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彼女が祟りに堕ちた日から、俺は祓師になった  作者: なぽりまん
人生の終わりと祓師のはじまり
21/21

同期はチャラ男と京都人お嬢様!?


廊下に出た途端、俺は大きく息を吸い込んだ。


「……なんか、心臓握られてるみたいだった……」


思わず小さく漏らすと、後ろでドアが閉まる音がした。隣を歩く旬祢くんが、淡々とした声で言う。


「蘆屋主任はあんなもんじゃないぞ。あれはまだ“幼稚園児相手”レベルだ」


「えっ、あれで……?」


背筋が冷える。あれが“幼稚園児”なら、高校生の俺なんかどうなってしまうんだ。


「機嫌が悪いときなんか、目線だけで職員一人くらい黙らせるからな。慣れない新人は泣くぞ」


「いや泣くだろ……俺も半分泣いてたよ……」


俺たちは顔を合わせて苦笑し合った。重苦しかった会議室の空気が、少しずつ抜けていくのを感じる。


「でも……ああいう人が前線を見てるんだなって。人を守るって、ああいうことなんだろうな、って思った」


口に出してから、自分でもちょっと偉そうなことを言った気がして気恥ずかしかった。

けど、旬祢くんは横目で俺を見て、うっすら笑みを浮かべる。


「肝が据わってるな。新人の割には」


「まあ、覚悟だけはしてきたからね」


「……なら大丈夫だ。お前はここで生き残れる」


短い言葉だったけど、妙に重みがあった。胸の奥が少しだけ熱くなる。


そのまま廊下を抜け、階段を上がる。突き当たりの扉の上には、簡素なプレートで【研修室】とだけ書かれていた。


「ここだ。中に入れ。顔合わせだな」


旬祢くんはノックもせずにドアを開けた。どうやら彼にマナーという概念はないらしい。


中に足を踏み入れた瞬間、四つの視線が俺に突き刺さった。

喉がひゅっと鳴る。息が詰まりそうになる。


(やばい、やばい……!めっちゃ見られてる……!!)


部屋はさっきの会議室より一回り小さい。だが空気は軽くはなかった。

高そうな椅子に座っていたのは、俺と同じ年頃くらいの男女。


(……この人たちが、欠位候補生……?)


重苦しいわけじゃない。けど、和やかでもなく……

なんとも形容しがたい緊張感が漂っていた。


「こいつが折笠晃太郎だ。さっき登録を済ませたばかりの新人だ」


旬祢くんからの突然の紹介に、俺は慌てて頭を下げた。


「お、俺、折笠晃太郎って言います!よろしくお願いします……!」


一瞬の沈黙。そして──


「よろしく〜。てか、高校生?タメ?」


派手な金髪の少年が勢いよく立ち上がり、俺の前に現れた。

ピアスにネックレス。胸元まで開けたシャツ。チャラい。とにかくチャラい。


「俺は佐渡 頼斗(さわたり よりと)!高2!女の子の好きな部位は──」


「女性がおる前でそないな下品なこと言わんでもらえます?」


鋭い声が飛んできて、頼斗くんは肩をびくりと震わせた。

声の主は、部屋の端に座る黒髪の少女。


艶やかな漆黒のストレート。きりっとした顔立ち。制服もきっちりと着こなしていて、所作の一つひとつに“育ちの良さ”が滲んでいた。


「……え〜、冷たくない? せっかく緊張ほぐそうと思ってさぁ~」


「まぁ、それを緊張ほぐす手段に選ばはるのは、語彙力の問題かもしれまへんなぁ」


棘のある返しにも怯まず、頼斗くんがニヤリと笑う。


「まぁまぁ。初音ちゃんってば、そうやってツンツンしてたら、婚期逃すよ〜?」


その瞬間、少女の額に青筋が浮かんだ。

頼斗くん目掛けて冷ややかな視線が突き刺さり、「あ、これは地雷を踏んだな」と素人目でも理解できた。


「図星突かれて、軽口しか返されへんようなお方に、説得力あらしまへんな」


「うわ〜、刺さる刺さる。言葉がジャックナイフみたいだね〜マジで」


「こんな方と同期やなんて……先が思いやられますわ」


吐き捨てるように言いながら、初音は背筋を正し、俺に向き直った。


「──改めまして、うちは杠葉 初音(ゆずりは はつね)申します」


まるで舞台で礼をするように、椅子に座ったまま丁寧に頭を下げる。動きに無駄がない。


「出身は京都、年は皆さんと同じく高校二年生どす。お見知りおき願えます」


「えっと、よろしくお願いします、杠葉さん」


俺が慌てて頭を下げると、初音は控えめに微笑んだ。


「晃太郎はん、あんさんは……良識がありそうで何よりどすわ」


ちら、と頼斗を横目で見やる。


「──隣の方と違ぅて」


「なんか今、俺にストレートな悪口飛んできた気がする」


「ご自身で思い当たる節があるのなら、うちは何も申せませんわ」


お淑やかににこり、と笑う初音さん。


(……この人、めちゃくちゃ強い)


場の空気をぐっと締めながらも、圧倒的な存在感を放つ彼女に、俺は思わず背筋を伸ばした。

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