14-9. ハオ視点:禁断の契約、選ばれし継承者
父上はついに——
“意思を持った魔物” を操る禁断魔法へと手を伸ばした。
その魔法の核心は、人間と魔物を融合させるという、おぞましい術式。
人間の心が闇に支配されたとき、魔物の波動と同調し、一体化してしまう——
黒魔法を学んでいた頃、フェル先生に勧められて読んだ
『エテ・コリントスの禁断書』に書かれていたものと、まったく同じだ。
だが当時は「偶然の条件が重なっただけ」とされていた現象。
…父上は、その“条件”を解き明かしてしまった。
そして今、人間を魔物へと変質させる術を再現し、
さらにはその“新たな魔物”と血の契約を結ぼうとしている。
しかも一体ではない。
まずは十体——。
胸の奥で何かが軋んだ。
俺は王族にのみ伝わる古代変身魔法を使い、
小さな虫となって“血の契約の儀式”へ潜入した。
◆
薄暗い広間。
床の中央に、青紫の光がぎらつく巨大な魔方陣。
父上と側近、護衛騎士たちがその周囲を取り囲んでいる。
魔方陣を見つめる父上の眼光は、
……もう人のものではなかった。
「父上は……どこまで行くつもりなのか」
俺が声に出さなかった問いは、胸の奥に沈み続けた。
止められなかった自分への悔しさも、どうしようもなく湧き上がってくる。
——今、俺にできることは何だ?
◆
後日。
父上の書斎へ忍び込み、俺は厳重に保管された契約書に触れながら、自問した。
「…俺はどうしたい?」
何度もこの問いを繰り返してきた。
だが、答えはいつも同じだ。
——大切な人を守るために、恐怖政治を終わらせる。
それが、俺が選んだ道。
父を倒す。
その選択肢は一度も考えなかった。
サーラーンで聞いた“戦ってはダメだ”という言葉が、胸に稲妻のように走ったからだ。
戦えば、次の憎しみを生む。
どれほど悪事を重ねた者であれ、命を奪う道だけは選ばない。
だが、魔物との血の契約を解除するには、
——致死量の血液を失うという代償が必要。
それは魔法でも防げない。
父上に“償わせる”こともできた。
だが、それは俺が望む未来とは違う。
禁断魔法を調べ続けているうちに、一つの可能性にたどり着いた。
『契約は……上書きできる』
ただし、条件はひとつ。
契約者と血縁であること。
つまり——
俺にしかできない。
父上は支配を続けたい。
俺は恐怖政治を終わらせたい。
願う未来はまったく違う。
そして、その選択の責任は俺が取るべきだ。
——俺が禁断契約を上書きし、解除する。
その代償を、俺が支払う。
父にも、弟にも背負わせる気はない。
◆
静かに深呼吸し、俺は魔方陣の中央へ歩み出た。
薄紫の光が、足元からじわりと皮膚を刺す。
まるで俺の覚悟を試すかのようだ。
ここで一滴の血を流した瞬間、
もう後戻りはできない。
「……行くぞ」
息を鋭く吐き、俺は自らの肌に刃を当てた。
小さな傷から、赤い滴が光に落ちた瞬間——
魔方陣が激しく脈打ち始めた。
扉が開く音。
運命の歯車が。




