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9. 学園編

★カガミヤ・カズヤ視点

 


 学園とやらに到着するまでに、ラッカから基本的なことは聞いておいた。


 学園は惑星を統治した四つの王家の血を引いた、いわゆる貴族的な連中が通っており、その貴族的な連中は血統者(グドワン)と呼ばれているのだとか。


 それに付随してか、学園は寮含む全体を純血舎(チャーキ)と呼称しており、純血舎は様々な物語に活用される事からストゥルターナの人々からは憧れの対象らしい。


 なんだか、いかにもって感じな設定だな。


『何にせよ、この惑星の住民が王政なんて敷いているにのは驚きました。最初にこの惑星に到達した連中は、相当悪趣味だったみたいっすね』


 ……なに? 宇宙では王政ってそんな評判悪いの?


『悪い以前の問題っす。問題点が多すぎて、列挙すればキリが無いすから。デメリットの一つをあげるとするならば、王が死ねば高確率で内乱が確定すること。コレだけでも最悪な統治方法っす』


 まあ、それは言えてるかも。


 日本でも殿様が死んだら跡目争いで結局お家が滅ぶなんてのはざらにあることだ。


 そう考えると、あんまりよくは無いのかもな。


『あんまりではなく、かなり良くは無いっす。実際、この惑星の住人もその問題に直面しているっす』


 ラッカの言葉を聞いて、俺は昨日のニュースを思い出していた。


 そういや、四大王家の内、三つがテロで滅びたとか言ってたな。


『そうっす、今、三王家が滅びて、実質、一つの王家の独裁状態になっているっす』

 

 ほう?


 じゃあ、今後はその王家による独裁が強まるってことか?


『コトはそう単純ではありません。残った一つの王家はキッカ家と言うんですけど、その王家は現在、この惑星の全ての勢力から、玉座を引きずり下ろされようとしてるっす』


 え? 王家なんだろ?


 そんなことを可能なのか?


『この四大王家は非常に上手いバランスでかみ合っていたんですよ。それぞれ治安維持を務める軍部へ血縁者を送り、そのポストや役職、人員数を見込みの軍事力としていたっす。つまりは、仲が良いようで、互いに牽制し合っていたんすよ』


 でもそのバランスが崩れたってことは……。


『そうっす、軍部にいるのは王家の血縁者達だけ。その者達が結託して、キッカ家を滅ぼそうとしているんす。テロの黒幕はキッカ家の仕業だったっていうプロパガンダも展開しています』


 ……中々に闇が深いな。


 一番に疑われるキッカ家がやっても特なんか無さそうなのに。


『それは皆分かってるっす。でも、キッカ家が玉座についたままだと、都合が悪いんすよ。だから、妄信的にその説を信じるしかないんす』


 じゃあさ、黒幕は別にいるのかな?


 俺がラッカにそう尋ねると、彼女の声音が変わった。


『それは我々には関係の無い話です』


 なんだよ、冷たいな。


『下手に首を突っ込んだら我々に危害が加わりますからね。カズヤさん、我々は多少治癒力があって不老なだけで、不死身ではないんですよ? この惑星の軍部に目をつけられ、特定の兵器で攻撃されたら普通に死にます。そのことは肝に銘じてください』

 

 ……分かったよ。


 あまり干渉しないようにするよ。


『それでお願いします。私もまだ死にたくはないすからね』


 そこで暫く気まずい雰囲気が流れた。


 俺は話題を変えるため、言葉を探していると——。


「見えてきました、右手側がこの惑星でも最も格式の高い純血舎であります」


 運転手がそう口にしたので、俺は窓際に顔を寄せる。


 地上には、まるでこの世の全てを置いてきた、みたいな荘厳な光景が広がっていた。


「……でかいな」


「惑星屈指の学園ですからね。市民からは憧れの対象ですよ」


 まるで神殿のような建物に、美しい庭園。


 そして、特筆すべきはその規模だ。


 遠方で、壁のように立ちはだかる蜃気楼となったビル群の真ん中、広大な敷地面積にそれはあった。







 地上の駐車場に降り立つと、直ぐに係員と思しきビシッとした雰囲気の人間達が近づいてきた。


「カズヤ・ギーク様と、ラッカ・ギーク様ですね。お待ちしておりました」


「ああ、どうも……」


「直ぐに寮にまでお連れします」

 

 そこでラッカとは別れることになった。


 寮は男女別に分かれている為だ。


 不安が残ったが、「助けてラッ○エモン!」と念じれば答えてくれるので、心配は要らないだろう。


 暫く係員について行くと、無駄にデカイ建物に案内された。


 神々が住んでそうな神殿っぽい建物だ。


 エントランス手前には滝と思しく立体ホログラムが流れていた。


 どうやらここが寮らしい。


 中に入ると、エントランスは巨大な吹き抜けのようになっていた。


 素材は大理石っぽい、高級感のある感じだ。


 そこを抜け、エレベーターみたいな機械に乗り、階上へと上がる。

  

