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8. 入学準備

★カガミヤ・カズヤ視点


 俺は何だか……辺りを漂う焦げ臭い匂いで目を覚ました。


 寝ぼけ(まなこ)で何事か、と起き上がり。ついでに壁にかけられた時計の時刻を確認する。


 どうやらまだ六時くらいみたいだな。


 みたいってのは、地球の数字とは異なるからだ。


 だけど、ナノマシンのお陰か、瞬時に理解可能だ。


 本当にナノマシンってのはあたおか性能だよなっと思いつつ、起き上がろうとする。

 

 すると、自分の右腕に重しのように巻き付き、すよすよと寝息を立てる水色サイドテールの美少女が視界に写った。


 ささやかな膨らみ二つが俺の上腕三頭筋を刺激する。


 それに全身系を某大正鬼狩りアニメの如く全集中しながら俺はやっとの思いで言葉を吐いていた。


「……何やってんの?」


 そうすると、パチッと目を開けたラッカはわざとらしく目をこすりながら起き上がった。


「あれ、お兄ちゃん……なんで私のベッドにいるっすか?」 


「おおう」

 

 俺はその言葉に、最早感動を覚えていた。


 コレはアレだ。


 ギャルゲーではお約束展開の、夜中、妹がトイレに行って帰ってきたらベッドを間違えていた展開だ。


 実の妹だったらベッドから蹴りだすところだが、ラッカは当然ながら血がつながっていない。


 つまり、義理の妹枠だ。


 ラッカは俺の為にギャルゲーっぽい設定にしたと言っていたが、まさかアフターサービスまで充実しているとは。

 

「お前、最高だな。一つ夢が叶ったよ」


「お褒めにあずかり光栄っす」


 ラッカはベッドから出て立ち上がるなり、伸びをして、乱れたパジャマを見せてきた。


 ボタンの外れた先に柔らかな白い肌と白い下着が見えた。


 それを見た俺は、思わず朝特有の三点倒立を見せる〝もう一人の僕〟と共に、親指を立てていた。

 

「ラッカさん、百点ですよ」


「なんで敬語なんすか? それより、早くキッチンに行かないとまずいっす」


 俺はそんなことを言うラッカと共に、キッチンへと赴く。


 すると、そこには。


「あああ!? 何だかやばい感じになってるぅー!?」

 

 キッチンで慌てふためくベルミーの姿があった。


 どうやら朝食作りを開始したが、失敗したらしい。


 ブスブスと音を立て、黒煙が室内に舞っていた。


「……ベルミーさん、昨日解雇通知は出した筈なんですが、なんで勝手にキッチンに入っているんすか?」


 ラッカは冷めた目でベルミーにそんな言葉を投げかけていた。


 昨日、ベルミーは夕飯を作ると言って三時間キッチンにこもり、結局何かの燃えかすを俺とラッカに提供した。


 ラッカはその場で「解雇」と口にして、ベルミーを家から放り出したのだ。


 俺はあまりに不憫だったので、家に居る位は勘弁してやれとその場は落ち着いたのだったが……。


「リベンジです! ラッカさんに認めてもらう為に再びキッチンに戻った次第です!」


 ベルミーは必死に釈明するようにお玉を握りしめていた。


 その間も黒煙は増していき、ベルミーの背後の鍋はボンっと蓋を飛ばして軽く爆発していた。


「あああ!? 魚の香草焼きが!?」


 ラッカはため息を吐いたかと思うと、冷めた目で口を開いた。


「アナタは、目的を履き違えないでください。アナタの仕事はカズヤさんのご機嫌取りの筈ですよ。私のご機嫌を伺ってどうするんですか?」


「うぅ……」


 うつむくベルミーがあまりにも不憫だったので、俺は口を挟むことにした。


「まあまあ、駄メイドの汚料理(おりょうり)はギャルゲー的にも鉄則だよ。これは評価すべきところだ」


「カズヤさんがそう言うならば許しましょう。ほら、どいてください」


「私はまだ——」


「仏の顔は三度までと地球では言われるらしいですが、私は一度でアウトです。ほら、邪魔っすよ」


 ラッカはそう口にするなり、キッチンへと立って慣れた手つきで料理を始めた。


 昨日も見た光景だ。


 ベルミーはうつむき加減でキッチンからのそのそと出てきた。


 俺はそんな彼女の肩に手を置く。


「ドンマイ」


「うぅ……情けないですぅ」

  

 そこから三分くらいで料理は完成した。


 ストゥルターナで定番の朝食、地球のどの料理にも該当しない外見だが、味は確かだ。


 きっちり三人前だったので、少しほっこりした。


 ラッカのツンデレには困ったものだ。   



 

 


 その後、俺たちは朝食を取りながら本日の段取りについて話し合うことにした。


 ラッカから昨日聞いた話では、二日後。今日を含めれば明日に、この惑星の学園とやらに潜入しなければならないのだ。


「んで、今日は入学するために必要な物を何か買いに行くのか? 筆記具とか要るだろ?」

 

 俺がそう口にすると、ラッカはほんのり微笑んだ。


「必要物品は既に寮に届けさせてあります。準備は要りませんよ。今日は学園に赴くだけっす」


 ……もう既に揃っているって?


