14-12. 代償を分かつ者
魔物との契約解除の日程が決まった。
致死量の血を捧げずに済む方法はないか。
魔法でも守れないのか——。
ありとあらゆる手段を探し尽くしても、辿り着く答えはひとつだった。
その残酷な現実が、部屋の空気までも重く押し沈めていく。
レオはもう、自分が代償を払うと決めている。
誰かが犠牲になるのなら——その誰かは自分であるべきだと。
運命の瞬間が迫る中、ただ祈るように時間だけが過ぎていく。
その静寂を破ったのは、レオの従者・ハオだった。
「……俺はレオの番だ。代償を、俺も一緒に背負う」
空気が一瞬止まった。
致死量の血を二人で分け、生存率を少しでも上げる。
——その提案がどれほど危険か、誰もが理解していた。
聖獣の“番”である主人同士は、魂が深く結ばれる。
片方の命が揺らげば、もう片方も察知するほどの強いリンク。
その力を契約解除の瞬間に発動させようというのだ。
しかし、それが
“血を半分にできる” のか、
それとも “二人とも致死量を失う” のか——
誰にもわからない。
「ハオ……その案は考えた。けど、危険すぎる」
レオの声は静かだった。覚悟と現実を見据えた声。
だがハオは、一歩も退かない。
「危険なのはわかってる。
でも……何もしなくて、レオが死んだら……俺は一生、自分を許せない。
だからやらせてくれ。
——これは俺にしかできない」
震える声だった。
その真っ直ぐさが胸に刺さる。
長い沈黙の後、レオが立ち上がった目を向けた。
「……ハオは、ダメだと言っても、やるんだろ」
「やる」
短い言葉に、鋭い覚悟が宿る。
視線が交わり、数秒が永遠のようだった。
そして——。
「……ハオ、ごめんな。俺の番になったばかりに……
でも、力を貸してくれ。頼む」
「当たり前だ。
俺は……レオのためにやるんだ」
契約解除まで、あと三日。
——どうか二人が助かりますように。
——どうか、この残酷な契約が無事終わりますように。
*
契約解除当日。
サーラーンとバレンシャンの魔法師・医療班が見守る中、儀式は始まった。
大きな紫色の魔方陣の中心に、横たわるレオとハオ。
致死量の血を失えば、立っていられるはずがない。
解除中はヒールも防御魔法も効かない。
そのため、医療班がすぐ近くで待機していた。
二人の上には魔法による“血量計”が浮かんでいる。
体内の血液量を数字で示す魔法だ。
——12時の鐘が鳴る。
レオとハオは同時に、解除の呪文を唱えた。
黒く禍々しい十体の光が魔方陣に浮かび、
やがてひとつにまとまり、赤黒い渦が脈打つように光り始める。
その異様な光に目を奪われた瞬間——。
「……っ」
かすかな苦鳴が、耳を刺した。
二人の顔からみるみる血の気が失われ、震えが走る。
体温が下がっている——でも、温める魔法は使えない。
紫の渦へ吸い込まれるように、二人の体から
細い“血の糸” がすーっと伸びていく。
私は無意識に拳を握りしめていた。
ただ見ているしかできない自分が、苦しくて仕方がない。
医療班が駆け寄り、原始的な方法で二人の体を温め始める。
それでも、二人の顔の冷え切った肌の上に冷や汗が滲む。
数字は——23.7%。
致死量にはまだ届かない。
でも、体内の血の四分の一を失っている。
私はレオに向かって走り出そうとした。
「ネネ、ダメだ!」
ぐっと腹のあたりを押さえられ、引き戻された。
お兄様だ。
その声で、ようやく自分が衝動にかられていたことに気づく。
「でも……レオが……っ」
胸が痛くて、息が苦しい。
涙が溢れて止まらない。
「気を失ったぞ!」
医療班の声。
見ると、ハオが完全に意識を失っていた。
周囲から小さな悲鳴が漏れる。
——どうか。
——どうか二人とも助かって。
数分が、永遠のように長かった。




