第8話 友好的交渉に優るものは無い
「あのね」
タタンは、遂に口を挟んだ。
これ以上は、まずい事になると、直感で思ったのだ。
「ラータ、僕は、友好的な姿勢を、まず見せるべきだと思うんだ」
タタンの提案は、赤ちゃんアマガエルたちの胸に響いた。
赤ちゃんアマガエルたちは、嬉しそうに小さな目を輝かせると、賛同して鳴いた。
ゲコゲコッ!! ゲコゲコッ!!
ラータは、一瞬不服そうな顔をしたが、静かに話を聞いた。
雪女も、黙って耳を傾けた。
「ラータの長所は、笑顔を絶やさない所だよ。君は、野良犬にだって、微笑む事が出来る。僕は、いつも尊敬してるよ。君に微笑まれたら、野良犬でさえも笑顔になるんだから、まったく持って驚きだ。君は、どんな時でも柔らかな口調で話す。自分では気付いてないかもしれないけど、穏やかな銀色の瞳に、いつも優しさを湛えてる。攻撃的な方法を実行するよりも、まず、笑顔で微笑む事から始めたらどうかな?」
雪女は、目から鱗が落ちる思いがした。
「本当に、その通りだわ。思い起こせば、吹雪を起こして凄んだり、氷の矢を放ったり、攻撃しかしていなかった。話し掛けようとも思わなかったわ」
ラータも、話を聞き終わると、難しい顔をした。そして、腕組みをして唸った。
「ううーん、そうですね。野良犬よりも、遥かに大きいですけど。でも、誰だって、攻撃されたら、自分の身を護る為に、攻撃し返しますよね。タタンさんの言うように、友好的な態度で話し掛けるって、大切な事ですよね。その一歩として、笑顔から始めてみる。それって、凄く大切なことだと思います。私たち、間違っていたかもしれません」
ラータの改心発言を聞いて、一番喜んだのは、赤ちゃんアマガエルたちだった。
タタンも、胸をなでおろした。
「じゃあ、初めに、平和的な話し合いの内容を考えよう」
タタンが、そう切り出した時、ラータは、氷の上を走っていた。
「ラータ!」
赤ちゃんアマガエルたちも、今回は置いてけぼりにされて叫んでいた。
ゲコーー!!ゲココッーー!!
ラータは、白猫に戻って、走るというよりも、氷の上を滑って、花畑まで、あっという間に着いてしまった。
「まあ!何て、上手な滑りでしょう!なかなか、ですわね」
雪女は、感心したが、タタンは、すっかり青ざめた。
今すぐ迎えに行きたいが、相手は、どんなに大きかろうが、ネズミなのだ。
猫にネズミ、食う者と食われる者、この関係は変わらない。
果たして、猫二匹を見て、炎ネズミは、どう思うだろう。
タタンの頭を悩ませているのは、まさに、そこなのだ。
赤ちゃんアマガエルたちも悩んでいた。
今すぐにでも、ピョンピョン跳ねて追い掛けたいが、相手はネズミなのだ。
もしも、炎ネズミが、襲って来たら、ネズミとアマガエルは、食う者と食われる者だ。この関係が成り立ってしまう。
怖くて足がすくんでしまうのだ。
雪女も、肩を落とした。
散々攻撃して炎ネズミを怒らせた自分が、ラータの後を追って近付いたら、むしろ足を引っ張るかもしれない。
そう考えると、正解が分からないのだ。
タタンたちが、それぞれ、うんうん唸っている時、既に、ラータは、花畑に踏み込んでいた。
花畑で寝そべって昼寝をしていた炎ネズミは、眠たそうに顔を上げると、ラータを、じっと見つめた。
それで、ラータは、にこっと笑って、気よく挨拶をした。
「こんにちわ。はじめまして」
炎ネズミは、怪訝な顔をしたが、威嚇はして来なかった。
ラータは、ほっとして、自己紹介をした。
「私、白猫のラータって言います。化け猫で、探偵の助手なんです」
「化け猫だと!?」
炎ネズミは、のっしりと起き上がると、鋭い目つきでラータを睨んだ。
「化け猫が、俺に何の用だ!?」
明らかに機嫌が悪かったが、ラータは怯まなかった。
「雪の月花を摘みに来たんです。摘んでもいいですか?」
本来ならば、許可を取る必要もないだろう。
花畑は、誰のものでもない。しかし、ラータは、あえて聞いたのだ。
「花など、好きに摘めばいいだろう。そんな事で、昼寝の邪魔をしたのか!?」
炎ネズミは、益々不機嫌になって、鋭い牙を剥きだして威嚇した。
けれど、ラータは、低い物腰で、一言一言、丁寧に喋った。
「お昼寝の邪魔をしてごめんなさい。後、勝手に花畑に入ってしまって、ごめんなさい。でも、今ここに住んでるのは、炎ネズミさんだから、貰ってもいいか、ちゃんと確認したかったんです」
ラータの優しい声音を聞いて、炎ネズミは、口を閉じた。
「おまえは、俺を邪魔に思わないのか?」
「全く思いません。雪女さんだって、本当は、ご近所さんが出来たって喜んでるんです。あなたが、ここに住んでくれて嬉しいそうです。ただ、雪のプリンを、どうしても、クリスマスイブまでに、サンタさんに届けなくてはいけなかったから、焦って攻撃してしまったんです。どうか許して貰えませんか?雪のプリンを作るには、どうしても、雪の月花が、必要だったんです。子供たちが、毎年、楽しみにしていて、サンタさんが配ってるんです」
ラータは、一生懸命説明した。そんなラータを見ているうちに、炎ネズミも、怒りが少しずつ和らぎ始めた。
「ふん、この俺と、ご近所付き合いがしたいだって?それなら、まず、謝って貰いたいね」
炎ネズミが、そう言った瞬間、ラータは、赤毛の美少女に、ぱっと戻って、両手を上げて喜んでいた。
「やったー!炎ネズミさんと友達になったー!」
炎ネズミは、化け姿を間近で見て、呆気に取られた。
しかし、ぴょんぴょん跳ねて喜ぶ姿を見ると、自然と笑みが浮かんだ。
それは、何十年ぶりかの微笑だった。
「ふん、友達になるとは、まだ言ってないけどね」




