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彼女が祟りに堕ちた日から、俺は祓師になった  作者: なぽりまん
人生の終わりと祓師のはじまり
7/21

憧れは復讐心から

 

 アーケードから差す木漏れ日が、歩く足元に小さな斑点模様を作っている。夕暮れの商店街は、いつもより少しだけ人通りが多かった。



 そんな中、俺は一人、肩を落としながら無意識に歩幅を狭める。


 心の奥に渦巻くのは、言葉にできない焦燥と虚無感。


 彼女を失ったという絶望が、胸を締めつけた。



「俺は、俺は……」


 何度も自問するが答えは出ない。

 ただ家に帰るだけ道が、今は果てしなく遠く感じられた。


 ──なんだか騒がしい。

 前方の人波がざわついている。


 すると突然、ふらふらと揺れていた男が地面にうずくまった。



「大丈夫ですか!?」


 思わず声を張り上げ、胸を押えながら呻く男性の肩を揺する。しかし、その身体は人とは思えないほど冷たかった。



(なんだろう、胸騒ぎが──)


 顔色を伺おうと顔を覗き込むと、男の瞳は、


 すでに “真っ黒” に染まっていた。



「……ッ!!」


 胸騒ぎの正体に気付いたころには、男は動物の鳴き声のような低い唸り声を漏らしながら、勢いよく飛びかかってきた。


 間一髪、咄嗟に身をかわし、手で払いのける。が、ひと息付く間もなく、男は自我を失ったように迫ってきた。



「くっそ、なんなんだよ……!」


 逃げるように男の体の隙間をくぐり抜けると、肉が腐ったような生臭さが鼻をつく。

 その生々しい臭いに、これが現実だとまざまざと思い知らされるようだった。



「や、やめ……っ!」


 心臓が激しく脈打ち、呼吸は乱れ、背筋には冷たい汗が流れる。逃げるように後ずさりすると、背中にトン、と硬いものが当たった。


 それが壁だと気が付いたときには、男の息がかかるほど眼前に迫っていて──



(ごめん、皐月。俺もそっちに行くから……)


 ゆっくりと目を瞑り、体の力を抜いてそっと死の覚悟を決めた。


 目の前の男が俺に触れようとする気配を感じたその瞬間、脳裏に見慣れない光景が浮かんだ。




 ──雑然とした部屋。怒号。

 止まない電話のベル。ここは……会社?

 まるで自分がそこにいるかのような、そんな錯覚が胸を締めつける。

 晃太郎は意味も分からず、ただその感情の重さに圧倒されていた。




「なんだ、今の……」


 身に覚えのない記憶に狼狽えていると、目の前からは息の根を止められたような苦悶の声が漏れ始めた。



「…うぁ…がぁぁ……あぁぁあ……!」


 男は息苦しそうに首を押さえながら、まるで全身を焼かれたかのようにのたうち回っている。



「え、俺まだ生きてん、の?」


 確かめるように手のひらを何度か開閉すると、そこにあるのは、見慣れた”自分の手”だった。



 瞬間──耳元で微かに感じる振動と目の前を横切る風。



「……折笠、無防備すぎるぞ」


 その風の正体が旬祢くんだとわかったのは、俺が数回瞬きをしてからだった。


 こちらを一瞥しただけで事態をすべて悟った様子の彼は、すぐさま俺の元に駆け寄ってくる。


「ここからは俺に任せろ。……絶対死ぬなよ」


「そ、そんなの俺に言われても!」


「まあ安心しろ。お前が死んで祟りになったら、俺がお前を祓ってやる」



 この恐ろしい状況下でも余裕そうに口角を上げると、すぐに目の前の異形──男に向き直った。



「大人しくしていたほうが痛みは少ないぞ」


 素早く男の背後に回った旬祢くんが刀を突き刺すと、男の周囲でうごめいていた瘴気が裂ける。


すると叫び声を上げ、そのまま芯が抜けたように地面に崩れ落ちる男。苦悶の表情でのたうつ体からは、瘴気が濁流のように吐き出されていく。

 魂が抜けたように、男は乾いた痙攣を繰り返した。



「折笠、お前は人を守りたいと思うか」


 首だけをこちらに向けて、口元に付いた血を拭いながら発した一言が、俺の意識を現実へと引き戻した。



 守れなかった後悔。救えなかった苦しみ。

 また誰かを失うのは怖い。


 でも何より──もう大切な人を失いたくない。

 


「……守りたい。今度こそ強くなって、自分で人を…守れるようになりたい」


「そうか。なら、俺についてこい」



 旬祢くんはどこか満足気にふっ、と笑みをこぼすと、無言で背を向けた。その背中を見つめながら、握りしめていた拳に再び力を入れ直す。



「自分もこの人のようになりたい」と──

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