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魔法世界の王女は、恋をしてはいけない人に恋をしたーアイドルを夢見るわたしですが、世の中は厳しすぎますー  作者: りなる あい
第五章 ~3年生 前期~

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5-5. 奪われる記憶より、黙る覚悟を

今日は、ハオと一緒に、国家機密を知ってしまったことを両親に伝えることになっている。

わたしは朝からずっと緊張していた。


わざとやったわけではない。

それでも、わたしの興味本位な行動が原因で、大切な秘密を知ってしまったことに責任を感じていた。

そして、ただ調べ物をしていただけのハオまで巻き込んでしまった。

だからこそ――正直に話そう。

逃げずに、真正面から向き合おうと決めていた。


「お父様とお母様に話があるの」


と伝えた時、2人は少し驚いたように目を見合わせた。

当然だと思う。


国家機密を知ってしまいました


――なんて、まさか自分の娘がそんな話をするなんて、想像もしていなかったはず。

両親は応接室の椅子に腰かけて、わたしたちを静かに待っていた。


「……お父様、お母様。話さなければならないことがあります」


わたしは深く息を吸って、言葉を紡ぎ出す。


「先週、ハオと一緒に王城図書館の立ち入り制限区域で『癒しと愛による魔の鎮魂──第七章・エテ・コリントスより』という報告書を見つけました」


一瞬、2人の表情が揺れた。

でも何も言わず、ただ静かに続きを促す。


「魔法がかけられていて、どの術式でも開かなくて。

でも、わたしの“ため息”で開いてしまったんです」


思わず早口になってしまった。

でも、そこまで聞いた瞬間、2人は明らかに動揺していた。

わたしはそのまま話を続ける。


「報告書の中には……お母様が100年に一人の、複属性を持つ国家機密の存在であることが記されていました」


「わたしもです。

留学生の立場でありながら、貴国の国家機密に触れてしまいました。

すべてはわたしの軽率な行動が原因です。

大変申し訳ありません」


「そうか……」


お父様が重い口を開いた。

その声には、深い思索と迷いが滲んでいた。

お母様は、変わらぬ静けさの中に芯の強さを感じさせる佇まいだった。

秘密を背負って生きてきた人間の、覚悟と矜持がそこにあった。


「その報告書は、マミーナに命を救われたあと、わたしが記したものだ。

国家機密を含むため、わたしかマミーナしか開けないように、魔法で封印していた。

……だが、ネネルーナ、お前にも我らの血が流れている。

だから魔法が反応したのだろう」


わたしたちを責めることなく、自分の責任として受け止めるお父様の姿に胸が苦しくなった。

でも、知らなかったことに戻ることは、もうできない。

しばらくの沈黙のあと、父は重々しく口を開いた。


「ネネルーナ……お前はもうすぐ大人になる。

この事実を知ったうえで、これからを生きていきなさい。

……黙っていて、すまなかったな」


胸の奥に、何かがズシリと積み重なるのを感じた。

お母様の秘密を知った娘として、どう生きていくべきか

――その重みが、わたしにのしかかってきた。


「ハオ君」


お父様の視線が、今度はハオに向けられた。


「君はサーラーンの民ではない。

そんな君が我が国の国家機密を知ってしまったことは

……偶然とはいえ、非常に重大な事態だ」


深い沈黙。

張りつめた空気の中、ハオが静かに口を開いた。


「ソランティア様。

わたしに“口封じの魔法”をかけていただけませんか」


その言葉に、わたしは思わずハオを振り向いた。


「えっ……?そんな、正気なの?」


お父様も、お母様も驚きに目を見開いていた。

無理もない。

“口封じの魔法”は、非常に強力で危険な術。

封じた情報を口に出そうとすれば、頭痛や立ちくらみ、それでも抗えば、意識を失うこともある。


「ハオ君、本気で言っているのか?

あの魔法の危険性を、わかっているのか?」


「理解しています。

そのうえでお願いしています。

これは、他国の者が国家機密に触れてしまった責任だと考えております」


ハオの声は澄んでいて、迷いがなかった。

その覚悟に、わたしは胸が締めつけられた。


「……ハオは悪くないのに、そんな……」


わたしの視線に気づいたのか、ハオはやさしく笑って言った。


「大丈夫だよ。僕はそうするべきだと思って言っているから」


やさしく、でも毅然としたその言葉に、なぜか涙が出そうになった。

なんで、こんなことになってしまったのだろう。

わたしのせいで……わたしの軽率な行動のせいで……


「言うつもりはありません。

ですから、影響も出ないはずです。

魔法に抗うつもりもありません。

信じてください。

わたしに、“口封じの魔法”をかけてください」


そのまっすぐな言葉に、父は深く考え込むように目を閉じた。


「……本来なら、記憶操作の魔法も考えていた」

「……!」


ハオがビクリと肩を震わせた。

わたしも驚いた。

記憶そのものを消す魔法。

――それは、もう“存在をなかったことにする”ほどの重さがある。


「ソランティア、ハオ君の言葉を信じましょう」


お母様が、そっとお父様の手に触れながら言った。


「ハオ君は、簡単に口封じの魔法を選んだわけではないはずです。

……自分の言葉に責任を持とうとしています」


お父様は、ゆっくりと頷いた。


「……わかった。

ハオ君、君の覚悟、しかと受け取った」


そして、お父様は魔法を発動し、ハオに“口封じの魔法”をかけた。

ハオは一切動じることなく、まっすぐにそれを受け入れた。

ハオは、強い。

どんな理不尽にも目をそらさず、自らの立場を受け入れ、責任を果たそうとしている――

その姿があまりにもまぶしくて、遠くに感じてしまうほどだった。


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