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4. 脱出

★カガミヤ・カズヤ視点


「次はユンパルーターと、ソゾトリアムシーケンサーを持ってきてください」


「わ、わかりました~」


「はいよ!」


 カオス領域からの脱出方針が決まった俺たちは、船内を慌ただしく動き回っていた。


 現在は船内の部品を利用した、簡易的な推進装置——爆薬作りをラッカの指揮の元、行っている。


 というのも、即席で爆弾作りなんて芸当ができるのは謎に高スペックらしいラッカだけで、もっぱら俺とベルミーは必要資材を集める役だ。


 俺はラッカの言ってるユンタなんたらとか、舌を噛んでしまいそうな名前の部品がサッパリ分からなかったので、ベルミーの後についていき、荷物持ちでもやってやろうかと思っていたのだが……。


「ふぎぎぎっ!」


「カズヤさん! お顔が(シン)ラーメンみたいになってます!」


 拳大くらいのサイズの部品すら持ち上げることが出来なかったのだ。


 ベルミーはツッコミながらも、ヒョイと涼しい顔で持ち上げて見せていた。


「……なんかコツでもあんの?」


 俺が聞くと、ベルミーは複雑そうな表情を浮かべながら——衝撃的な事を言った。


「カズヤさんは神様の恩恵を受けていませんからね」


「は?」


 こんな超技術ばかり持っている宇宙人が、神様とか言い出したので思わずフリーズした。


「あれ? 言語の伝達が上手くいっていませんかね?」


「……神様? SFみたいな世界観なのに?」


 そんな俺の発言に、ベルミーは何故か目線を彷徨わせながら——。

 

「あー……その辺はおいおい説明しますよ」


 誤魔化すようにそう言った。


 俺が更なる疑問を口にしようとしたその時。


 腕時計が振動して、ラッカの声が聞こえてきた。 


 このデバイスはどうやら通信も可能らしい。


『まだかなあ? ユンパルーター、まだかなあ? 遅いなあ、なんか遅いなあ?』


 それを聞いたベルミーは顔を青くする。


 ここ数日、二人をそれとなく観察していたが。何故かベルミーはラッカに苦手意識があるらしい。


 そんなベルミーを、ラッカもナチュラルに下に見ている気がする。


『はやく来ないかなあ、物をとってくるだけなんだけどなあ? もう私が取りに行こうかなあ?』


「あっ! ラッカさんが呼んでるんで私は先を急ぎます!」

 

 ベルミーはラッカの急かす通信を聞くなり、足を風車の様にピューっと高速回転させながらすっ飛んでいった。


 それを俺は呆然と眺めて立ち尽くし——。


「え? もしかして俺、要らない子? 脱出の発案者なのに?」


 そんな言葉が口から漏れていた。






★ 


 暫くしてラッカの居る部屋に戻ってきた。


 俺だけ何もしてないのはアレなので、バタバタとその辺を走りまわって、やってますよ感を出す。


 すると——。


「カズヤさんはその辺でおとなしくしといてくれて良いっすよ」


 ラッカに呆れ顔でそんな事を言われてしまった。


 俺は、なけなしのプライドが崩れ去るのを感じた。


「いやさ、こういうのは雰囲気が大事かと思って……みんなが一丸となってなんとか脱出しようとしてるっていう——」


「なに言ってんすか」


 はあ、とため息を吐くラッカ。


 後輩感漂う少女にそんな感じで軽くあしらわれた俺はすっかり心が折れ、彼女の傍で体操座りをしながら作業を見守る事にした。


 それを視界の端にとらえていたラッカは唐突に吹き出した。


「ぷっ」


「……なんだよ?」


「いつもと逆ですね」


 まあ、確かに。


 ここにきてからは、いつも俺の周りをラッカがストーカーのようにつけ回し、ジーっと眺めてきていたからな。


「なんだか、そんな日々も懐かしい気がするよ」


「えー? 懐かしむには早くないですか?」


「ここにきてからもう十年は経った気分だよ」


 ラッカはそんな俺の言葉に、カチャカチャと作業を続けながら、


「家族に会いたいですか?」


 そんな事を問うてきた。


 うーん、なんだろう。年下に気を遣われているようで凄く情けないんだが。


「うーん」


 俺がなんと答えようか迷っていると、ラッカは再び呆れたように口を開いた。


「えぇ? 即答で会いたいって言うと思ったっす」


「家族なあ……まあ、まだここへ来て二日だし。ホームシックって感じでは無いな」


「妹さんが居ましたよね?」


「おいおい、なんで知ってんだよ」


「カズヤさんの家族構成は〝宙域統合政府〟のトップより知名度がありますから」


「なんだそりゃ……」


「もしここから抜け出たとして、次地球に行く機会があるとしたら二十年後っす。地球では軽く数万年くらい経ってるっすよ」


 数万年か。


 実感が沸かないが……家族はもれなく全滅しているな。

 

