5-4. ハオは何もしてこない(でも好き)
そよ風の中に凍冴の寒さを感じ始めた。
わたしはここ最近は忙しかった。
ハオとたまたま知ってしまった国家機密のこと…
両親に伝えるつもりだけど、その場で伝えることは二人で話し合ってやめたのだ。
わたしが動揺しすぎていて、あの状況ですぐに伝えないと決めたのだ。
後日、ハオとともに伝えることになっている。
それに加えて、私のアイドルになるという夢のために、応募できる公開オーディションがないか調べていたのだ。
わたしはもうすぐ15歳。
15歳で応募できるものを一生懸命探したけれど、やっぱり16歳以降のものばかりだった。
一応、隣の国も調べてみた。
応募するかどうかは置いておいて、とにかく可能性を探りたかった。
でも、この一年は準備期間になりそう…
もちろん、チャンスが来たらすぐにつかめるようにしておかないと!
ちょっと肌寒いけど、この寒さが頭を冷やすのにちょうどいい。
いったん、落ち着こう。
木陰のそばで少し横になった。
ここなら誰も来ないはず、ちょっと休憩…
「そんな無防備に寝てていいのか?」
わたしの大好きな声がした。
こんなところにハオがいる?
でも、わたしは目をつむったまま応えた。
「いいの。どうせハオはわたしから仕掛けないと何もして来ないから」
風が気持ちいい…
ハオはここで何してるんだろ…
目をむつって横になり続けていたら、ふわっと蝶が頬に触れた。
目を開けてハオを見ると、ふっと笑って目を背け、木陰に腰を下ろす。
ああ、なんて愛しいんだろう…
蝶にキスをさせるなんて…
ハオの横顔をこっそり盗み見た。
風に揺れる前髪の向こうに見える睫毛の影。
ハオは強い魔法使いなのに、ハオの使う魔法って優しいんだな、とキュンとしてしまった。心臓が、少しだけ早くなるのを感じた。
本当、罪な人…!
隣に腰を下ろしているのも、近すぎず、遠すぎない距離。
ハオがリラックスしていることも伝わってくる。
木の葉が揺れる音と、鳥のさえずりだけが響く。
まるで世界が、わたしたちふたりだけのために静かになったみたいだった。
息をひそめるように、わたしはもう一度そっと目を閉じる。
何か、話すでもない、でも一緒の時間を同じ空間で過ごしている。
こんな時間が、ずっと続けばいいのに。
…なんて思ってしまうのは、きっとわたしだけなんだろうな。
でも、それでもいい。今はこのままでいたい。
贅沢で幸せな時間をかみしめた。
これから二人で両親に会う。
その前の静けさが一層身にしみるのだった。




