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彼女が祟りに堕ちた日から、俺は祓師になった  作者: なぽりまん
人生の終わりと祓師のはじまり
15/21

覚醒の予兆

 

 透さんが俺が落ちた穴を覗き込み、その冷静な声が響いた。他のメンバーも即座に臨戦態勢を整えている。

 その一連の動きに、一瞬の迷いもためらいもない。

 これが“本物”──格の違いを見せつけられた気がした。

 

「折笠、無事か!?」


 誰よりも早く地を蹴ったのは、旬祢くんだった。

 穴に飛び込んできた彼は、俺の身体を抱え、壁を蹴りながら地上へと上っていく。


 荒く息を吐きながらゆっくりと目を開くと、まだ震える手で胸を押さえた。

 今にも胸を突き破って出てきそうな“何か”に、俺は息をごくり、と飲み込んだ。



「何だ、これ?体の中で何かが暴れてる……?」


「……やはり、お前には“何か”があるみたいだな」


 旬祢くんの声には強い確信があった。

 それが何かを示しているのかわからない。


「まだ未熟で、不安定。制御もできていない。が、お前がこのまま覚醒すれば、いずれ俺たちより──」


 その言葉の意味を理解する余裕はなかった。ただ、俺を見下ろす旬祢くんの瞳に、かすかな光が宿っているように見えた。


 旬祢くんは、地上に引き上げた俺をそっと床に下ろすと、静かに刀を構える。


「……来い。俺が相手してやる」


 その視線の先、俺が落ちた、開いた穴の奥。

 深い闇の底から ずるり……ずるり……と、這い上がるような音が聞こえた。


 ゴゴゴ……グズ……グズズ……


 地の底から黒い瘴気が湯気のように沸き立ち、穴の縁を伝って溢れ出す。この場の空気がじわじわと腐っていくようだった。


 次の瞬間──


 ずるん。


 湿った何かが這いずるように地表へ現れる。


 ぬめる黒い影。

 無数の指とも触手ともつかない異形の肢体が、地面を這い、ひとつ、またひとつと積み重なっていく。


 ……その隙間から。


 人間のような顔が浮かび、沈み、また浮かぶ。


 それはどれも──笑っていた。


「っ……こいつが……!」


 反射的に後ずさる。

 そいつは声もあげず、ただただ毛虫のように這いずる。


 人の形を模しているようで、頭部らしき部位から、爛れた瞳がゆっくりと開いた。

 まるで、生まれたばかりの祟りが、この世を舐めるように見ているかのように。


 穴から這い出た“それ”は、なおも後続の影を引き連れ、続々と地上へと身を現す──


「数、十数体……いや、もっとか」


 透さんが冷静に計測しながら、横たわる俺へと視線を向けた。


「対象者、折笠 晃太郎。戦闘は不可能と判断。後方で待機を」

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