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彼女が祟りに堕ちた日から、俺は祓師になった  作者: なぽりまん
人生の終わりと祓師のはじまり
18/21

隊長からのお呼び出し


拠点に戻ったあと、それぞれが自分のペースで散っていった。


治療室では、天使さんが無表情のまま自分の指に包帯を巻き直し、ミヒロくんは彩葉さんに「もっと丁寧にやれよ!」と文句を言いながらも、しっかり手当を受けていた。


俺はロビーのソファに深く沈み込み、ただ手のひらを見つめていた。

あの黒い痕跡──残穢(ざんえ)と呼ばれるものが、どうしても頭から離れなかった。


ふと視界に影が差し、顔を上げる。


「おかえり。初任務、無事に終えられてよかったね」


「柊華さん……」


声も、肩に置かれた手も柔らかい。

けれど、さっき言われた「見つかったかもね」という言葉が胸に刺さったままだった。


「……あれ、結局なんだったんですかね」


苦笑まじりに尋ねると、柊華さんはカップを静かに揺らしながら答える。


「“祟りの本流”に気づかれた、ってことだろうね。あいつら、そういうのは──匂いで、すぐ嗅ぎつける」


思わず息をつき、ぽつりと漏らす。


「……まだ実感がないです。でも、胸の奥がずっと熱くて」


「うん。それが“祓師”になるってことだよ。感覚が鈍らないようにね」


そう言って笑う柊華さんの奥に、俺は確かに何か鋭いものを感じ取った。

それでも、その笑顔はあたたかく見えてしまう。


「でもね。初めての現場で、よく頑張ってたと思うよ」


そう言い残し、コーヒーを飲み干した柊華さんは立ち上がって、


「ちゃんと、見てたから」


短い言葉だった。

けれど、それは確かに“認められた”ように感じられた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


家に帰りつくと、ベッドに倒れ込む。

制服のジャケットを放り出し、ポケットからスマホが床に落ちたのも気にしなかった。


(……疲れた)


天井を見ながら、今日の出来事を何度も反芻する。

あの痕跡は、まるで俺に存在をアピールしているようだった。

「お前を見ているぞ」──と、じっと視られているような。


(皐月……もう、あんな思いはさせない)



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


翌朝。学校は、昨日の惨劇なんてなかったかのように“普通”であふれていた。


「おい晃太郎!昨日、先帰ったろ? サボりか〜?」


隣の席の友人が笑いかけてくる。

でも違和感があった。


皐月の席が──ない。


「なぁ、皐月って……」


恐る恐る尋ねると、友人は鼻で笑った。


「皐月? 誰だよそれ」


背筋が凍りつく。

ふざけているのかと疑ったが、周囲の反応もまったく同じ。

胸の奥に冷たい恐怖が広がっていく。


そのとき、カツカツと硬い靴音が教室に響いた。

反射的に振り向くと──


「折笠、ちょっといいか」


神妙な面持ちの旬祢くんだった。眼帯で隠れていない左目の鋭い視線に射抜かれただけで、教室の空気が一気に張り詰める。


「お、おい晃太郎! 旬祢に何したんだよ!?」


友人が慌てて囁く声を最後まで聞くことなく、腕を掴まれた俺の体は旬祢くんへと近づいた。


「……こっち来い」


抵抗する余地もなく、俺は教室の外へと連れ出される。

背後で、クラス全員が息をひそめて俺たちを見送っていた。


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