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彼女が祟りに堕ちた日から、俺は祓師になった  作者: なぽりまん
人生の終わりと祓師のはじまり
6/21

これは現実?


「……んんっ、あれ?俺──」


 目を開けると、雲ひとつない青空が広がっていた。

 土の匂いと、頬に当たる風。

 そして木々の揺れる音が耳に届く、絶好の昼寝日和だ、



「寝て、た…?夢?」


「起きたか」


「え……旬祢くん?なんでここに?」



 クラスメイト──でも、特別仲が良いかと言われると数秒考えるくらいの関係なはず。戸惑いながら視線を泳がせると、彼は校舎の陰にもたれかかり、目線を動かさずに答えた。



「窓から抜け出した。俺たちのクラスは……いや、萱島はもう手遅れだった」


「えっ……?」


「あれは“祟り”だ。悪意、未練、呪い、念……取り憑かれたら最後、もう人には戻れない」


「は、え?ちょっと待って、何の話?」



 あまりにも現実味のない言葉に、俺は頬をかいて笑うしかなかった。



「無理はない。あの有り様を見たらな」



「え、だってあれは……」


(夢のはずじゃ──)



 脳裏を、あの地獄のような教室がよぎる。

 皐月が──胸を貫かれ、倒れたあの瞬間が。



(旬祢くんが……皐月を、殺した?)


 指先が震える。体に力を込めると俺の体は自然と立ち上がり、目の前で飄々と遠くを見つめる彼の胸ぐらを掴んでいた。



「……っふざけんな! ふざけんなよッ!!」


 こんなにも怒りで制御が効かなくなることは初めてだった。感情のままに声を張り上げた。



「祟り?…何だよそれ。わけわっかんねぇよ! なんでアイツが、あんな目に……っ!」


「萱島に取り憑いた祟りは、中位クラス程度。俺にとっては練習台レベルだ」


「……“練習台”?」


「ああ、上には上がいる。国家の崩壊だろうと自然災害だろうと、な」



あまりに冷静な口ぶりに、俺はそれ以上何も言えなかった。言い返す気力も、もうなかった。


 手から力が抜けて、自然と離れていく。代わりに、爪が掌に食い込むほど、拳を握りしめた。



「ようやく……好きだって、伝えられたのに」


(皐月が死んだ理由が”練習台レベルのヤツに取り憑かれたから”?——そんなの、納得できるはずがない)



「……っ全部、お前らの世界の勝手な話だろ!」


「かもな」



 旬祢くん肩をすくめ、吐き捨てるように言った。



「だが、これが現実だ。お前は見たはずだ。祟りに呑まれる萱島の姿も、俺がそれを斬ったことも」


「っなんで、俺だけ……なんで俺は無事で、あいつは——!」


「折笠、萱島があんな状態になって気が滅入るのはわかる。だが、現実を受け入れろ」


「……くそッ」



 今まで生きてきた十数年で、この世界のことを知りつくした気になっていた。

 でも、実際は何も知らなかった。

 守るどころか、止めることすらできなかった。



「折笠。多分お前は普通じゃない」


「……は?」


「お前の周囲には瘴気が近寄らなかった。それどころか影響すらなかった。普通の人間なら即死。だが、お前は生きてる」


「……どういうことだよ」


「お前には祟りへの耐性がある」



 一瞬だけ、旬祢くんの目が揺れた気がした。

 あの冷たい視線の奥に、なにか別の感情が滲んでいるような。



「調べるてみる価値はある」


「そんな勝手に……俺はもうあんな思いは——!」


「萱島の死で、お前は《《こっち》》の世界に片足を突っ込んだ。その意味がわかるか?」



 木々のざわめきだけが響く中、俺はその場に立ち尽くすしかなかった。

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