15-1. 生きている、そのぬくもり
苦しい時間は、ようやく終わった。
それでも、わたしはしばらく生きた心地がしなかった。
目の前で、大切な人の顔が青ざめていくのを見てしまったから。
魔物との契約解除で失われた血液は、38.5%。
医療班は、ほぼ致死量だと言った。
それでも——レオもハオも、生きている。
わたしは横たわるレオの頬にそっと手を添えた。
確かなぬくもり。
その温度だけで、胸の奥がほどけていく。
本当に、よかった。
*
レオは目を覚ましても、まだ起き上がれなかった。
いつも凛としていた体から力が抜け、覇気がない。
——あぁ。
この人も、無敵なんかじゃない。
そう思った瞬間、胸がきゅっと締めつけられた。
「ネネ、いつもそばにいてくれてありがとう」
微笑むレオの手を、わたしは両手で包む。
「ありがとうはこっちだよ。レオ、大好き」
そっと頬にキスをすると、レオは驚いたように目を見開いた。
「俺もネネが好き。……早く身体、戻らないかな。やることが山ほどある」
その言葉に、わたしは首を振る。
「何言ってるの。レオはもう、誰にもできないことをやったんだよ。
今の仕事は、ちゃんと休むこと」
少し考えてから、レオが聞いてきた。
「……ネネは、いつアイドルに戻る?」
もう二か月半。
レオの命を思えば、あっという間だった。
「本当は、回復するまでずっと一緒にいたいけど……」
「その気持ちは嬉しい。でも、俺は舞台に立つネネも好きだ。
ネネのタイミングでいい」
無理を言わない。
背中を押しすぎない。
それが、今のレオの優しさだった。
「……決めた。次の新月に復帰する。
レオも一か月経つし、あとは回復するだけだもんね」
そう言いながら、胸の奥が少しだけ痛んだ。
「離れるのは寂しいけど、俺はいつもネネの活躍を見てるから」
「うん、ありがとう」
「……そのうち、離れなくて済む方法も見つかるかもな」
「それって……結婚とか?」
試すように言うと、レオは少し間を置いて笑った。
「さあな。可能性は探してみるか」
拍子抜けするほど、いつも通りの声。
でも——それでいいと思えた。
生きている。
想いが通じている。
それだけで、今は十分だった。
わたしは、その紫の瞳から目を離せなかった。




