彼女との再会
特災庁地下、観察棟の監視室。
京弥は冷静な目でモニターを見つめていた。
隣の試験室では、晃太郎が落ち着かない様子で椅子に深く腰を下ろしている。
彼の頭部には、つい先ほど最新鋭のVR祟感試験装置が装着されたばかりだった。
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無数の有線ケーブルと無機質な電子音が不安を掻き立てる試験室。
VRゴーグルを装着した俺は、ただ一人、その闇の中心に立っていた。
手足は拘束されていない。逃げ道もない。
ただ、眼前にある“何か”を、見極めなければならない。
それが、この試験のすべてだった。
──しん、と空気が沈む。
どこからともなく、白い霧のようなものが足元に湧いてきて、床を這っている。
そのときだった。
ろうそくの火が灯るように、ふっ、と人影が浮かび上がる。
見覚えのある制服。肩までの長い黒髪。
微笑みながら、その人影は晃太郎の名を呼んだ。
「やっと来てくれたね、晃太郎くん」
息を呑んだ。
その姿を何百回、何千回、夢に見たか。
「……皐月?」
喜びで声が上擦っているのが自分でもわかる。
だが──何かがおかしい。
目の色が、暗すぎる。声にノイズが
なのに、その笑顔だけが記憶のままで余計に傷口を抉った。
「もう、助けてくれるって言ったのにさ」
「っごめん皐月!俺ほんとに何もできなくて……っ!!」
「いいよ。……ねぇ、ここは冷たくないし、怖いくもない。一緒に来てよ、晃太郎くん」
ふわり、と包むような笑顔で、こちらに手が差し伸べられる。
俺の指先は、その手を追うように動いた。
後悔。罪悪感。
そして、救いたかったという願い。
その声の主が本物の皐月であってほしいと、心のどこかで願ってしまう自分がいた。
(ああ、本当にずるい)
けれど、それでも──
俺はゆっくりと、足を踏み出す。
震える膝を押し殺して、目の前の“ソレ”に近づいた。
「……お前は皐月じゃない」
やるせない怒りを抑えながら、目前の誘惑を断ち切るように語気を荒らげた。
俺の顔を覗き込む“ソレ”が、わずかに首を傾げる。
「皐月は……そんなふうに俺を誘わない。あいつは俺の弱さにつけ込んだりしない」
苦しくても、信じるよ。
皐月の声を、言葉を、強さを。
だからこそ──これは、違う。
その瞬間、空間が揺らいだ。
霧が裂け、幻影が雪のように溶けていく。
最後に見えた皐月の顔は、どこか寂しそうで、どこか満足げでもあった。
いや、それすら俺が脳内で作り出した幻だったのかもしれない。
試験室は再び沈黙を取り戻し、俺はその場に膝をついた。汗が額から滴り落ち、荒い呼吸が静まり返った空間に響く。
“──精神共鳴率、異常なし。
適性確認。祟感耐性試験、通過。”
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監視室のモニターには、被験者の脳波や心拍数のデータが映し出されていた。
晃太郎を祓師に推薦した当人である京弥は、無言でそのモニターを見つめた後、静かに呟く。
「……よく、やった。折笠」
その険しい横顔には、喜びと少しの苦悩が混じっていた。