 体感三階程上がり、廊下へと出た。


 暫く歩くと、係員の人は〝402〟と書かれた部屋の前で立ち止まった。


「朝食は八時。昼食は十二時。夕食は十七時から食堂となります。食堂の位置はこの端末に表示されます。何かありましたらお申し付けください」


「分かりました」


 カードキーと何やら携帯っぽい機械を俺に渡した後、係員は去っていった。


 俺はとりあえずカードキーを扉前の如何にも突起にかざし、扉のロックを解除した。


 中に入ると、俺は驚いた。


 エントランス同様、高級ホテルのような部屋だった。


 豪勢なベッドに、ふかふかのソファ。


 学園の庭園が一望できるテラスに、ガラス張りの何だかエロい浴室なんてものまであった。

  

「最高かよ……」


 俺はとりあえずソファに座りながら、暫く呆然と部屋を眺めてみる。


 すると、豪勢な机上の上に並べられた何かの存在に気がついた。

 

「なんだコレ?」


 近づいてみると、どうやら学園で使う筆記具やら教科書のようだった。


 その他にも学園の歴史やらその他ルールを記した書類みたいのが複数確認出来た。


『それは私が用意した学園での必須道具っす』


 ラッカの言葉が唐突に頭に響いてきて、俺は驚くよりも納得していた。


 そういや、入学前に必要物品は既に用意したとか言ってたな。


 それにしても……。


 一体いつ、用意したんだ?

  

『別に私が直接赴いて用意した訳ではないですよ。部屋内の物品から、構成したものです』


 は? どういう意味だ?


『分かりやすく言えば、部屋内にあった余分なインテリアとかを分解して、筆記具とかに作り替えたっす。まあ、これは大した技術ではありません。そこまで労力は割いてませんので、ご心配なく』


 ああ、そう……。


 もう何も言うまい。


『それより、渡された端末を開いてください』


 端末? ああ、係員の人に貰った携帯みたいなヤツか。


『そうっす。それを開いてみてください』


 俺は端末とやらの画面をタップしてみると、画面からホログラム映像が浮かび上がった。


『それは電話したり、学園内の地図としても使われたりする端末です。まあ、この惑星の割には、操作がかなり難しいんで、困りごとがあるようだったら、私のほうに——』


 へー……。


 俺はツイツイとホログラムを色々と弄ってみて、操作をしてみる。


 すると、意外と単純な構造であることに気がついた。


 まあまあ簡単な親切設計の仕様だな。


 これなら明日には使いこなせているだろう。


『……え?』


 ラッカの疑問形の言葉に、俺は首を捻っていた。


 一体どうしたってんだ。


『もう慣れたんですか?』


 ……あんまり複雑な機能じゃないだろ?


『いやいや……地球に比べたら百倍以上の難易度ですよ。目隠ししてプログラミングするようなものです』


 またまたぁ……ラッカさんは本当にお世辞が上手ですな。


 ていうか俺はナノマシンのお陰でこの惑星では俺TUEE状態なんだろ?


 そのせいじゃないか?


『……おかしいですね。宙域統合本部から渡されたナノマシンでは、この端末を一瞬で使いこなせる程の知力を得られる訳がないんですが』


 はあ? お前、俺はこの惑星では俺TUEE状態になれるって言ってなかったか?


『平均に比べればかなりパワーアップしてる筈なのは確かっすけど、この端末は学園特有の物で、この惑星の住人でも初めて触れる人が多いんですよ。卒業までに使いこなせなかったって人もいるらしくて……うーむ。まあ、この件はおいおい調査するとして、使いこなせるならそれに越したことはありません。机上の資料にもチラッとでいいんで、目を通しておいてください』


 はあ? まあ、分かったよ。


『それではカズヤさん、十七時からは食堂で夕食です。そこで一緒にご飯を食べましょうね』


 オクトクロッチを見れば——ああ、オクトクロッチってのは俺の腕に巻き付いた腕時計端末だ。


 これは様々な物に擬態出来る為、今は俺の左手でこの惑星では標準的な腕時計になっている。


 何故か三本ある時針を見れば、時間は十六時三十分を示そうとしていた。


 携帯端末で地図を見てみれば、食堂とやらはこの建物内にあるわけでなく、結構な距離があることが分かった。

 

 まあ、つっても歩いて十分もかからないだろうが。


 資料を見れば、通常での移動手段は建物間を繋ぐゴンドラ装置みたいな物を使うらしい。   


 俺は窓の外を眺めてみる。


 美しい紫と黒のストライプの入った花が庭園中に敷き詰められるように植えられていた。


 ——初日くらい、歩いてみるか。


 そう考えた俺は、ゴンドラ装置のある上階ではなく、一階へと向かった。


 




 エントランスを抜けてみれば、辺りを出歩いている人間は一人もいなかった。


 上を見上げれば透明な糸を伝ったゴンドラ装置が絶え間なく稼働しており、地上を歩く人間なんか居ないことが伺えた。


 やれやれ、勿体ないね。


 俺は庭園中に広がる紫と黒のストライプが入った花を見ながら、そんな感想を浮かべていた。


 この星の人間は文明こそ進んでいるが、こういう美しい物を愛でる感性は乏しいようだ。


 俺は陽気に鼻歌なんかを歌いながら、ゆっくりと食堂へと向かっていた。 

 

『ん? カズヤさん、ゴンドラ装置を知っていますか? 上階に一瞬で移動出来る手段があるんですよ?』


 ラッカの言葉に、俺は立ち止まって首を傾げていた。


 コイツ、俺の考えている事が分かるんじゃ無かったのか?


