表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界渡航者シリーズ

これはとある異世界渡航者の物語・特別編「新春短編Ⅲ︰異世界の戦場と戦場の天使」

作者: かいちょう

その地には絶え間なく爆発音に発砲音が鳴り響いていた。

空からは無数の砲弾が大地へと降り注ぎ、山の斜面では麓と山頂から放たれた無数の弾丸が飛び交う。

爆発音が轟き、その度に大地が揺れ、雄叫びと歓声と悲鳴が木霊する。


今まさにこの瞬間にも、多くの命が砲撃と銃撃によって一瞬で奪われ、押しつ押されつの攻防を繰り広げている。

そう、言うまでもなくここは戦場、その最前線だ。


そして今まさに、戦争の結果を左右すると言ってもいい、戦略上重要な要衝を巡っての一大決戦が行われていた。


その戦略上、重要な要衝というのが海に隣接する海抜300メートルというとても低い山だ。

低いとはいえ、その山は海に面している事から山頂からは湾内の軍港が一望でき、軍港を治める勢力からすれば湾内を監視し、軍港を守護する砲台を設置できる絶好の立地である。


一方で攻める側からすれば、この地を押さえる事ができれば軍港を丸裸にする事ができ、湾内にいる軍艦を山頂の砲台から攻撃して沈める事ができ、軍港を無力化できる、まさに喉から手が出るほどほしい陣地である。


そう、それはまるで日露戦争における旅順の戦いの激戦地である203高地そのもののような場所だった。


そんな要衝を巡って今、旅順攻囲戦を再現したかのような戦いが巻き起こっていた。

湾内からは軍艦による艦砲射撃、山頂からは砲台からの砲撃、そして砲台守備隊による迫撃砲……

降り注ぐ砲弾の雨の中、山頂を制圧すべく、大勢の歩兵が小銃片手に斜面を駆け上がる。


少しずつ前進して銃座の陣地を築き、機関銃での援護をおこなう機関銃部隊、塹壕を掘り、砲撃に耐えながら、反撃の砲撃を放つ砲兵部隊。

そして山頂からの迫撃砲や銃撃、砲撃に倒れ、負傷した兵を救護する衛生兵。


まさに地獄絵図だ。

そんな地獄絵図の戦場から少し離れた、されど主戦場ではないだけで小規模な戦闘は発生している、海からは少し離れた内陸の丘陵をカイトたちは周囲に警戒して身を潜めながら慎重にとある場所目指して進んでいた。




大きな爆発音がすぐ近くで轟いた。


「っ!!」


思わずその場で全員が歩みを止め、息を潜めて周囲を窺う。

耳を澄まし、銃声や兵士たちの怒声が聞こえない事を確認して安堵の息をもらし、再び歩き出す。


「ふぅ……今のは結構近かったな?」


周囲を警戒しながらそう言うとフミコが心配そうに。


「というかかい君、さすがにそろそろやばいんじゃない?直撃したら洒落にならないよ!」


そう口にするが、最悪の場合はタイムリープ能力で時間を戻せばいいわけであって、気にせず砲火の中を突き進む。


「確かに着弾地点は近くなってきてるな。けど、ここはまだ主戦場になってないはずだから砲撃の間隔も長いし、何より俺たちはまだバレてない。だから今は気にせず進もう。そうそう直撃するものでもないし……まぁ、直撃したらその時はその時だな」

