表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女が祟りに堕ちた日から、俺は祓師になった  作者: なぽりまん
人生の終わりと祓師のはじまり
10/21

欠位との遭遇


試験室の重たい扉が、ギィ……と鈍い音を立てて開いた。


そこから足を引きずるようにして出た俺は、思うように呼吸が整わず、額を伝う汗を拭う余裕さえなかった。意識はまだ靄がかかっていて、どこからどこまでが現実なのか自分でもわからない。



──ただ、足元に力が入らない。

まるで、全身が鉛に変わったかのようだった。


そんな産まれたての小鹿のような俺があまりに不憫だったのか、壁際に立っていた旬祢くんはすぐに駆け寄ってきた。



「……疲れただろ」


「ははっ……うん、正直想像以上だった」



どうにか言葉を絞り出し、乾いた笑みを浮かべる。まともに笑えていた自信はない。でも、試験を終えたという実感だけは、確かに胸にあった。



「無理はない。あれは精神を一度壊されるからな」


「壊される……?」


不穏な響きを含むその言葉に、俺は思わず顔を上げる。


旬祢くんは嫌な記憶を呼び起こしたかのように眉をひそめ、視線を外すことなく静かに続けた。



「強さを得るには……一度壊す必要がある。自分の限界も、弱さも、見たくない部分もな。通過したことに、誇りを持て」


その声には、これまでにない重みと、どこか“俺自身”への期待が込められているように感じた。


俺は、ただ黙ってうなずくことしかできなかった。

幻とはいえ、皐月を突き放してしまったから。



「……少し、寄り道するぞ」


「寄り道?」


「会わせたい人間がいる。お前にとって、今後きっと必要な出会いになる」



言葉を選ぶような声音と、まっすぐな視線。

それだけで十分だった。俺は小さく頷き、足元のふらつきが残りながらその背中を追った。


エレベーターの前で足を止めた旬祢くんが操作パネルに手をかざすと、機械音が鳴って扉が開く。


中に入ってしばらくして、エレベーターが静かに下降を始めた。



「……この先って?」


「「“D区画” ──欠位専用のフロアだ。ちょうど、集まりが始まっている頃だと思う」」


「く……区画、って何?」


「特災庁はAからFまでのエリアで用途が別れてる。覚えておいて損はない」


やがて、金属音とともにエレベーターが停止する。扉の先には無機質な廊下が広がっていた。


その奥に構えられた鉄扉。まるでここが、世界の一線を隔てる結界のように見えた。


旬祢くんが認証装置に手をかざすと、低く、重たい音を立てて扉が開いていく。



──その先にいたのは、数人の男女だった。


年齢も風貌もばらばら。にもかかわらず、そこに漂う空気は異様なほど張り詰めていた。


俺は思わず、呼吸を忘れそうになる。



(この人たち、“普通”じゃない……!)



一歩でも油断したら、即座に殺される─


ただの警戒じゃない。これは、“殺気”だ。

不用意な一言や動きで、命を落とす。そんな直感的な恐怖が背筋を駆け抜ける。


本能的に、俺の背中を冷たい汗が伝った。


そのとき──


部屋の中央に座っていた、一人の青年が静かに立ち上がった。


ふわりと揺れたミルクティー色の髪。その柔らかな微笑みは優しそうなのに、どこか芯があって、妙に目を引く。……なんというか、王子様みたいな人だった。


そして、彼は俺に向かって微笑みながらこう言った。



「ようこそ、折笠 晃太郎くん。──“欠位”一同、歓迎するよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