 しかし、待てよ。


「つーか、地球の他の奴らは不老不死にならないの?」


「地球人ではカズヤさんだけっすよ。それも、特例中の特例っす。本来はではありえないことなんすよ」


 ……まじか。


 古来の中国では不老不死になる為に水銀を飲んだチャレンジャーな王様がいたらしいが……。


「永遠の命……ね。俺には大層な代物だ」


「え? 人類の夢って聞いてたんすけどね、不老不死は」


「そんなもん本気で欲しがってるのは強欲な金持ちだけだよ。貧乏人はそれなりで死にたいもんだ」


「今や、カズヤさんは全宇宙でも指折りの富豪っすけどね」


「心がな、豊かなんだよ」


 マイハートを指しながらの俺の言葉に、ラッカはチラリと視線を寄越した後に——。

 

「あっ、もうすぐ完成しますよ」


 ……その反応、なんか軽くあしらわれたみたいですげー恥ずかしいんだが。


 そんな感想が浮かんだが、気を取り直してラッカの手元を覗き込んでみる。


 そこには、野球ボールサイズの丸っこい装置が組み上がっていた。


 想像していた爆弾とは全く違っていたので、俺は首かしげる。


「そんなちっこいのか?」


「地球風に言えば、超新星爆発並みの威力を持ってるっす」


 え? 


 超新星爆発って言ったらアレだろ?


 惑星が大爆発するとかいうやつ。


 俺が無言で一歩後ずさると、ラッカは笑いながら答えた。


「つっても、カズヤさんが想像する様な爆弾じゃないっすよ。言うなれば一方向に膨大な圧力を加える推進装置みたいなモンっす。〝カオス領域〟ではエネルギーはほとんどが吸収されちゃうんで、この爆発も微々たるものです」


「提案しといてアレなんだけど、船は耐えられるのか?」


「大丈夫っすよ、この船は超高級品っすから。大量生産された軍艦よりも耐久性は上っす」


「何それスゴイ」


「お待たせしましたあー! 持ってきましたよ、ラッカさん!」


 一仕事やり終えた感を出しながら、ベルミーが数個の部品を抱えて満面の笑みで登場した。


 ラッカは黙って立ち上がり、彼女の抱えた部品を一つ掴んでまじまじと眺める。


 その様子を、ベルミーは緊張したように眺めていた。


 不意にラッカが、部品から視線を上げてベルミーを見つめる。


 そして——。


「ベルミーさん、特殊物の検定ちゃんと受けました?」


「う、うっ、ううう、う受けました!」


 あっ、なんか不穏な空気だ。


 ベルミーがわたわたと慌てて、ラッカが少しイラついた様な感じだった。


「じゃあなんでシーケンスをダイバーボックスに仕舞わず持ってきたんですか? 重ねたらループ現象が起きちゃいますよ?」


「す、す、すみません!」


「誤って済む話なら良いんですけどね。今回はそうじゃ無いですから。もう良いから貸してください」


 なんだか、居た堪れない光景だ。


 ベルミーは明らかに年下っぽいラッカに、ガチ説教をくらっていた。


 ラッカは呆れ顔でベルミーからシーケンスとやらを受け取り、腕時計にかざした。


 そして——ふう、と安心したように息を吐いた。


「幸いなことにループ現象は起こってないみたいです」


「大丈夫ってことか?」


 俺が聞くと、ラッカが犬歯を覗かせた笑みを浮かべた。


「ええ、これで無事完成っす。セッティングしたら直ぐに爆発させるんで、多少揺れるっすよ。壁際には近づかないでください」


「おー、頼んだぞ」


 ラッカはそう言って、部屋を後にしていった。


 俺とベルミーがなんとなくその背中を見送っていると。


「ラッカさんは……本当に、一体何者なんでしょうか?」


 ベルミーがそんな言葉をポツリと呟いた。

 

「どういうことだ?」


「あんな爆弾を即席で作れるのは……宇宙でも一握りの筈ですから」

 

 ……宇宙の基準が分からんから何とも言えないが、すごいってことだろうか?