「もう!!かい君、そんな事言ってたら本当に直撃しちゃうよ!!」


フミコがそう言った直後、フミコの後ろを進んでいた寺崎歩美がフミコに勢いよく抱きつく。


「大丈夫ですよ先輩!もしもの時は歩美が先輩の盾になります。歩美の愛の力で先輩を護りますよ!!」

「わっ!?こら歩美抱きつくな!!」

「嫌ですよ先輩、離れませーん」

「もー!かい君なんとかしてー!!」


そう言ってわいわい騒ぐ二人を見て注意しようかどうか迷ったが、しかし周囲に自分たち以外の人間はいない。

そして今、自分たちは周囲の景色に溶け込むための隠蔽スキルを使用し、服装も迷彩柄のものを着ている。

今のところは問題ないだろうと放置する事にした。


というか何か言っても寺崎歩美は自分の言う事は聞かないだろう。

何せ彼女は慕っているフミコの言うことしか聞かないのだから……




さて、そんなこんなで時折砲弾がそれなりの近くに着弾して爆発は起こるものの、概ね順調に進んでいき、ついに目的地のすぐ目の前までやってきた。

その目的地は山の中腹あたりにある開けた場所であり、そこは山頂からの砲弾も海上からの艦砲射撃も届きにくく狙いにくい場所に位置していた。


そんな目的地から少し離れた場所に腰を下ろして、木々に隠れて双眼鏡を覗き、目的地の状況を確認する。


「あれか、目的地の野戦病院は」


双眼鏡を覗き見ながらそう言うと、同じく隣で双眼鏡を覗き込んでいるフミコが頷く。


「うん、間違いないよかい君。ヒントサーチでヒットした場所だ」

「ですね先輩、ここで正解です」


フミコの隣でフミコにピッタリと体を寄せて双眼鏡を覗き込む寺崎歩美も同意した。




ヒントサーチ、それは寺崎歩美とフミコが所持するアビリティーユニット、量産型のGX-A04だけに備えられた機能だ。


一点もののオーダーメイドとも言えるアビリティーユニットGX-A00/01、GX-A02、GX-A03と違い、量産型のGX-A04は大量に存在する分、能力値は低く設定されている。

これは個人で戦う事が前提であるGX-A00/01~A03までと違って、複数存在する量産型のGX-A04は集団戦が基本となるからだ。


個々の能力は低くとも集団となれば大きな力を発揮する。そういうコンセプトなのである。

とはいえ、量産型の保有者たちは常に集団で行動するわけではない。

時には個人で任務を……転生者、転移者、召喚者を狩る場面も出てくる。


そういった時に能力値の低い量産型が素早く任務を遂行できるように、低い能力値を補う機能がGX-A04にはいくつか備えられているのだが、そのうちのひとつがヒントサーチ、量産型だけが持つオリジナル機能だ。


その内容とはまさに名前の通り、転生者・転移者・召喚者が今世界のどこにいるかサーチして把握する事ができるというものだ。

ただし、サーチできる回数は一回のみ。

ゆえに異世界に降り立って即ヒントサーチを使っても、転生者・転移者・召喚者にたどり着けない場合もある。

だから使いどころは見極めないといけないが、しかしそこは量産型。

GX-A04の所持者が複数いれば、それだけヒントサーチが使える回数が増えるわけである。


そんなわけでフミコと寺崎歩美、ふたりのGX-A04でここにくるまで2回のヒントサーチを使い、野戦病院にたどり着いたわけだ。

とはいえ、確実を期すならここでもう一度ヒントサーチを使いたいところだが、もうヒントサーチは使えない。


とはいえ、ここまでくればもう問題はない。

双眼鏡で野戦病院全体を覗くことができるのだ、ならばあとは鑑定眼で野戦病院にいる面々を見ていくだけである。


なので早速鑑定眼で陣地にいる面々を調べていく。

とはいえ、野戦病院には次から次へと負傷兵が運び込まれ、人の出入りが激しい。


さらには軽症の兵士はテントの外で野ざらしの状態で治療待ちとなり後回しにされるが、重症の兵士はテントの奥に連れて行かれ、その姿をここからでは確認する事はできない。

テントの中の様子はわからないが、恐らくは簡易なベットがいくつも並べられ、そこで設備が整っておらず、必要な薬も医療物資も足りず、およそ衛生的とはいえない環境ながら必死の治療が行われているのだろう。


ここは最前線からほど遠い後方ではあるが、あのテントの中は医療班にとってはまさに最前線の戦場だ。


(できればテントの中も確認したいが……さすがにここからでは無理か。大体いくつテントがあるのやら)


