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彼女が祟りに堕ちた日から、俺は祓師になった  作者: なぽりまん
人生の終わりと祓師のはじまり
20/21

これが官僚か


特災庁の本庁舎は、鉄とガラスで組まれた威圧的な建物だった。

見上げた瞬間、息が詰まりそうになる。まるで俺の覚悟を試すかのように、冷たくそびえ立っていた。


旬祢くんに案内され、無機質な受付を通過する。職員専用のエレベーターに押し込まれると、心臓がいやにうるさい。


「なんか……緊張するな」

「まあ、そのうち嫌でも慣れる」


辿り着いたのは上階にある窓一つない会議室だった。密室のようなその空間に足を踏み入れた瞬間、空調の音だけが耳につく。

テーブルの上には数枚の書類がきっちり並べられていて、そこにすでに一人の男が待っていた。


「待っていたよ、折笠晃太郎くん」


高級そうなスーツに身を包んだその男は、椅子をこちらへ向け、机の上で手を組んでいる。視線を合わせた瞬間、身が縮むような圧がかかった。


「特別災害対策庁──国家超常事象監視局、異界現象課主任。蘆屋榊だ」


厳かな雰囲気に、思わず背筋が伸びる。


「契約書の説明をする。座ってくれ」


俺は促されるまま椅子に腰を下ろす。旬祢くんは壁際に立ち、何も言わず俺を見ていた。その視線が、不安で押し潰されそうな背中を支えてくれているように思えた。


榊さんは机上の書類を一枚ずつ手元に寄せながら、淡々と読み上げていく。


「祓師として活動するにあたり、以下の規定に同意を求める。第一条──公務における異能行使は、現場責任者の承認を前提とする……」


法律に基づいた権限と責務。異能使用の制限。祓師としての行動規範。

一つひとつの条文が、命を懸ける職務であることを嫌でも突きつけてきた。


「君の適性は高く評価されている。だが……これは命を懸ける契約だ」


榊さんの鋭い視線に射抜かれ、思わず喉が鳴る。静まり返った室内に、唾を飲み込む音が大きく響いた。

まるで心の奥底まで光を当てられいるみたいだ。


「ここに署名すれば、君は“一般人”の折笠晃太郎には戻れない」


一瞬、時が止まる。

机の上のペンに手を伸ばす指先は、わずかに震えていた。


「……わかってます。もう、引き返す気はありませんから」


皐月を失ったあの日から、答えは決まっていた。

救えなかった。何もできなかった。

そんな自分を赦すつもりはない。


だからこそ、この手で守れるようになる。

もう二度と、大切な人を失わないために。


「では、ここに署名を」


ペン先を紙に走らせる。最後に自分の名前を書きつけた瞬間、備え付けの装置がカチリと音を立て、端末のランプが青く光った。


「適合確認。……折笠晃太郎、祓師登録完了だ」


榊さんの淡々とした声に、思わず静かに息を吐き出す。

横目に見た旬祢くんは、わずかに口元を緩めていた。


榊さんは大量の書類を整えると、再び俺をまっすぐ見て、


「これで君も正式な祓師だ。ようこそ、“こちら側”へ」


その言葉の意味を受け止めながら、俺はゆっくりと拳を握りしめた。


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