プロローグ いつかの戦争
痛い、苦しい。
頭がそれ以外を考えない。
俺は生まれたての小鹿のように震えていた。
思えばこれは国のエゴ、なぜそれに俺たちは命を賭けて付き合っているのだろうか。
そう考えると剣を握る手が思わず緩んだ。
敵はその隙を見逃さず、俺の首に躊躇なく切りかかる。
ああ、死んだな────。
剣の切っ先が俺の首筋に触れたとき、不思議と幸福感に包まれた。
恋人の手料理の味、友との楽しい日々。そして今は亡き母親の温もり。
今までの思い出が脳内にあふれ、振り返りだした。
おそらく脳は俺の人生にピリオドを打とうとしていて、俺もそれを止めはしない。
そして俺は心の中でこう一言呟き目を閉じた。「良い人生だった」と。
「……?」
目を閉じてしばらく経っても意識がなくならなかった。
おそるおそる目を開くと目の前の敵は石のように固まっている。
辺りを見渡すと敵の兵士という兵士が動きをピタリと止めていた。
この力はまさか……!
この状況に応えるように一人の男が現れる。
「私は時間魔術師……この戦いを終わらせに来ました」
やはりそうだ。あらゆる戦争で勝利し、国を護り続けた魔術師だ。俺は助かったんだ。
魔術師は掌を天に突き上げこう言った。
「第十一の魔法────」