野戦病院となっている陣地にはいくつものテントが設置されていた。

とはいえ、そのすべてが負傷兵を収容しているわけではないだろう。


物資を集積しているテントや現場指揮官や情報分析官がいる司令部、医療班や衛生兵、治療を終えた兵士が一時的に休息するためのスペースもあるはずだ。

そして何より救えなかった命を保管する場所、遺体の一時安置所もあるだろう。

そんな多くのテントの中から転生者・転移者・召喚者がいるであろうテントを絞り出すのは難しい。


(そもそも、どのテントがどういった目的のテントなのかも皆目見当がつかないからな……とりあえずは今外にいる連中を調べるか)


そう思ってテントの外にいる兵士全員を鑑定眼で視てみるが、転生者・転移者・召喚者はいなかった。

となると、ターゲットはやはりテントの中にいる事になる。

だが……


(そもそも、転生者か転移者か召喚者かはわからないが、チート能力を持っているならまず負傷して野戦病院に運ばれてくること自体ないんじゃないのか?むしろ最前線でチート無双して、とっくに山頂の砲台を制圧しているはずだろ……それがなんで野戦病院に?それ以前に()()()()()()()()()()()()()?)


そんな疑問が頭に浮かんだ。

これに関しては完全な知識不足である。


そう、今回の異世界に関しては十分な情報収集を行っていないのだ。

それはフミコと寺崎歩美がヒントサーチを使えばほぼ確実に転生者・転移者・召喚者にたどり着ける事と、この世界についた時点ですでに戦場の真っただ中だった事から悠長に聞いて回る事ができなかったためだ。


戦場の最前線というピリピリした空間で、この世界の事教えてくれませんか?と呑気に聞いて回る事など不可能だ。

スパイと間違われ、拘束されるのがオチだろう。


だから、戦場の真っただ中に出たという事は、転生者・転移者・召喚者はこの戦場においてチート異能で圧倒的な無双をして名をはせているに違いないという安易な発想のもと、情報収集を諦めて、とにかくヒントサーチでターゲットのおおよその現在地を割り出し、そこに向かう事にしたのだ。


だからこの世界に魔法のような異能がどれだけ普及しているのか?一般的なのか?それともそんなもの表向きは存在しない世界なのか?それすらわからないまま、戦場を突き進んできたのである。


(今になって思えば、隠蔽スキルでそれなりに気付かれない状態なら多少の危険を冒してでも、まずは基本的な情報を収集すべきだったな……こいつらここで何のために戦争してるからもさっぱりなわけだし)


そう思ってから思考を巡らす。


そもそもターゲットが野戦病院にいる時点で、本当にチート異能を持っているのかどうかも怪しい。

何せ、次元の亀裂を生み出すほどのイレギュラーなのだ。

たった一人で相手陣地を制圧、もしくは圧倒的知性と先を見通す戦術眼で軍を動かし、天才的な知略でもって敵軍を蹂躙し、大国を圧倒したとかでもない限り話にならないだろう。


でなければ、戦場において真価を発揮するイレギュラーとは何か?

そう考えた時、ふと運命の乙女と呼ばれていた日野あかりに、沈みゆく大地を祈祷によって押さえていた聖女、瀬田彩香の事を思い出す。

彼女たちの異能は戦闘に特化してものではなかった。つまりは……


(支援サポート系の異能か!!)


その事に気付けば、後は自然と予想がつく。

ここは野戦病院、次々と軽傷、重傷にかかわらず負傷兵が運び込まれてくる。

そんな彼らが短い時間で即座に回復し、あっという間に前線へと戻っていったら相手はどう思うだろうか?

連中は不死身か?と思って恐れおののくだろう。


そして、その脅威の前線復帰率はやがて国家間のパワーバランスを揺るがす。

たとえ本人が、目の前で怪我をしている人を、いまにも死にそうな傷を負っている苦しむ兵士をただ死なせたくないだけという理由だとしても、世間はそうはとらえない。

味方からは救世主と敬われ、敵からは悪魔と恐れられるだろう。


まさに戦場におけるイレギュラー分子……いや、異世界のナイチンゲールといったところか?


