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サンタクロースを探してくれないか?

『サンタクロースっているんでしょうか?』この本を御存知の方は多いと思います。


発行所は『偕成社』、訳者は『中村妙子』さんです。美しい挿絵は『東逸子』さんが描いています。


心暖まる一冊、実話です。この本からヒントを得て、【イーリス探偵事務所】物語を創りました。


 2話では、『』で括り、訳文を引用しています。


物語の中でも引用だと明確にしているつもりです。『』の文は、中村妙子さんの素晴らしい訳です。



              1・いない者は探せません



 瞬火山またたびやまの頂上で、赤い夕日がキラリと光るルビーのように、夕闇の宝石箱に収まった。


 瞬火山の麓に、小さな村がある。化け猫たちが暮らす根古多村ねこたむらだ。

 普段、彼らは四足で暮らし、普通の猫と何ら変わらない。


 根古多村に夜が訪れると、家々の明かりが優しく灯る。


 今夜はクリスマス・イブ――降り始めた雪が、村の広場に飾り付けられた大きなモミの木を、少しずつ白く変え始めた。明日は、ホワイトクリスマスになりそうだ。


   化け猫たちは、クリスマスのような魅惑的な祭日は、人に化けて村を歩く。


  道行く化け猫たちは、イルミネーションの傍でちょっと足を止めて、少し眩しそうにツリーを見つめると、微笑みを浮かべて通り過ぎて行った。


  何十年も前から、人間の行事を真似て楽しんでいる。

  その為、【イーリス探偵事務所】には時折、変わった依頼も舞い込む。 


  「今夜、サンタクロースを探してくれないか?」


  「サンタを探す!?」


   ラータは、非常に驚いて、危うく白猫に戻る所だった。


  「いない者は探せません」


   ぱっちりした銀色の瞳を見開き、困った顔をして即答した。


   今夜はルラの指示で、赤毛の美少女に化けていた。


   サンタ服を着せられて、若干不満に思っていたが、まさかこんなお願いまでされるとは!思ってもみなかった。


   革張りの黒いソファから素早く立ち上がると、赤い膝掛けが、はらりと落ちた。


  「生まれて此の方、サンタクロースを見たことがありません。無理です」


  大きく首を横に振って、膝掛けを急いで拾った。


  事務所にある暖房器具は、ガスストーブが一台だけ。

  サンタ服の下は、丈の短いスカートなので、両足はすっかり冷たくなっていた。

 

  過去・現在・未来を自由に行き来できる《時の赤ちゃんアマガエル》七匹も、ラータの足元に集まって、不安げに名探偵シャム猫のルラを見上げた。


  ルラの化け姿は、背が高く痩せ型で、ひょろりと伸びたモヤシのように頼りなく見える。

  

  服のセンスは破滅的だ。

  クリスマス・イブでさえ、いつもと同じ色褪せた灰色のTシャツを着て、ぶかぶかで継ぎ接ぎだらけの藍色の外套を羽織っている。


 ドア付近の柱時計が、いつから止まっているのか、ラータは知らない。

 特注品らしく、電池交換に、お金がかかるらしい。それで、ケチっている。


 「調度品だと思えばいい。腕時計があるんだから、時間は分かる」と、これが、ルラの言い分である。


  洋服に関してもドケチで、洗濯しているそうだが、もう何十年も同じ服だと、黒猫のタタンは嘆いている。

  しかし、その顔は、タタンと肩を並べるほど美しい。

  本来の姿と同じで、人に化けた時の瞳もエメラルド色。


  涼やかな目元には、どことなく色気が滲んでいた。

  それで、【イーリス探偵事務所】を訪れる来る客のほとんどが、雌猫だった。


  探偵事務所は、村の外れにあって看板も無い。

  沼地が広がり、周囲は、背の高い木々に囲まれている。その為、昼間でも薄暗い。


  化け猫でさえ滅多に寄り付かない。


  そんな、ジメジメとした陰気な場所に来る客は、余程の事件か、切羽詰まった相談事を抱える猫だ。


  「心配はいらない。既に準備は整えてある」

 

  ルラは、お気に入りのロッキングチェアに、ぐっと凭れて、眼前のデスク上を指差した。


  「必要な防寒具、防寒服、手軽に摘まめる夜食は、ちゃんと数を数えて旅行鞄に入れた」


   そのウッドデスクは、いつ壊れてもおかしくない。


   革張りのソファの前に置かれたテーブルも、おんぼろだった。


   ルラは、赤いボストンバッグを見ながら、悠然と構えて微笑んだ。

  

   しかし、タタンが眉を吊り上げて口を挟んだ。


  「ルラ、君は確かに腕利きの探偵だよ。でもね、君の猫遣いが荒いせいで、先月も二人辞めたんだ」

  

   彼は、先ほどから、柱時計の横で薄汚れた壁に背を預け、腕を組んで黙って聞いていた。が、遂に口を開いた。

  

 「ペルシャ猫のリーネは、気質が誠実で腕も良かった。君が、彼女の優しい心根に甘えて、過度の負担を掛け続けた結果、ブチ猫のローゼと結婚して、二人とも出て行った!」


ルラとタタンは幼馴染で、二匹の付き合いは、かれこれ三十年になる。


タタンは、本来の美貌もさることながら、人に化けた際の黒スーツ姿も、洗練されたイギリス紳士を思わせる。残念ながら今夜は、ルラの指示でサンタの恰好をしているが、それでも美形だ。


 琥珀色の瞳に、きりりと整った眉。細く結ばれた薄い唇に目を奪われる。

 タタンが薄目を開けて口を利けば、覗く白い歯にハスキーボイスが相俟って、ますます色気が引き立つ。


「事務所に残ってくれたのは、ラータだけだ。君の我儘に付き合ってくれる貴重な人材、名助手だよ。僕は、常日頃からラータに申し訳なく思っている。こんな夜更けに仕事だって?今夜はクリスマス・イブだ。雪まで降り始めた。いくら優秀だといっても、ラータは二十歳になったばかりだ。若い猫の時間を、彼氏でもない君が奪う通りはないよ」


 タタンの言い分は尤もだったので、ルラは気まずそうに、ラータを見遣った。しかし、きっぱりと言った。


 「これは依頼だ。頼んだぞ」


  怖い話は苦手で書けないのですが、妖怪系は、今までにも結構書いていて、大好きなジャンルです。 

  ラストは出来ていますが、のんびり更新していきます。

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