14-10. 光が暴く、終焉の王政
「さぁ、今こそ私の力で世界を牛耳るのだ!」
バレンシャン国王の叫びが、会場全体を震わせた。
わたしたちLUMINAはバレンシャンでの公演で、国王が事件を起こすことを事前に聞かされていた。
「父上、おやめください。魂を悪魔に売る時代は……もう終わりです」
漆黒のドラゴンの背から、レオハルド王子が必死に訴える。
しかし国王は笑うだけだった。
「レオハルドよ、わしは魂など売っておらん。これは——わしが長年求め続けてきた“力”なのだ」
その瞳は鈍い紫光を宿し、生きた魔石のように冷たく濁っている。
笑みは喜びではなく、壊れた執念が漏れ出した狂気の笑み。
「さぁ、始めるのだ!」
ステージ上に次々と魔法陣が浮かび、青紫の光が噴き上がる。
わたしたちメンバーはすぐにステージの上から退散した。
その魔方陣の紋様……ハオと調べた禁断魔法陣に似ている。
胸がざわつく。
これは——魔物を強制的に召喚し、操るための魔方陣…?
民衆は悲鳴を上げ、逃げ惑い、応戦する者もいる。
だが、安全を守るべきバレンシャン騎士団は動かず、ただ国王の背後に立っているだけだった。
あれ…?
騎士団まで…国王側……?
レオ、どうするの——。
魔法陣から巨大な魔物が姿を現した。
赤い眼光、胸に埋め込まれた黒い魔石。
レオが言っていた——この魔石こそ、操られている証拠。
魔物たちの異様な気配に、人々は金縛りにあったように動けなくなる。
その時——。
ひとりの観客が震える手でペンライトを掲げ、『Hope』を歌い始めた。
小さな声。
でも、確かな光。
そうだ。
わたしたちは恐怖に屈しない。
陰の中にいるときこそ、陽の光を探し出すんだ。
わたしは胸に手を当て、今いるところから魔法を放つ。
希望の光は観客だけでなく、魔物にも、騎士団にも、国王にも届くはず。
恐怖に飲まれた心に、ほんのひと雫でも光が射し込めば——。
「みんな!口ずさんで!歌えるってことは、心がまだ生きてる証拠だから!怖くても、歌って!」
わたしたちLUMINAも声を合わせた。
最初は小さな合唱が、次第に会場全体を包む大きなうねりへと変わっていく。
歌声がひとつになり、恐怖を押し返していく——。
「そんな歌が効くわけがないわ!」
国王は怒り狂い、魔物に攻撃を命じた。
魔物の口に魔力が集まり、光が収束する。
観客の目に絶望が映る。
あと数秒……もう間に合わない——。
「上に花火を放て!!」
レオハルド王子が叫んだ瞬間、魔物たちは方向を変え、魔力を空へ放った。
花火のように、青空でぱん、と爆ぜる魔力。
国王が動揺し、目を見開く。
「な……なぜだ!わしの命令を無視しているというのか!」
魔物たちはレオハルド王子のほうへ飛んでいき、整列した。
その瞬間、バレンシャン騎士団は国王をさっと取り囲んだ。
「どういうことなの……?」
わたしの胸が高鳴る。
魔物は国王の命令ではなく——レオの命令に従っている。
王子が静かに右手を掲げる。
「伝令魔法を放て!」
空に文字が浮かび上がる。
『あなたの時代は終わった』
会場がざわめきで揺れる。
国王の顔色が青ざめ、唇が震える。
「父上、聞いてください」
レオハルド王子の声は震えていなかった。
覚悟の声だった。
「わたしは父上を傷つけるつもりはありません。ですが——もう争いの時代は終わらせたい」
観客から声が上がる。
「レオハルド王子だ!王子が国を救ってくれた!」
「国王は、もう……終わりだ!」
国王は怒りに震え、叫んだ。
「許さんぞ……レオハルド!」
「わたしこそ、許しません」
王子の目には涙ではなく、強い決意が宿っていた。
「情報操作、争いの扇動、軍事産業の独占、不正の数々……証拠はすべて揃っています。父上を法に則って逮捕します」
騎士団が動き、国王へまた一歩詰め寄る。
「わしの魔物が……なぜ動かん!血の契約はわしのはず……!」
「血の契約は、わたしが上書きしました」
国王の瞳が揺れる。
「まさか……お前が……?」
「はい。そして……契約は解除します」
「何を言っている!解除には致死量の血が必要だ!ヒーリングも魔法も効かん。その代償は——」
「承知しています」
王子の声が、静かに震えた。
——命を賭けても、この国を変える。
その覚悟が、すべての言葉に滲んでいた。
国王の膝が崩れ落ちる。
「わしはこの契約を解除するつもりはなかった。だから代償のことなんて考えていなかった……」
少しの沈黙のあと
「これがわたしが選んだ道です」
覚悟の灯る目でレオハルド王子はまっすぐ国王を見つめた。
「わたしはあなたを許しません。けれど——命は奪わない。戦えば、また憎しみを生むからです」
国王は全てを失ったように肩を震わせた。
わたしは拳を握りしめる。
胸が痛くて、苦しくて、涙が出そうだった。
——全部、自分ひとりで背負おうとして。
私には『心配しないで。安心して。すべてうまくいくから』なんて言っていたのに…
——そんなの、絶対に許さない。
わたしは心の中で固く決めた。
レオを、絶対に死なせない。
どんな未来になっても、そばで支える。
それが……わたしの覚悟だ。