(恐らくは驚異的な回復力を誇る治癒系の異能……そういや、よくよく観察すれば人の出入りが激しいが、さっさと野戦病院を去っていく兵士が多いな。これは間違いないな……しかしそうなると、異能を奪うには治療している現場を目撃しないといけない事になるな)


そう思い少し考え。


「これはひとつずつ調べていくしかないか」


そう口にした。

これにフミコと寺崎歩美が反応する。


「ひとつずつ?それってあのテントの事?」

「げぇ……本気?」


陣地にいくつも点在しているテントを指さして確認するフミコと違い、寺崎歩美はものすごく嫌そうな顔をしたが。


「まぁ、ここからテントの中を覗けて、異能を使っているところを目撃できるならわざわざ確認しに行く事もないし、君が今まさにターゲットが異能を使用しているところを目撃しているというならわざわざ確認にはいかないけどね?この中の3人の誰かがターゲットから異能を奪えればそれでいいんだから」


そう口にすると、寺崎歩美は渋々といった感じで。


「あーはいはい、わかった!わかりました!確認していけばいいんでしょ?はぁ……先輩一緒に行きましょう」


ため息をつきながらフミコの手を掴んで野戦病院へと向かっていく。

寺崎歩美に手を引かれるフミコは。


「へ?ちょっと歩美!?あたしはかい君と一緒に」


そう言ってこちらに助けを求めてくるが、ここで揉めても仕方がないのでとりあえずはスルーする事にした。

すまないフミコ……あとは埋め合わせはするから!


そんなこんなで野戦病院の陣地へと侵入し、陣地の中で最も端に設置されているテントの真横に身を潜め、中の様子を確認する。

するとテントの中から眩しい光が発せられた。




「ぐ、がぁぁぁ!!痛ぇぇぇぇ!!痛ぇぇよチクショー!!」


テントの中に設置された粗末なベッドの上には上半身包帯でグルグル巻きにされた兵士が寝かされていた。

とはいえ、兵士はあまりの痛みに手足をばたつかせて暴れており、粗末なベッドは今にもフレームが潰れそうな嫌な音を立てていた。

よく見れば上半身を覆う包帯はほとんど血が染み付いて真っ赤になっており、すぐにでも取り換えないと衛生上よくないだろう。

また右腕も砲撃による爆発でもっていかれたのか、肘より先が欠損していた。


そんな痛みに悶える兵士を従軍看護婦が数名がかりでベッドから落ちないように押さえつけていたが、そんな彼女たちにテントの奥にいたもう一人の従軍看護婦が指示を出す。


「みんな、鎮痛剤の投与はいいから他を見て回ってきて!ここは私が何とかするから!!」


その従軍看護婦の指示に、しかし負傷兵を押さえつけている従軍看護婦たちは。


「何とかするってあなた!モルヒネもなしでどうするつもり?」

「いいから!!みんなは他の負傷兵を!!」


心配そうに口にするが、そんな彼女たちを奥にいた従軍看護婦は一蹴する。


「う、うん……わかったよ。私たちは他のテントに行こう」


彼女に気迫に押される形で慌ててテントを後にする従軍看護婦たち、そんな彼女が去った後で奥にいた従軍看護婦は大きく安堵の息を吐くと。


「はぁ……やっと行ってくれた。大勢と行動するのはやっぱり苦手だ……一人が一番気楽でいい」


そう言って服装をただし、押さえつけていた大勢の従軍看護婦たちがいなくなった事で今にも暴れまわってベッドを壊しそうな手を欠損した負傷兵に近づく。

そして……


「今助けてあげるね、ちょっと待ってて」


そう言って長袖をたくし上げ、右手を負傷兵の傷口へとかざす。

そして一言。


「修繕」


そう呟いた。

直後、負傷兵の体が眩しく光り輝き、みるみるうちにその傷が癒えていく。

とはいえ、さすがに欠損した腕までは元には戻らない。

それでも、包帯の下に隠されていた傷はすでに塞がっており、本人も痛みに悶える事も唸り声をあげる事もなくなり、一体何が起こったんだといわんばかりにぽかんとした顔になって、自身の体をまじまじと見回している。


