これは現実?
「……んんっ、あれ?俺──」
目を開けると、雲ひとつない青空が広がっていた。
土の匂いと、頬に当たる風。
そして木々の揺れる音が耳に届く、絶好の昼寝日和だ、
「寝て、た…?夢?」
「起きたか」
「え……旬祢くん?なんでここに?」
クラスメイト──でも、特別仲が良いかと言われると数秒考えるくらいの関係なはず。戸惑いながら視線を泳がせると、彼は校舎の陰にもたれかかり、目線を動かさずに答えた。
「窓から抜け出した。俺たちのクラスは……いや、萱島はもう手遅れだった」
「えっ……?」
「あれは“祟り”だ。悪意、未練、呪い、念……取り憑かれたら最後、もう人には戻れない」
「は、え?ちょっと待って、何の話?」
あまりにも現実味のない言葉に、俺は頬をかいて笑うしかなかった。
「無理はない。あの有り様を見たらな」
「え、だってあれは……」
(夢のはずじゃ──)
脳裏を、あの地獄のような教室がよぎる。
皐月が──胸を貫かれ、倒れたあの瞬間が。
(旬祢くんが……皐月を、殺した?)
指先が震える。体に力を込めると俺の体は自然と立ち上がり、目の前で飄々と遠くを見つめる彼の胸ぐらを掴んでいた。
「……っふざけんな! ふざけんなよッ!!」
こんなにも怒りで制御が効かなくなることは初めてだった。感情のままに声を張り上げた。
「祟り?…何だよそれ。わけわっかんねぇよ! なんでアイツが、あんな目に……っ!」
「萱島に取り憑いた祟りは、中位クラス程度。俺にとっては練習台レベルだ」
「……“練習台”?」
「ああ、上には上がいる。国家の崩壊だろうと自然災害だろうと、な」
あまりに冷静な口ぶりに、俺はそれ以上何も言えなかった。言い返す気力も、もうなかった。
手から力が抜けて、自然と離れていく。代わりに、爪が掌に食い込むほど、拳を握りしめた。
「ようやく……好きだって、伝えられたのに」
(皐月が死んだ理由が”練習台レベルのヤツに取り憑かれたから”?——そんなの、納得できるはずがない)
「……っ全部、お前らの世界の勝手な話だろ!」
「かもな」
旬祢くん肩をすくめ、吐き捨てるように言った。
「だが、これが現実だ。お前は見たはずだ。祟りに呑まれる萱島の姿も、俺がそれを斬ったことも」
「っなんで、俺だけ……なんで俺は無事で、あいつは——!」
「折笠、萱島があんな状態になって気が滅入るのはわかる。だが、現実を受け入れろ」
「……くそッ」
今まで生きてきた十数年で、この世界のことを知りつくした気になっていた。
でも、実際は何も知らなかった。
守るどころか、止めることすらできなかった。
「折笠。多分お前は普通じゃない」
「……は?」
「お前の周囲には瘴気が近寄らなかった。それどころか影響すらなかった。普通の人間なら即死。だが、お前は生きてる」
「……どういうことだよ」
「お前には祟りへの耐性がある」
一瞬だけ、旬祢くんの目が揺れた気がした。
あの冷たい視線の奥に、なにか別の感情が滲んでいるような。
「調べるてみる価値はある」
「そんな勝手に……俺はもうあんな思いは——!」
「萱島の死で、お前は《《こっち》》の世界に片足を突っ込んだ。その意味がわかるか?」
木々のざわめきだけが響く中、俺はその場に立ち尽くすしかなかった。