 潜入することを決めたの昨日なのに、仕事が早すぎるだろ。


 そんな事を思いながら何やらスクランブルエッグの亜種みたいな料理を口を運んでいると……。


 俺は彼女の言葉から、聞き捨てならない台詞があったことに気がついた。


「……ちょっと待て、今日(、、)学園に行くって?」


「そうっすよ」


「明日じゃないのか?」


 俺がそう口にすると、ラッカは苦笑した。


「勘違いさせたようで申し訳ないっす。確かに入学は明日なんですけど、寮に入るのは今日なんすよ」


「……寮? 通いじゃないのか?」


「全寮制の学園っすからね。暫くは学園の敷地内で暮らすことになるっす」


 その言葉に、美味しそうに食事を続けていたベルミーが立ち上がった。


「ら、ラッカさん、私はその間どうなるんですか!?」


「ベルミーさんにはこの家に居て貰うっすよ。暇を潰せるゲームとかは買い込んであるんで、好きにしてもらったら構わないす。ああ、食事や身の回りの世話は心配しないでください。私お手製のロボットを置いていくんで」


 ラッカの言葉に反応したように、如何にもメカメカしいロボットがガシーンッ、ガシーンッと二足歩行しながらダイニングに現れた。


『ベルミーサン、ナニカアリマシタラ、オモウシツケ、クダサイ』


「おおすっげ、ロボだ。ラッカこんなの作れるんだな」


 俺が感心していると、ベルミーがわなわなと震えていた。


「違うんです、そういうことじゃなくてですね! 私は自分の身の回りの世話が必要なんじゃなくて、カズヤさんのサポートが主任務なんですよ!」


 え? そうなの?


 その割にはベルミーのお世話を受けた覚えは一つもないんだけど……。


 ベルミーの言葉に、ラッカは黙って俺へと視線を寄せた。


「カズヤさん、私とベルミーさん、どっちのサポートを受けたいですか?」


「え?」

  

 ベルミーが期待のまなざしで俺を見つめてくる。


 参ったなあ……いくらギャルゲー好きでも、こういう二択問題は苦手なんだけど。


「ああ……ごほん。まあ、適材適所ということで、今回はラッカさんにお願いしようかな」


「そんなあああああ! ラッカさんはただのカメラマンなのにいいい!」


 騒ぎ出したベルミーに対し、ダイニングの隅で控えていたロボがプシュッと何かを発射した。


 それはベルミーの首元に命中し——。


「ふぎゃ!?」


 ベルミーは白目を剥いて背中から倒れていく。


 俺は慌ててそれを受け止めようとしたが、如何にも鈍重そうなロボが目にも見えないスピードで動き、ベルミーの背中を支えた。


「オツカレノヨウナノデ、シンシツマデオハコビシマス」


 ロボはベルミーを抱え、ガシーンッ、ガシーンッとダイニングを後にした。


 俺がそれを呆然と眺めていると……。


「やれやれ、うるさいのがやっと消えましたね」


 ラッカが料理を咀嚼しながら、クールにそう口にした。


「……いくらなんでも、酷くない?」


「え? なんでですか?」


「ベルミーだってやる気はあるだろ? 何か役割を与えたらどうだ?」


 俺がそう口にすると、ラッカは少し困ったように眉を寄せた。


「本来はギーク家の跡取りの世話係として、寮にカズヤさんと一緒に住まわせるつもりだったんですよ」


「え? そうなの?」


「はい……だけど、まさか料理まで出来ないなんて思わなかったっす」


「まあ……得意不得意はあるだろ?」


 俺がそう口にすると、ラッカはシリアスな表情で口を開いた。


「宙域統合本部の高級ナノマシンを打ってる筈のベルミーさんが、単純作業の料理すら出来ないなんて、本来はあり得ないんすよ」


「え?」


「彼女は私より高価なナノマシンを打ってる筈なんす。つまり、普通に考えれば私より優秀な筈なんすけどね」

 

 俺はその言葉には困惑した。


「……どういうことだ?」


「さあ……分かりません。一つ言えることは」


 ラッカは口元をナプキンで拭いた後、真剣な表情で俺を見据えながら言った。


「私も本来は——カズヤさんのカメラマンが出来るような人間では無かった筈なんすよ。仕事が舞い込んだ時は驚きました。なんせ私は……宙域統合本部のお抱えカメラマンの中でも最低ランクの評価でしたから」

