと思って、いっぱい買っちゃった。」
えへへと笑うわたしをみて、
「優しいんだな。意外と」
とボソッとつぶやくハオ。
ちょっと、『意外と』って最後の言葉、いらないでしょ!と心の中で突っ込みをいれた。
「レオハルド王子、せっかくですから、一緒に街中を回りませんか?よければ案内しますよ」
どんな反応が来るかわからないけれど、提案してみた。
わたしはルカヨをちらっと見て、アイコンタクトをする。
「そうだね。せっかくだし、一緒に見て回ろう。なあ、ハオ」
そういってハオの肩をバシンとたたいていた。
この二人って、本当に仲いいよね。
王子と従者の関係以上っていうか…
そして、男性同士が仲良くしてるのって眼福だわ…と、私の心の中は、いつものように忙しい。
「さあ、行こうか」と二人が立ち上がった。
わたしはすかさず、ハオの横をキープする。
すると、レオハルド王子はすっと下がってルカヨの横へ行ってくれた。
気の利く男No,1と思った。
王子に気を遣わせちゃったけど、王子もいつもわたしたちのことをからかってくるし、いいよね、と今は開き直っている。
ハオは、
「荷物、半分持とうか?」
と、わたしの方を向きながら伝えてくれた。ハオに大切にしてもらってるみたいで嬉しい気持ちになる。
「じゃあ、お願いします。」
そういって左手で持っていた荷物を渡そうとしたら、
「重いほうかして」
とパッと右手の荷物を持ってくれた。
ハオ、あなたも気が利く男だったのね…とハオの株が駄々上がりする。
たまたま私のおすすめのジェラート屋さんがこの近くにあることを思い出し、一緒に食べることを提案して、みんなで食べることになった。
ここで待ってて、と言い、男性陣二人が買いに行ってくれた。
「ネネー!!!
レオハルド王子、かっこいいし、優しいし、ほんと好きになっちゃいそうなんだけど…」
「今日、一緒に回れてよかったね!
わたしもハオと回れて、とっても嬉しい。
まるでダブルデートみたいだね」
待ってる間にわたしたちが恋バナで盛り上がっていたら、アイスを買って二人が戻ってきた。
私は荷物を両手にもっていて、ハオはジェラートを両手に持っていたから、わたしは一つお願いをしてみることにした。
「ハオ、わたし荷物で両手がふさがっちゃってるから、あーんして」
「自分で食べろよ~」
ハオはわたしをかわすのが、上手くなってきている…困った。
「いやだ、あーんして」
わたしはもう一度おねだりしてみた。
「しかたないな、お姫様」
嫌そうながらも、ちゃんとあーんしてくれるから、ハオはやっぱり優しいと思う。
わたしはハオからあーんしてもらえて満足した。
ふと視線を感じて、パッと横を見ると、ルカヨとレオハルド王子が遠くからわたしたちを見ていた。
「あの二人って、いつもあんな感じなんですか?」
「そうだよ。俺、いっつも自分がお邪魔虫になった気分だよ」
「王子も大変ですね…」
「この気持ち、わかってくれて嬉しいよ」
あれ?なんか、ルカヨと王子もいい感じじゃん!とわたしは嬉しくなった。
荷物もあったから、結局私たちはベンチに座ってアイスを食べた。
帰る前にお手洗いへ行こうと思い、わたしとルカヨでお手洗いを探しに行った。
男性陣は荷物があるから、ベンチで待っててくれるみたい。
わたしとルカヨがお手洗いから帰ってくると、ハオがきれいなお姉さんと手を組んで笑っていた。
お姉さんは大人な人で、わたしと正反対のナイスバディな体形だった。
ハオ!なんで手を組むことを許してるのよ!
その光景を見た瞬間、胸の奥がギュッと痛んだ。
せっかくの楽しい時間が、急に色あせて見えた。
ルカヨはわたしの顔を見て、すぐに状況を察したらしい。
すっと前に出て、笑顔でお姉さんたちに声をかけた。
「お兄ちゃん、早くいこう!」
あえて『お兄ちゃん』と呼ぶその機転に、思わず目が潤んだ。
ハオとレオハルド王子をお姉さんたちから引き離してくれた。
お兄ちゃんと言って、ルカヨは、ちゃっかり王子の腕を組んじゃってるし。
この子、意外とやるじゃない!と思った。
わたしはとにかくイライラしていた。
このイライラを誰かにぶつけても、何もいいことはない。
それはわかってる、わかってるけど、このやり場のない気持ちを何とかしたかった。