『カズヤさん?』


 問いかけるような言葉に、俺は実際に声を発していた。


「どうしたんだ?」


『……ああ、聞こえてはいたんすね。いや、おかしいすね、電波が無茶苦茶悪いんすよ。突然ノイズが走ってカズヤさんの考えが読めなくなったっす』


「え? まじで? じゃあ何で聞こえているの?」


『様子はドローンでも観察しているんですよ。それより、そのほ——うに——は——ない——くだ——』


「はあ? ラッカ?」


 俺が呼びかけても、ラッカはその後応じることは無かった。


 ……まあ、食堂に行けば会えるだろ。


 そんなことを思いながら俺は歩みを進める。


 沈みかけた夕日と、それに照らされた庭園を見ながら歩き、感慨にふけっていると。


 視界の端に写る——庭園の中に佇む、黒い影が見えた気がした。


「ん?」


 俺は影の方向へと視線を寄せる。


 するとそこには——。


 庭園にぺちゃんと座り込み、花を見つめる黒髪のポニーテールの少女の背後があった。


 ……具合でも悪いのかな?


 俺は近づいてみる。


 少女は愛でるように、愛おしそうに花々を見つめていた。

 

「なあ」


 俺が声をかけると、少女の背がビクリとした。


 暫くの時を有してから、少女は振り返った。


 その表情を見て、俺は思わず息を呑んでいた。


 その顔は、芯の強そうなキリッとした顔立ちに、それとは矛盾したように、今にも折れてしまいそうな泣き顔を浮かべていたのだ。


 その二面性を孕んだ雰囲気に、俺は呑まれていた。


 暫く見つめ合った後、ハッとした俺は声を発していた。


「具合でも悪いのか?」


「——え?」


「いや、座り込んでいたからさ」


 少女は唐突に我に返ったように立ち上がり、ザッと一歩後ずさった。


 風が吹いて、つややかな黒髪のポニーテールが揺れる。


 少女は暫くして、警戒したような様子で、凜とした印象のある声を鳴らした。


「心配するな……花を見ていただけだ」


「そうか」


 またもや時が流れる。


 ざあっと風がたなびく中、再び俺は声をあげていた。 


「あのさ」


「……なんだ?」


「食堂、行かないのか?」

 

 俺の言葉に、少女はキッと表情を強ばらせた。


「知ってて言ってるのか?」


「は?」


 俺の困惑顔に、少女は怪訝な表情を浮かべた後、納得したように警戒を解いた。


「いや……お前はギーク家の出か。ということは……お前は唯一の高等部からの転校生か。事情に疎いのも仕方ない」


 何でそんなことが分かった……て、返答を返すのは思いとどまった。


 なぜなら、この世界の人間の頭上には身分と名前が浮かび上がるからだ。


 俺はそこで少女の頭上の名前を見た。


 そこに書かれていたのは……。 


「ああ、そういうアナタは王女様か。突然話しかけて、失礼した」


 シオネ・キッカ・ストゥルターナと書かれていた。


 ラッカの話では、この世界で家名の後にストゥルターナと続くのは王族だけだ。 


 俺の言葉を聞いた王女様はふっと笑った。


「事情を知らないわけではないだろう?」


「……事情って、例のテロのことですか?」


 テロの陰謀論で、キッカ家とやら王族は不遇の一途を辿っていると聞いていた。


 俺がそう口にすると、王女は苦々し気な表情を浮かべた。


「ギーク家は中立で、四王家の義に厚いと聞く」

 

 そうなの? そんな設定はラッカから聞いていないんだが……。


「私に関わると不幸になるぞ。別に私を無碍(むげ)にしたからといって、義に反する訳でもない」


 王女はそう口にするなり、踵を返して食堂とは別の方向へと向かおうとする。


 俺はそんな背中に、思わず声をかけていた。

 

「あの、王女様」


「……なんだ?」


「端末の番号を教えてくださいませんか?」


 確か端末は電話番号みたいなものが割り当てられていて、それを聞けば通話出来るようになるとか資料には書かれていた。


 俺のそんな言葉に、王女は呆然としたような表情を浮かべていた。


「何故だ?」


「いや、この学園で最初に出会ったお方なので、知っておこうと思いまして」


「……どういう意図だ?」


「別に、これといって何もございませんよ?」


 王女は暫く立ち止まって末、フッと笑ってそのまま背を見せた。


「これ以上、裏切られるのは——」


 その時、王女の腹が盛大に鳴ったのを俺は聞いた。


 それはもう、立派な腹の音だった。


「お腹すいているんですか?」


 俺が聞くと、王女は全力疾走で何処かに走り出していた。


第三章 オー駄ーメイド

※明日四話、一挙公開予定

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