覚醒の予兆
透さんが俺が落ちた穴を覗き込み、その冷静な声が響いた。他のメンバーも即座に臨戦態勢を整えている。
その一連の動きに、一瞬の迷いもためらいもない。
これが“本物”──格の違いを見せつけられた気がした。
「折笠、無事か!?」
誰よりも早く地を蹴ったのは、旬祢くんだった。
穴に飛び込んできた彼は、俺の身体を抱え、壁を蹴りながら地上へと上っていく。
荒く息を吐きながらゆっくりと目を開くと、まだ震える手で胸を押さえた。
今にも胸を突き破って出てきそうな“何か”に、俺は息をごくり、と飲み込んだ。
「何だ、これ?体の中で何かが暴れてる……?」
「……やはり、お前には“何か”があるみたいだな」
旬祢くんの声には強い確信があった。
それが何かを示しているのかわからない。
「まだ未熟で、不安定。制御もできていない。が、お前がこのまま覚醒すれば、いずれ俺たちより──」
その言葉の意味を理解する余裕はなかった。ただ、俺を見下ろす旬祢くんの瞳に、かすかな光が宿っているように見えた。
旬祢くんは、地上に引き上げた俺をそっと床に下ろすと、静かに刀を構える。
「……来い。俺が相手してやる」
その視線の先、俺が落ちた、開いた穴の奥。
深い闇の底から ずるり……ずるり……と、這い上がるような音が聞こえた。
ゴゴゴ……グズ……グズズ……
地の底から黒い瘴気が湯気のように沸き立ち、穴の縁を伝って溢れ出す。この場の空気がじわじわと腐っていくようだった。
次の瞬間──
ずるん。
湿った何かが這いずるように地表へ現れる。
ぬめる黒い影。
無数の指とも触手ともつかない異形の肢体が、地面を這い、ひとつ、またひとつと積み重なっていく。
……その隙間から。
人間のような顔が浮かび、沈み、また浮かぶ。
それはどれも──笑っていた。
「っ……こいつが……!」
反射的に後ずさる。
そいつは声もあげず、ただただ毛虫のように這いずる。
人の形を模しているようで、頭部らしき部位から、爛れた瞳がゆっくりと開いた。
まるで、生まれたばかりの祟りが、この世を舐めるように見ているかのように。
穴から這い出た“それ”は、なおも後続の影を引き連れ、続々と地上へと身を現す──
「数、十数体……いや、もっとか」
透さんが冷静に計測しながら、横たわる俺へと視線を向けた。
「対象者、折笠 晃太郎。戦闘は不可能と判断。後方で待機を」




