5-2. ハオ視点: エテ・コリントスの招待状
俺は5年生になってからも、機会を見つけてはフェル先生の元へ通っていた。
いつ行っても新しい発見や学びがあり、自分の価値観も新しくなっていくことが刺激的だった。
そして、俺の中で何となくだが、掴みたいもの、知りたいものをフェル先生が持っている気がした。
この軍事国家バレンシャン王国にとって、必要な何かを…
「シオルン君はとても熱心ですね。」
「バレンシャン王国にとって少しでもプラスになることは学びたいと思っているんです。
黒魔法への価値観をどうバレンシャンにも持ち込むかを考えていて…」
「もし黒魔法の歴史に興味があれば、王城の図書館にある、禁書扱いの文献──『エテ・コリントスの封印記録書』を読んでみるといいかもしれませんね。
人に説明したり伝えたりするときに、文献を用いると信ぴょう性が上がりますから。
興味があれば、わたしが許可証を発行しましょう」
「いいのですか…?
お手数をおかけしますが、お願いしてもよろしいでしょうか…?」
すると、コンコンとドアをノックする音が聞こえ、中へ入ってきたのはアドリアン様だった。
「あら?アドリアン、どうしたの?」
「黒魔法のシルビー先生から、こちらを預かってきました。」
「ありがとう。
ちょうどよかった。
シルビー先生にこのメモを渡しておいてくれるかしら?
パシリにしちゃってごめんなさいね。」
「お安いご用ですよ。」
アドリアン様は礼をすると、すぐに部屋を出ていった。
それにしても、何だかアドリアン様と距離が近いと感じたのは気のせいだろうか…
苗字じゃなくて、名前で呼んでいたし…
フェル先生は敬語を使ってなかったし…
慕っている生徒の1人なのだろうか…
「今週の土日は空いていますか?
もし都合があれば、今週末で許可証を出しておきますね。」
「ありがとうございます。」
俺は次の授業へ向かうために、先生の部屋を出た。
フェル先生はすぐに許可証を出してくれた。
王城の禁書扱いの本の許可証をすぐに取ることができるとは…
フェル先生への謎が深まるばかりだった…
次の授業へ向かう途中、ガラス張りのダンスホールがある。
時々、ネネルーナがそこで練習していることを俺は知っている。
今は、空き時間じゃなかったのか、そこにはいなかった。
代わりに男の先輩がダンスの練習をしていた。
アイドルになりたい人はこんなにもいるのだと、バレンシャンにいる時は知らなかった。
バレンシャンは、アイドルグループがそもそも少ない。
サーラーン王国の明るい空気感が俺は好きだと思った。
音楽の質も、エネルギーも、ポジティブで前向きだと感じた。
バレンシャンにもこんな音楽が溢れたらいいのにな…と思いながら歩みを進めるのであった。




