14-7. ハオ視点:LUMINAへの願い
後日、俺はネネと共にアイドル事務所を訪れた。
LUMINAのメンバーたちに、直接協力をお願いするためだ。
通常、ワールドツアーの開催を決めるのは事務所側だ。
その国での人気度、観客動員数、会場の確保、そして利益——
様々な要素を天秤にかけたうえで判断が下される。
アイドルたちはその決定に従うのが一般的だった。
だが、俺はどうしても、自分の口で先に伝えたかった。
それが、正体を偽っていた俺にできる、せめてもの誠意だと思ったから。
「…レオ、もしかして、緊張してる?」
ちらっと俺の顔を見上げ、ネネが心配そうに尋ねてくる。
「ああ、緊張してる。でも、自分の言葉で想いを伝えるだけだ。」
「そうだね。……レオなら、大丈夫だよ。」
ネネは、俺が“ハオ”ではなく“レオハルド”だと知ってから、
一生懸命「レオ」と呼ぶように意識してくれている。
名前を呼ぶ前に少し間が空くのが、可愛くて仕方ない。
……そうだよな。
ネネにとって、俺はずっと“ハオ”だった。
ハオという名で生きてきた日々が、俺にとってもどれほど大切だったか。
それは、決して切り離せない時間だ。
そんな想いを抱きながら、気づけばLUMINAのメンバーが待つ部屋の前まで来ていた。
さあ——
今は、目の前のことに全力を尽くすのみ。
「本日は、貴重なお時間をいただきありがとうございます。
以前、ネネの護衛、“ハオ”として正体を偽っていましたが……
私はバレンシャン王国第一王子、レオハルド・バレンシャンです。」
ネネから話を聞いていたのだろう。
メンバーたちの表情に動揺はない。
むしろ、静かに受け入れてくれていることに、胸が少し楽になった。
「今回、LUMINAの皆様に——協力をお願いしに参りました。」
一息置き、言葉を続ける。
「LUMINAの歌を通じて——エネルギーを、希望を、
バレンシャン全国に届けていただけないでしょうか。」
静寂が場を包む。
彼女たちの瞳が揺れているのが見えた。
寝耳に水だったのかもしれない。
ヒヨナは俯き、ドロテアは腕を組んだまま、じっとこちらを見つめていた。
「……それは、バレンシャンでもう一度公演を行う、ということですか?」
リーダーのユーナが慎重に問いかける。
「はい。LUMINAに、ぜひ来ていただきたいのです。」
これは、俺の心からの願いだ。
ユーナは静かに頷き、真剣な眼差しでこちらを見据えたまま、口を開いた。
「……気持ちは、しっかり伝わりました。
でも、それでもなお、ひとつだけ聞かせてください。
どうしてそこまで……私たちの歌が必要なんですか?」
「バレンシャンは、ずっと情報操作の中にあります。
音楽も例外ではありません。
サーラーンに留学したことで、俺はこの国の音楽の美しさ、明るさに驚かされました。
特にLUMINAの歌は、希望のエネルギーに満ちている。」
想いが自然と口をついて出るのは、それだけ願いが強いからだろう。
「バレンシャンの人々は、今も恐怖と隣り合わせの生活をしています。
国民同士を争わせ、恐怖で支配する——それが、今の王政の実態です。
俺は、それを終わらせたい。
この国を、光と希望に満ちた場所にしたい。
だからこそ、LUMINAの音楽の力を借りたいのです。」
ユーナは、静かに頷きながら話を聞いてくれていた。
けれど、ヒヨナの表情はまだ晴れない。
「……国民が恐怖と隣り合わせということは、安全な国とは言えないということですよね?
私たちの歌を届けたい気持ちはあるけど……
正直、怖いです。前に起きたような襲撃事件が、また起きたら……」
震える声。
ヒヨナは、あの時の記憶にまだ怯えているのだろう。
「その気持ちは、当然です。
怖いと感じるのは、むしろ自然なことです。」
俺もその不安を、軽く捉えてはいない。
「以前の襲撃事件をもう一度繰り返すことはあってはなりません。
だからこそ——もしLUMINAが来てくださるなら、同じ状況にはしません。
ステージには透明の結界を張り、バレンシャン軍とサーラーン軍の合同警備を組みます。内部事情なので詳しくはお伝え出来ないのですが、以前のライブ時よりも強力な守りになります。万全の警備体制を整え、命に代えてでもお守りすることを、ここに誓います。」
沈黙を破ったのは、ずっと無言だったドロテアだった。
「……一度、考える時間をいただけますか?
急な話ですし、私たちの中でもきちんと話し合う必要があります。
何より、以前事件があった国というのは、すぐに決断しづらいです。」
「もちろんです。
本日は、お時間を割いてくださり、ありがとうございました。
お話し合いが終わりましたら、ぜひご連絡ください。」
そう言って、俺は部屋を後にした。
廊下に出た瞬間——
心の中に、あの人の声が響いた。
『ネネたちは歌で民衆を動かし、
レオハルド王子は国政から動かす。』
ソランティア様の言葉が、胸の奥に深く刻まれる。
大切な人も、バレンシャンの国民も。
誰一人、取りこぼしたくない。
俺は、明るい未来を信じて歩き出した——