 




 それから俺とラッカは制服に着替え、マンションの空中駐車場とやら空飛ぶ自動車がやってくる場所まで移動した。


 タイヤの無い車っぽい自動車が数台、駐車スペースに止まっている。


 ひとたび空に視線を向ければ、空中に浮かぶ透明なトンネルのように発光する恐らく道路のような場所を、様々な種類の空飛ぶ車が駆け抜けていっている。

 

「やっと宇宙っぽい光景を見たよ」


 俺が感嘆とした息を吐きながらそう口にすると、ラッカは笑っていた。


「最先端の宇宙船であるウルハ号に乗っておいて、よく言えますよ。こんなのは下の下の技術っす」


「……これで下の下? じゃあ宇宙で最先端の都市はどんな感じなんだ?」


「常に次元作用が働いてるっす」


「は?」


「つまり、資源を使った建造物はありません。最高度な辻褄合わせが為されているんすよ。空間を騙しているんす」


 ふむ、意味が分からん。


 とにかくそこで数分待てば、空中タクシーのような車が到着した。


 中からは運転手と思しきおっさんが出てきて、俺たちに深々と頭を下げた。

  

純血舎(チャーチ)に入学される血統者(グドワン)の方をお迎え出来て光栄です。ささ、お乗りください」


 そう言って、おっさん運転手は後部座席を開ける。


 なんか、凄いへりくだっていた。


 ホログラムみたくおっさんの頭上で空中浮遊するネームプレートを見れば、五等市民:職業運転手、と記載されていた。


 ほう……身分が表示される訳か。


 気づけばラッカの頭上にも同じようにそれが表示されていた。


 一瞥(いちべつ)して身分と名前が分かるってことか、格差社会っぽいけど、便利なこった。

 

「本日はよろしくお願いします」


 俺がそう口にすると、運転手は感激したように頭を下げた。

 

「勿体なきお言葉です! ありがとうございます!」


 ……なんだか、複雑な心境になったな。


 そう思いながら車に乗り込む。


 ラッカも俺の隣に鎮座すると、早速車は動き出した。


 エレベーターの浮遊感に似た何かを感じながら、音もなく、車が空へと飛び立つ。


 窓から眺める光景は、元々高層マンションの駐車場だったからか、地上からは数百メートル以上離れていた。


 初めての感覚に内心びびっていると、唐突に、そして脳内直接話しかけられたように、声が響いてきた。


『心配しなくともいいっすよ』


 ラッカの声音だったので、思わず隣に鎮座している彼女の顔を見た。


『ああ、返答しないでください。今は声帯を使わず、カズヤさんに直接話しかけているっす。これは、ストゥルターナ惑星にはまだ存在しない技術なので、そのおつもりで』


 その言葉には、素直に驚いていた。


 確かに彼女の口元は動いておらず、俺の脳内に直接声が響く感覚があったからだ。


 テレパシーってやつか?


『似たようなもんす』


 俺はその言葉には思わず顔をしかめていた。


 何故なら、俺は彼女の言葉に一切返答していないからだ。


『カズヤさんの考えは、こちらに直接響いてきてるんすよ。ナノマシンの影響です』


 え? じゃあ今まで俺が今まで浮かべていた感想とかも全部お前に読まれていたってこと?


『その通りっす』


 ……お前の考えは全然読めないんだけど?


『カズヤさんのナノマシンと、私達宇宙の住人のナノマシンはかなり違いますからね。そもそも、宇宙では〝音〟によるコミュニケーションは使わないんすよ』


 つまり、俺はこれから心を読まれ放題ってことか?

 

『まあ、意識してシャットアウトする方法も無いことはありませんが、それは現状では難しいでしょう。カズヤさんはこの技術に慣れていません。何にせよ、カズヤさんのサポートとしては現状の方が都合が良いっす』


 ……俺は都合が悪いんだけど?


『まあまあ、これからは困った事があったら心で念じてください。すぐに私が解決策を導き出しますよ』


 まじかよ、お前はサポートAIみたいだな。


『似て比なるものっす。宇宙の住人は、絶対限界のあるAIの到達点より優れてますからね』


 すご過ぎだろ。


 だが、ずっと心を読まれるのは考え物だな……。


『何でですか?』


 だって、せっかく寮で一人になれると思ったのに。


『一人になって何をするつもっりすか?』


 いや、そりゃあ……って、お前心を読むなよ? 


 誘導尋問は止せ。じゃないとお前が思わず悶絶するようなことを思い浮かべるぞ。


『お好きにどうぞ。私はカズヤさんの思考する全ての表現を尊重します』


 プライベートも尊重してほしんだけど……。

 

 そんな俺の切な願いは、未来都市の上空で淡く消え去った。





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