「へ?痛みが?一体何が?」


上半身を起こして困惑する兵士に従軍看護婦が声をかける。


「治療は終わった……さすがに腕を再生させてあげる事はできないけど、それ以外は治ってる……はず。だから、もう行って!次の患者さんが待ってる」


彼女はそう伝えると兵士と視線を合わせず、さっさと出ていけと言わんばかりに腕を振って兵士に退室を促す。

そんな彼女に兵士は。


「ありがとう看護婦さん!まさにあんたは俺にとっての戦場の天使だ!愛してるぜ!!」


そう言って欠損していないほうの手で従軍看護婦の手を取り、強引に引き寄せる。

その事に驚いた従軍看護婦は今ままにないくらい大きな声で悲鳴をあげ。


「い、やー-----!!!ヘンタイーー---!!!!」


強烈なビンタを兵士に叩き込んだ。




「す、すまねー----!!!!」


従軍看護婦にビンタをかまさて、頬に手形をつけたた兵士が慌ててテントから飛び出してくる。

そんな血相を変えて逃げていく兵士を。


「まぁ、人見知りっぽい空気だしてたしな……そりゃそうなるだろ」

「うん、だよね……」

「サイテーだね、あいつ」


哀れな生き物を見る目で見送り。


「何にしろこいつはビンゴだな」


そう言ってテントの中を再び覗き込む。


「かい君どうする?ここから異能奪っちゃう?」


そう訊ねてくるフミコに。


「いや、奪うのはちゃんと事情を話してからにしよう」


そう言ってから立ち上がり、テントの中へと入る。


「うん、そうだよね」


これにフミコも続き。寺崎歩美はやれやれと肩をすくませながら。


「まったく……何のトラブルもなく奪えるのがベストだっていうのにお優しい事で。これが相手が女性だからって理由じゃなければいいけど」


そんな事を言うが、素直に従ってフミコの後に続いてテントの中へと足を踏み入れる。


そんなテントの中に入ってきた自分たちを見て従軍看護婦はビクっと肩を震わせて、ビビりながら訊ねてきた。


「な、なんですかあなたたち!?も、もしかして新しい看護婦?でも服装が?だ、誰です!?」


いや、どんだけ人見知りなんだよと苦笑しながらも彼女に返答する。


「はじめまして、驚かせてしまってすみません。俺たちは医療班ではないです。もちろんここの軍の関係者でもありません。俺たちはあなたに用があってここに来た者ですよファフルさん」

「……へ?私に用って?というか軍の関係者じゃない?一般人がどうしここに?」


困惑する彼女を鑑定眼で視る。

ステータスにはちゃんと地球からの転生を意味するマークが表示されている。

ファフル・レーニア、この世界で唯一の治癒法術師だ。


とはいえ、この世界ではすでに治癒法術をはじめ、多くの奇跡が失われており、それらは今やオカルトの類。口にしようものなら物好き以外からは笑われる芸当だ。

だからファフルは治癒法術を使用する時は周囲の人を追い払う。


というよりも内気で人見知りなせいで、治癒法術を使うことによって注目を浴びてしまう事を嫌っているのだ。

とはいえ、本人が気づいていないだけで、軍上層部にはバレてしまっていて、上官からはうまい具合に利用されているのだが……


何にせよ彼女の力があれば死なない限り、負傷した兵は即戦場に復帰できる。

まさにこの国にとってこの上ない貴重な人材なのだ。


そんな彼女に、まずは自分たちの事、つまりは異世界渡航者について説明する。

そして、地球に今何が起きているのか。それを解決するために自分たちが何をしているのかを説明した。


この説明を聞いた彼女は錯乱した。


「へ?地球が壊滅?その原因が転生者、転移者、召喚者?な、何言ってるの?意味わからないんだけど?しかもそのために転生者たちから異能を奪って殺す?は?冗談にしても酷すぎじゃない?」


