2-6. 仮面の王子と秘密のキャンドルナイト
青春祭の発表が全て終わった。
でも、青春祭のクライマックスはここからだ。
夜はキャンドルナイトのイベントがあるのだ。
みんなで一斉にキャンドルを飛ばすというもの。
一緒にキャンドルをあげた2人は結ばれるとも言われていて、恋のビッグイベントでもある。
わたしはハオを探すけれど、人が多すぎてこんな中で人探しなんて無理すぎる。
空は聖獣に乗って人を探している人もいて、かなりカオスになっている。
こんなことなら、ハオに事前に一緒にしようと伝えておくべきだったー!
もう、わたしのバカバカ!
すると、誰かに手をぎゅっと握られた。
その先に目を向けると、同じクラスの男子生徒シルフィだった。
「ネネルーナ、もしよかったら一緒にキャンドルをあげないか?」
と、照れながら伝えてくれた。
…シルフィ、せっかく勇気を出してくれたのに…
「シルフィ、お誘いありがとう、でも、わたし先約があるの。」
すると、急に横から声がした。
「先約があるの?それは残念」
この声は…
そこにはハオがいた。
やった!
この人混みでハオを見つけることができた。
「シルフィ、ごめんなさいね。素敵なキャンドルナイトを」
「そっか…。じゃあ、ネネルーナ。素敵な夜を」
そう言って微笑むシルフィの横顔がどこか切なげに見えた。
ありがとうと笑顔で手を振り、わたしはハオに体を向けた。
「ねぇ、ハオ、っ」
話をしようとしたら、後ろからぐいっと人混みに押されてハオに抱きつく形になってしまった。
ハオはわたしを抱き止めて、耳元で囁く。
「ちょっと話せるところへ行こう」
「う、んっ」
返事をする前に、ハオはわたしと一緒に転移魔法をした。
ついた先は、屋上のそのまた上の、魔法学校の屋根の上だった。
こんなに高いところに連れてこられると思っていなかったから、思わずハオに抱きついてしまう。
「ねぇ、ハオ!こんなところに来るなんて聞いてない」
ぎゅーっと抱きつくと
「大丈夫だよ、落ちないから。」
とそっとわたしを引き離した。
「みて!」
ハオばかり見ていたけれど、ハオを指の先を見てみると、学校が一望できるところだった。
「綺麗…」
と生徒一人一人がもつキャンドルの灯りを眺めていると、キャンドルが一斉に空へ舞っていく。
キャンドルナイトが指定の時間になったみたいだ。
キャンドルの明かりが夜空に吸い込まれるように、静かに浮かび上がっていく。
その光を見ながら、わたしの心もふわりと浮かびそうだった。
「それで、先約って誰?」
とハオが聞いてきた。
「先約?もちろん、ハオだけど?」
何を当たり前のことを聞いているの?という気分になった。
ハオ以外いるわけないじゃん。
「は?先約って俺?約束してたっけ?」
とぼけて聞いてくるところが可愛いなと思ってしまった。
ハオはわたしより年上なのにね。
こうしてハオと話ができることが嬉しい。
「そっか、じゃあ、このままここで見るか。」
と腰を下ろすハオの横に、わたしも座らせてもらった。
隣にいるだけで、わたしの心臓がうるさい。
「実はね、わたしのお母様とお父様もこの学校の卒業生なの。2人も屋根の上でキャンドルを飛ばしたって言ってたわ。」
「そんな大切な場所に、来ちゃって良かった?」
ハオの言葉を聞いて、優しい人だなと思った。
そして、ハオの転移場所のチョイス、良すぎる!と思った。
でも、待って…転移魔法は場所がわかってないと転移できない。ってことは…
「ハオはこの屋上来たことがあるってこと?」
と不思議に思って尋ねた。
「あるよ、この前たまたま俺の聖獣と一緒にきた。」
この屋上…本当に”たまたま”来たの?
わたしの中に疑問が浮かぶ。
「そうだったんだ。ねぇ、ハオの聖獣ってどんなの?」
「聖獣、あんまり見せないようにしてるんだよね。」
「え?それはなんで?」
聖獣を見せないようにする、何か理由があるのかな?
「……まあ、特に意味はないんだけど…」
「意味ないの?だったらぜひ見せてよ」
お願いしてみると、私たちの周りに虹色ベールをかけ始める。
周りから姿が見えなくなる魔法だ。
そして、しぶしぶな感じで聖獣を召喚してくれた。
闇に溶け込むような漆黒の鱗をもち、宝石のように透き通った紫色の瞳を持つドラゴンが目の前に現れた。
「…え…?」
わたしはドラゴンのアメジストの瞳に心が囚われたような感覚になった。言葉を失ってしまった。
紫の瞳、どこかで見たことがあるような……
なんて綺麗なのかしら…
あ、そうだ…!お母様もアメジストが好きって言ってた。
「…ドラゴンがハオの聖獣…?珍しいね!これは、本物のドラゴンじゃなくて、聖獣のドラゴンなのね?」
「うん、そう。…まあ、確かに珍しいかも…?!」
ハオは急に歯切れが悪くなる。
そんなに頑なに聖獣を見せたくない?
「俺の聖獣、珍しいかもだけど、あまり周りの人に言わないでくれる?俺たちの秘密ってことで」
私たちだけの秘密って、なんていい響きなのかしら!
悔しいが、ハオはわたしの扱い方がわかってきている…
わたしももっと頑張るぞ!と謎の気合いが入る。
「ところで、なんでわたしを誘ってくれたの?」
ハオがわたしを連れ出してくれたのがとても嬉しかった。
「ネネルーナのライブ中、『観ててね』って俺に伝達魔法を送ったよね?」
「それ、気づいたんだね!わたしのこと観ててくれた?」
このままハオといい感じになれるのかな…?
そんな、ちょっと浮かれた期待に、胸をふくらませていた。
わたしはまだ知らなかった。
このあと、その期待に冷や水を浴びせられるなんて——。
本日21時にもお会いしましょう!




