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第3話 巨大ネズミのオブジェから落下


 二人(正確には二匹)と、赤ちゃんアマガエル七匹は、時計台に登って、家々の煙突を見張っていた。

 この提案をしたのは、ルラだ。


「根古多村で一番高い屋根は、時計台の天辺だ。屋根の上には、巨大ネズミのオブジェまで乗っけてあるんだから、あそこなら、見落とす心配もないだろう。君たちは、夜目もきくし、運動神経が抜群だから、上手に乗れるだろう?赤ちゃんアマガエルくん達は、高い場所が怖いなら、ラータの肩に乗って待てばいい。さあ、張り切って行きたまえ」


 出発前に、ラータとタタンは、それぞれ防寒具に着替えた。

 まるで雪山にでも行くような装いになった二人を見て、ルラだけが大いに満足した。


「赤と緑のペアルックにして正解だったね。ラータ、君の銀色の瞳には、赤が映えると思ったんだ。いやあ、お礼なんて言わなくていいよ。タタン、君も緑が似合う男だね。いやあ、震えるほど喜んでくれて、僕も嬉しいよ。特注のブルゾンだからね。君たちへのクリスマスプレゼントだ」


 タタンが、半ば朽ちかかった木戸を開けると、既に雪は降り積もり、沼地のあちこちが白く替わっている。

 タタンは、後ろを振り向くと、戸惑って尋ねた。


「ラータ、念の為もう一度聞くよ。本当に僕と来るの?こんなに雪が降ってるよ?」


「はい!行きます!」


  ラータの決意は固かった。

  ラータは、溌剌と答えたが、赤ちゃんアマガエルたちは、肩の上で心細そうに声を揃えてゲコゲコゲコッと鳴いた。


 こういうわけで、雪雲に近付く最も高い場所で、サンタクロースが来るのを待つことになったのだ。

 しかし、正確に言うと、サンタクロースを待ち焦がれているのは、今や、ラータだけだった。


「もうすぐかしら?まだ来ませんね」


 ラータは、あちこちに目を配りながら、茶色と赤のチェックのブランケットを、ぎゅっと抱き締め、立ち上がったり座ったりを忙しく繰り返していた。


「あら、あれは、何かしら?残念、違った……あっ、今のは?」


 三角屋根の時計台に登ってからずっとこんな調子で、タタンは、気が気でなかった。

  ラータが、そわそわする傍らで、タタンは、はらはらしっぱなしで、もうサンタどころではない。


 「ラータ、危ないから、急に立ち上がらないで。バランス感覚が良いから大丈夫って、それは普通に立っていればの話だよ。落ちたら、どうするの?ほら、あれは、煙突の煙だよ、サンタの白髭じゃない。ああ、あれも違う。トナカイの鈴じゃない、流れ星だよ。乗り出して見ようとしないで」


 もはや保護者のようだった。


「ルラが用意してくれたミルクココアでも飲もう。ほら、座って。ネズミのサンドイッチもあるんだ。アマガエルくんたちには、乾燥コオロギのサンドイッチだよ」


  ラータは、やっと腰を下ろして、バスケットの中を覗き込んだ。

  ラータの大好物は、野ネズミである。


(ルラさんが、自分で捕まえたのかしら。事務所には、ときたま子ネズミが入り込むから。私が、こっそり退治して、うちに持って帰るから、ルラさんは、ネズミの侵入を知らないと思うけど……)


  タタンが、黄色い水筒に入った温いココアを、紙コップに注いで手渡した。

  赤ちゃんアマガエルたちにも、一匹ずつ、小さな小さな紙コップが用意されていた。

  赤ちゃんアマガエルたちは、小さな指を器用に動かしてコップを持つと、美味しそうに啜った。

  皆で仲良く完食して満足した後、ようやくラータも落ち着いた。


   タタンは、ほっと溜息をついた。

   タタンは、ラータを実の妹のように大事に思っていた。

   一生懸命で、頑張り屋で、心優しいラータは、亡くなった妹に似ている。


 (ラータが、こんなに御転婆だとは知らなかった。まさか、これだけ、はしゃぐなんて想像も付かなかった。まだまだ子猫だな。いや、すっかり子猫返こねこがえりしている。連れて来るんじゃなかった)


 タタンは、自身の判断ミスを憂えた。そんな事を考えていた時、急に悲鳴が上がった。


「きゃあああー!!」


 タタンは、慌てて振り向いた。

 その先に見えたのは、ラータが滑り落ちるところだった。


  「ラータ!!」


 タタンは、大声を上げて駆け寄ったが間に合わなかった。


  「ああ!なんてことだ!」


  ここは何千メートルもある時計台の天辺で、今は人の姿なのだ。

  すぐさま飛び降りようとしたタタンの目に、七色の光が飛び込んだ。


「そうか!赤ちゃんアマガエルくんたちが肩に乗っていたのか!ああ、助かった」


  タタンは、心底安堵して、自分も七色の光に向かって飛び降りた。

  共に過去へ、ラータが落下する直前に戻る為に。

  しかし、タタンは大切な事を忘れていた。

  同じ過去へ戻る為の条件があることを。


   「こ、これは一体、どうして!?」


  彼らが辿り着いたのは、うっそうと茂った森の中だった。

  どういうわけか、背の高い木々は、みんなモミの木だ。

  目を見張るタタンの傍で、赤ちゃんアマガエルたちが、申し訳なさそうに鳴いた。


 「そういえば、そうだったね。僕も、すっかり忘れていたよ。ラータが滑り落ちる直前まで、君たち皆、サンタクロースの事を考えていたんだね。それで、サンタの住む場所に着いちゃったのか」


   赤ちゃんアマガエルたちが、申し訳なさそうに再び鳴いた。


「仕方ないよ、君たちのせいじゃない。それに、僕も、直前に君たちの事を考えたから同じだよ。皆、悪くない。だけど、困ったな。ラータは、どこだろう。サンタに一番会いたがっていたからね。僕たちと情熱が違ったから、もしかしたら、一人だけ直接サンタに会える場所に落っこちたのかもしれないね。とにかく、森の中を探そう」


 皆、一生懸命に目を凝らして歩き回った。

 タタンが、腕時計で確認して三十分が経った頃、突然美しい鈴の音が聞こえた。


「これは、誰の鈴だろう」


 タタンたちが、不思議に思いながら進むと、目の前に開けた場所が広がり、大きな湖が見えてきた。

 湖の傍では、立派な角を生やした八頭のトナカイが、仲良く水を飲んでいた。

 そして、トナカイたちの首には、大きな鈴が付いていた。


 「白猫を見掛けなかったか聞いてみよう!」  


 タタンに賛同して、赤ちゃんアマガエルたちが、ゲコゲコッと鳴いた。




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