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彼女が祟りに堕ちた日から、俺は祓師になった  作者: なぽりまん
人生の終わりと祓師のはじまり
16/21

狂人


(一人で待ってるのも怖くないか!?)


その瞬間──


「下がってな、ボウヤたち」


重く低く響く声とともに、爆音のような銃声が空気を裂いた。

弾丸が祟りの触手を正確に撃ち抜き、黒い肉塊が地に落ちる。


「おぉ、やっぱ効くねぇ!“芥弾(かいだん)”は!」


恍惚とした声が頭上から聞こえる。見上げれば、長銃を片手に持つ白衣の男。

銃身からまだ煙が漂う中、肩を鳴らしながら興奮冷めやらぬ様子だった。


「こんな“新鮮な”祟りは素材としても、十分すぎる……!」


白衣の男は頬を歪め、祟りの黒い断面を舐めるように目で追う。


その狂気的な雰囲気に圧倒されていると、タッタッと軽やかな足音。俺の後ろから、弾んだ声が届いた。


「しきみん!ここにいたんだぁ!」


「おや、いてはマズイことでも?」


無邪気に手を振るトワさんに対し、”しきみん”と呼ばれた人物は苦虫を噛み潰したような表情で、しっしっと手を払った。


「あいつが蘆屋 樒(あしや しきみ)。柊華さんが言ってた”異端児”だ。……お前も気をつけろ」


旬祢くんが耳元で囁くように呟く。

そんな小さなやり取りだったにも関わらず、樒さんは「心外だなぁ」と肩をすくめ、再び黒い触手に視線を戻した。


「僕はただ研究したいだけ──この貴重な()()を逃すわけにはいかないんだよ」


ピチピチと跳ねる触手をうっとりと見つめる樒さん。その背後に影が迫っていた。


「危ない!」


反射的に声が出る。周囲の空気も一気に張り詰めた。


しかし、樒さんが振り返る様子はない。

まるで息をするかのように背後に銃口を向け、

その引き金を──引いた。


炸裂音とともに放たれた銃弾は、触手を次々と撃ち抜き地に落ちていく。


あまりの速さに切断されたことすら気づいていないのか、触手は活きのいい魚のように動き続けている。


「さて、これをどうやって持ち帰ろうかな」


恍惚な表情で触手の一欠片を拾い、頬擦りする樒さん。その光景を目の当たりにして、背筋に寒気が走った。


(”異端児”というか、変人……いや、狂人?)



「まったく……いつも危なっかしいよ、樒」


「全てを解明するまで、僕は死ぬつもりはないですが?」


柊華さんが安堵と呆れで目を細める中、樒さんは舌なめずりをしながら得意げに銃を回した。


しかし祟りの湧出は止まらない。

這い上がる影はウジ虫のように増え、瘴気は濃度を増して辺りを覆う。増殖スピードは確実に増加していた。


「キリないだろこれ……っ」


思わず声を上げた俺の前に、小さな影が落ちる。


「いいから黙って下がってて」


「ミヒロくん……?」


俺の前に立ったミヒロくんの足元からは淡い光が浮かぶ。小さな身体を覆うように、虎の幻影が重なった。

重力に逆らうように髪がふわりと持ち上がると、光の中から短剣が現れた。


「 ──封命(ふうめい)裂牙ノ轟(れつがのとどろき)! 」


掛け声と同時に、ミヒロくんの身体が弾かれたように前へ。

稲妻のような踏み込みで触手を裂き、斬り払われた祟りが地を揺らして倒れ込む。


「──速っ!? 」


俺が目を見開く横で、トワさんはにこにこと伸びをしていた。


「んじゃ、トワもいっちゃおっかな〜♪」


軽やかに跳ねたトワさんの掌に、白光の輪刃が現れる。それをくるくると回しながら相手の隙へ──


「──封聴(ふうちょう)跳躍ノ響(ちょうやくのひびき)


頭上から振り下ろした瞬間、勢いのついた輪刃は祟りの頭部を吹き飛ばす。

小柄な体からは想像できない破壊力だった。


「ふふ、今日はいい感じかも♪」


その間を縫って、透さんが軽い身のこなしで高台に向かう。彼の手には冷ややかな光を帯びた白羽の弓。


「旬祢、右から二体。接近。」


「……見えてる」


透さんの指示に応じると、旬祢くんは眼帯にそっと触れる。


「──封視(ふうし)禍祓ノ断(まがばらいのだん)


まるで空を裂くような鋭さで地を蹴った。

その手にはいつの間にか刀が握られている。


「“ヤツの目”──見えた」


祟りの“核”を見抜き、一撃で断つ。

斬撃の余波が瘴気までも断ち切り、旬祢くんは既に次の標的へと身を翻していた。

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