3-1. ほんとうの君に、会いたくて
青春祭が終わり、紅秋が深まる季節、わたしはハオとの心の距離が近くなったと感じていた。
ハオが好きという気持ちがどんどん大きくなっていく。
ハオセンサーも高くなってるから、ふと見るとその先にハオがいるってことも多くなってきた。
あ、あれはハオ?
木陰で仮面をつけた人が1人寝そべっている。
校舎から少し離れたところにある木陰へ向かう。
近くまでくると、仮面をつけててもハオだってわかった。
ハオのそばに腰を下ろすけど、まだすやすや眠ってるみたい。
そんなハオの寝顔(口元しか見えないけど…!)を見て、わたしの好奇心が掻き立てられる。
ハオの素顔が見たい…
「ハオ…?」
小さい声で呼んでみるけど、返事がないからまだ眠ってるんだと思う。
わたしは仮面に手を伸ばした。
そっと仮面に触れて、ゆっくり持ち上げる。
ハオのまつ毛がぴくっと動いた気がした。
うわ……
これは、反則じゃない?
長いまつ毛で閉じられた目、流れるような前髪、この瞳は何色なのかしら…
仮面を外して寝顔を盗み見るなんて…
わたし、どうかしてるわ…
風が吹き、木陰がサラサラと音を立てている。
ハオの顔に光が当たり、まるで輝いているみたい。
仮面を戻そうとしたら、ハオがパッと目を覚ましてわたしの腕を引き寄せた。
「きゃっ」
わたしは体勢を崩して彼の上に乗っかってしまう。
その瞳は——
深く、澄んだ紫色。
一瞬で心が捕まった。
まるであの夜、キャンドルナイトの屋上で見た、聖獣ドラゴンの瞳みたい…
それが、ハオの目だったなんて…。
瞬きを忘れるほど、美しいと思った。
「何してる」
低く怒ったような声がわたしに響く。
思わず肩がビクッとなる。
心臓がドクンと高鳴った。
「……怒ってる?」
わたしの声は自然と小さくなっていた。
ハオはしばらく無言のまま、じっとわたしを見ている。
その視線が、答えの代わりのようで——
「…寝てる時は仮面を外すと前言ってたから…」
「…どうやって外した…?」
「何って…そっと持ち上げただけ…ごめんなさい、勝手なことして怒ってるよね」
自分のしたことの大きさに気づいて、胸が苦しくなった。
どうしよう、嫌われたかもしれない。
そう思ったら、目の奥が熱くなってきて——
わたしの涙が目元に溜まってきた。
ハオに嫌われたくない。
どうしよう…
わたしの表情を見た紫の瞳が、一瞬困ったように見えた。
仮面をつけてないから、こんなに表情がみえることが新鮮だった。
わたしを強く掴んでいた腕の力が緩む。
「いや、怒ってるわけじゃない……ただ…」
ハオがわたしの腕から離れ、起き上がる。
すぐさま、しゅっと片手で仮面を取り、元の場所につけようとする。
「ダメ、仮面、つけないで。ハオと顔を見て話したいの」
ハオの手を、今度はわたしが掴んでいた。
言葉も行動も無意識でしてしまっていた。
そんな自分自身に1番驚く。
「いや、仮面はつけさせてもらうよ」
わたしの手をほどいて元の位置に仮面をつけてしまった。
そして、もう行くから、と立ち去っていくハオ。
はぁー…
わたし、やっちゃったかも…
好きになると暴走しちゃう自分を責めたくなってしまう。
でも、自分を偽ってお淑やかなフリもできない。
ハオがありのままのわたしを受け入れてくれたら…
初めて仮面の下の素顔を見られて、距離を縮めることができたはずなのに、不安な気持ちでいっぱいになる。
でも、頭の中にはあの紫の瞳が焼きついて離れなかった。
あれは、聖獣と同じ目。
ハオの目を、もう一度ちゃんと見たい。
…その想いだけが、夜更けまで胸の中に残り続けていた。
本日21時にも投稿します!




