5-3. ハオ視点: 禁書で知った衝撃の真実で、俺は…
週末、俺は1人で王城へと向かった。
レオハルド王子にそのことを伝えると「真面目だね〜」と言われ、いってらっしゃいと送り出された。
王城へ来るのは、使節団としてミドバーレ魔法学校に転校する前と合わせて、今回が2回目。
やはり、緊張する。
俺の場合は、いろんな意味で…
王城図書館へは使用人に案内してもらった。
長く広い廊下を歩いていると、何と目の前からネネルーナが歩いてきた。
向こうも俺の姿を見て驚いているみたいだ。
「ネネルーナ」「ハオ」
俺たち2人の声は重なった。
「どうして王城に?」
ネネルーナがきょとんとしている。
「俺は、王城図書館で調べ物をするために来た。
ネネルーナはここで何をしてたんだ?」
「わたしは、王妃様のお茶会に呼ばれていてその帰りなの。」
「そうだったのか。お楽しみさま。
じゃあ、俺は図書館へ向かうよ」
そう言って歩みを進めようとしたら
「ハオ、わたしも一緒に行く」
と後ろからてこてこ歩いて俺の元へきた。
「お好きにどうぞ」
「やった!わたし、王城図書館の場所はわかるから、このままわたしが案内しちゃうね。」
ネネルーナは使用人に伝え、2人で向かった。
「何を調べるつもりなの?」
「禁書扱いの『エテ・コリントスの封印記録書』を調べようと思ってる。」
「え?禁書扱い?許可証持ってないと見られないよ?」
「許可証持ってるから大丈夫」
ネネルーナは許可証がなくても、顔パスで禁書コーナーに入ることができていた。
さすが、もと王族…
まあ、赤い目に金髪だから、どうみても王族だよなと思う。
『エテ・コリントスの封印記録書』は古代語で書かれているが、その解説書が隣にあったからそちらを読ませてもらう。
解説書があってよかった…
なかったら、せっかく来たのに、何も情報が掴めないところだった。
俺が解説書を読んでいるとき、ネネルーナはそばで本棚を眺めていた。
何か読むわけでもなく、ぼんやりと表紙を眺めているようだった。
「ねぇ、この報告書、いいんじゃない?」
ネネルーナがそう言って手に取ったのは、『癒しと愛による魔の鎮魂──第七章・エテ・コリントスより』という報告書だった。
しかし、この報告書は魔法がかかっていて開くことができない。
それほど重要ということか…
禁書の中でも、魔法付きなのは、よほどの重要文献といえよう。
俺とネネルーナでいろんな解除呪文を試したがどれも効果がなかった。
諦めるか、と言って、俺はもとの解説書に向き直って読もうとした時
「ん〜〜もう、なんで開かないのよ……はぁ〜……」
パタン、と本が勝手に開いた。
「えっ、なにこれ……
まさか、わたしの“ため息”に反応した?」
「そんなわけ……
いや、ありえるのかな。変な本……」
見ると、その報告書は本当に開いていた。
急に開いたのはなぜだ…?
「どうやって開けたんだ?」
「わたしもよくわからないんだけど、はぁーってため息をついたら開いた。」
「何だそれ?信じがたいな…
そんなことあるんだな」
……ネネルーナが開けた。
魔法でいくら試しても開かなかったのに。
あの瞬間、息を吐いただけで?
もしかして、この本……
”魔法”や“魔力”意外に反応する仕組みなのか?
となると──ネネの中には、もしかして……
魔法がかけられた報告書。
俺たちは緊張と好奇心でいっぱいになりながら、ゆっくりと一緒にページをめくった。
一ページ目に書かれていたのは、まるで“誰か”に語りかけるような言葉だった。
『癒しと愛の力を継ぐ者よ──
魂の記憶を灯火とし、閉ざされた頁を開け』
俺は、思わずネネルーナを見た。
ネネも同じように俺を見上げてくる。
──やっぱり、彼女の吐息で開いたのには、理由があった。
二人で無言のまま、次のページを読み進めていく。
そこには、古代の記録が記されていた。
かつて “ある少女” が、愛と癒しの力で、人と魔物が融合した存在を鎮めた──
冴えた空気と魔力の覚醒が起きる「冴月」は、古代では「光泉月」とも呼ばれていた。
これは、白魔法の力が最も高まる月とされ、治癒の魔力が泉のように湧き上がると伝えられている。
“ある条件”と“強い想い”が重なったとき、もうひとつの魔法型が覚醒する──
ページをめくるたびに、俺たちは息をのんだ。
ソランティア・サーラーンの命が救われたのは、
白魔法が覚醒し、さらに黒魔法との“同時発動”が起きたから。
それが、通常ではあり得ないほどの強力な治癒となった。
そして、記述はこう締めくくられていた。
マミーナ・フェルは、100年に一度あるかないかの存在である。
ふたつの魔法型──黒と白──を同時に扱える者として。
……言葉を失った。
隣にいたネネルーナも、固まったように黙っている。
──彼女も、このことは知らなかったのだろう。
そうか。
フェル先生は、ネネルーナの母親だったんだ。
だから、彼女の“吐息”にだけ、この報告書は反応した。
アドリアン様との口ぶりから感じたあの違和感も……
これですべて、繋がった。
「ネネルーナ?」
彼女の顔を覗き込む。
すると、彼女の目が動揺していることを物語っていた。
「どうしよう、ハオ……
わたし、勝手に知ってしまってよかったのかな……」
小さく震える声だった。
その表情には、自分が“特別だった”という喜びも驚きもない。
むしろ、国家機密を偶然にも知ってしまったことへの、純粋な“責任”がにじんでいた。
魔法もかけず、ただため息をついただけで報告書が開いてしまったのは、自分の意思ではない。
ただ、母がマミーナ・フェルであった、という“血のつながり”だけが引き金になったのだ。
それを、ネネは重たく受け止めていた。
「……大丈夫だよ、ネネ」
俺はゆっくりと声をかけた。
「知るべきことを知った。
それだけだ。
責められるようなことじゃない」
……そう言いながらも、俺の内心はざわついていた。
この情報は、間違いなくバレンシャンが喉から手が出るほど欲しがっている。
けれど、ここでそれを“報告”すれば──
俺が何者かバレてしまうだろう。
ネネルーナや、この国で関わってきた大切な人たちにも、間違いなく危害が及ぶ。
これほど、自分の立場を恨んだことはない。
俺は国のために動かないといけない…
…でも、大切な人を守りたい。
俺は……どうしたらいいんだ……




