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彼女が祟りに堕ちた日から、俺は祓師になった  作者: なぽりまん
人生の終わりと祓師のはじまり
9/21

彼女との再会


特災庁地下、観察棟の監視室。


京弥は冷静な目でモニターを見つめていた。


隣の試験室では、晃太郎が落ち着かない様子で椅子に深く腰を下ろしている。

彼の頭部には、つい先ほど最新鋭のVR祟感試験装置が装着されたばかりだった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


無数の有線ケーブルと無機質な電子音が不安を掻き立てる試験室。


VRゴーグルを装着した俺は、ただ一人、その闇の中心に立っていた。


手足は拘束されていない。逃げ道もない。

ただ、眼前にある“何か”を、見極めなければならない。


それが、この試験のすべてだった。


──しん、と空気が沈む。

どこからともなく、白い霧のようなものが足元に湧いてきて、床を這っている。


そのときだった。


ろうそくの火が灯るように、ふっ、と人影が浮かび上がる。


見覚えのある制服。肩までの長い黒髪。

微笑みながら、その人影は晃太郎の名を呼んだ。



「やっと来てくれたね、晃太郎くん」


息を呑んだ。

その姿を何百回、何千回、夢に見たか。



「……皐月?」


喜びで声が上擦っているのが自分でもわかる。



だが──何かがおかしい。



目の色が、暗すぎる。声にノイズが

なのに、その笑顔だけが記憶のままで余計に傷口をえぐった。


「もう、助けてくれるって言ったのにさ」


「っごめん皐月!俺ほんとに何もできなくて……っ!!」


「いいよ。……ねぇ、ここは冷たくないし、怖いくもない。一緒に来てよ、晃太郎くん」


ふわり、と包むような笑顔で、こちらに手が差し伸べられる。

俺の指先は、その手を追うように動いた。



後悔。罪悪感。

そして、救いたかったという願い。



その声の主が本物の皐月であってほしいと、心のどこかで願ってしまう自分がいた。



(ああ、本当にずるい)


けれど、それでも──



俺はゆっくりと、足を踏み出す。

震える膝を押し殺して、目の前の“ソレ”に近づいた。


「……お前は皐月じゃない」


やるせない怒りを抑えながら、目前の誘惑を断ち切るように語気を荒らげた。


俺の顔を覗き込む“ソレ”が、わずかに首を傾げる。


「皐月は……そんなふうに俺を誘わない。あいつは俺の弱さにつけ込んだりしない」


苦しくても、信じるよ。

皐月の声を、言葉を、強さを。


だからこそ──これは、違う。



その瞬間、空間が揺らいだ。

霧が裂け、幻影が雪のように溶けていく。


最後に見えた皐月の顔は、どこか寂しそうで、どこか満足げでもあった。


いや、それすら俺が脳内で作り出した幻だったのかもしれない。



試験室は再び沈黙を取り戻し、俺はその場に膝をついた。汗が額から滴り落ち、荒い呼吸が静まり返った空間に響く。



“──精神共鳴率、異常なし。

適性確認。祟感耐性試験、通過。”


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


監視室のモニターには、被験者の脳波や心拍数のデータが映し出されていた。


晃太郎を祓師に推薦した当人である京弥は、無言でそのモニターを見つめた後、静かに呟く。


「……よく、やった。折笠」


その険しい横顔には、喜びと少しの苦悩が混じっていた。

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