そう言ってじりじりと後ろに下がり、自分たちから距離を取るファフルに告げる。


「悪いけど事実だ……そして俺たちは君に恨みはないけど、君から異能を奪って殺さなきゃならない……勝手な事を言ってるのはわかってる。だから……」


しかしファフルは最後まで聞かずに声を荒げた。


「ふざけないで!!何それ?勝手すぎない?地球が壊滅する、だから素直に殺されろって?そんなの受け入れるわけないでしょ!!」


この当然といえば当然の反応に対し寺崎歩美は。


「受け入れられなかったらどうするっていうの?抵抗して戦う?無理でしょ、だってあなた治療するのがメインでしょ?従軍してるとはいえ、戦闘能力皆無じゃないの?」


そう小バカにするが。これに対しファフルは。


「……あまり舐めないでよ?」


そう小さい声で口にしてから。


「へ?なんて?」

「あまり舐めないでって言ったの!!護身術のひとつくらい持ち合わせてるわよ!!」


ファフルは怒った口調で怒鳴り、右手を大きく振り上げてから地面に叩きつける。


「お願い!!きて!!」


直後、地面に触れた右手が眩しく光り、ファフルの周囲の地面から無数の泥人形が生まれだす。


「っ!!こいつは!!」

「ガーディアンです!!私の身を護ってくれる衛兵ですよ」


そう言うファフルを護るように、ガーディアンたちが彼女の前に出て立ちはだかる。

しかし寺崎歩美は。


「はん!ガーディアンって言っても所詮は泥人形。大した事ないでしょ!」


そう言ってなめてかかるが、そんな寺崎歩美にファフルは。


「あまり舐めないでって何度も言わせないで!!私が呼び出せるガーディアンには私が今まで治療した患者の強さをそのままコピーできるんだから!!」


そう言ってニヤリと笑う。

それを聞いた寺崎歩美は。


「まじ?」


しばし冷や汗をかきながらアビリティーユニットを取り出し。


「ど、どうする先輩?ユニットリンク使わないとまずくない?」


そう声をかけてくるが、しかし自分とフミコは目を合わせると。


「いや、もう異能は見てるんだし、戦闘する必要ないでしょ」

「だよね」

「……あ」


そう言って能力を奪った。




次元の狭間の空間、その桟橋に皆が戻ってくる。

寺崎歩美は大きく伸びをすると。


「うーん。それにしても、今回も楽勝だったね」


そんな事を言うが、これに対してフミコは。


「歩美、あの子とあのまま戦闘になってたらまずかたんじゃないの?」


そう訊ねる。

すると寺崎歩美は冷や汗をかきながら。


「まっさかー。先輩何冗談言ってるんですかー!やめてくださいよー」


そう笑ってごまかそうとするが、しかしフミコはジト目で寺崎歩美に訊ねる。


「じゃあなんでユニットリンクしようとしたの?」

「それは……えーっと……」


フミコの質問に目が泳いで答えられない寺崎歩美を見てフミコはため息をつき。


「この後ドリーやココに修練頼んだ方がいいんじゃない?もしくはリーナちゃんの指示受けたティーとか」


そんな事を言うと寺崎歩美の表情が青ざめた。


「せ、先輩……それだけはやめてー!!せめて先輩がしごいてー!!」


そう言ってフミコに泣きつく寺崎歩美を見て、思わずため息がでた。


「ったく、あんまり後輩をいじめてやるなよ?」


思わずそんな事を口走ってしまったが、今思えば、この時ちゃんと彼女を鍛えておけばよかったのかもしれない。

そうしていれば、あんな事にはならなかたかもしれないのに……


そう、それが起こるのはこれからまだ少し先のお話である。

どうも、この短編は筆者が今書いている「これはとある異世界渡航者の物語」https://ncode.syosetu.com/n3408fs/という小説の現在書いているお話より少し先のお話になります。


そんなわけで本編を読んでくれている方には多少のネタバレがあったりなかったりする感じになってますが、本編を読んだことがない、知らないという方にも「これはとある異世界渡航者の物語」という作品がどんなものかとわかる内容になってる……はずです(え


そんなわけで、これを読んで「これはとある異世界渡航者の物語」という作品に少しでも興味を持っていただけたなら、本編も読んでもらえると嬉しいです(宣伝


そして、本編も読んだことあるという方はこの機会に、もう一度本編も読んでもらえたら幸いです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