「有名人の俺の付き人なんだから優秀なんじゃね?」


 俺がそう口にすると、ベルミーは苦笑した。


「ラッカさんはあくまでカメラマンですから、そんな知識を持ってない筈なんですけど……」


 カメラマン?


 そういやラッカも自分で「私はカメラマンですから」みたいな事言ってたな。


 でもアイツ、出会ってからこの方、カメラを持ってる姿なんて見たことがないぞ?


「だからそのカメラマンってどういう——」 


 俺がそう口にした瞬間——。


 船内が洗濯機の中かってくらいに揺れまくった。


「うおおおおおおおっ!? めっちゃ揺れる!?」


「きゃあああああ! お姉ちゃーん!」


 俺とベルミーの絶叫に近い叫びが交差する中、唐突に船内が停電した。


「暗い!? かつて無いほど暗いよおおお!」


 ベルミーが暗闇の中、俺の腕に思い切り縋りついてきた。

 

 むにゅっと柔らかな感触が上腕二頭筋を伝い、本来なら役得だな……と鼻の下を伸ばすところではあるが、その力が尋常では無かった。


 ベルミーの掴んだ俺の腕の骨が、ギリギリと軋む音がする。


 最終的に、ベルミーは俺の首にまで手を回してきた。


「おねえちゃーん! 暗いの怖いよー!」


「バカッ!? いてぇって! 洒落にならな——」


 その時——暗闇の中、ベキッと何かが割れる音がした。


 唐突に船内が明転する。


 気づけば俺は床に倒れ伏し、涙を浮かべるベルミーに揺さぶられていた。


「カズヤさん!? 首が新生児のごとく自立してませんよ!? 一体誰がこんなことを!?」

 

 あー……ベキっていったのは俺の首の骨だったのか。


 ていうかさ、ベルミー。


 一つ言わせてくれ。


 お前だよ、首を折られて、我死する。


 痛みで薄れゆく意識の中、俺は時世の句を浮かべていた。


 ……ってアレ?


 俺は突然痛みが癒えたのを確認し、その場から立ち上がった。

 

「なんともなくなった……」


「ああ、それはナノマシンのお陰です。首の骨折程度なら瞬時に治ります」

 

 俺はそれを聞いて愕然としていた。


 自分の体が人外になっていることを急速に実感していたからだ。


 暫くベルミーの言葉に呆然としていると——。


「うおおおおお! やったああっ! やったあああっすよ! 〝カオス領域〟から抜け出たっす!!」


 かつて無いほどハイテンションのラッカが、部屋に飛び込んできた。


 ベルミーもすかさず信じられないといった表情でラッカに走り寄った。


「マジですかあ!? あんな無茶苦茶な方法で!?」


「マジっすよ! これは偉業ッス!」


 二人は抱き合って、暫く興奮が冷めない様子だった。


 俺はというと……人外になったことを実感した直後だったのもあり、そのテンションにはついていけなかった。


「カズヤさん! これはマジで凄いこと何すよ!」


「おう……やったな」


「何でそんなテンション低いんすか! これはとんでもない事なんです! 総合格闘技で三歳児がコナー・マクレガーに小指で勝つくらい凄いんすよ!」


 どういう例えだよ……。


 凄いのは伝わったが……。


「そういや……追っ手は大丈夫なのか?」


 俺たちはそもそも謎の船団に襲われてこの〝カオス領域〟とやらに迷い込んでいる。


 俺がそのことを尋ねると、ベルミーがハッとした表情を浮かべていた。


 対照的に、ラッカは余裕な笑みを浮かべた。


 そして、周辺に立体映像を展開して説明を始める。


「私に抜かりはないっす。周辺には船団と呼べるモノは一つも……」

 

 そこで言葉を失ったラッカに、俺とベルミーは不安げな表情を浮かべた。


「おいおい……そこで言葉を切られると怖いんだけど」


「ラッカさん?」


「……なんか、おかしいっすね。ちょっと周辺の地理を調べさせてください」


 ラッカはそう口にするなり、部屋いっぱいに広がるほどの立体映像を浮かび上がらせ、何やら高速で処理し始めた。


「ラッカさん、すご!」


「……これ、宇宙的にも凄いの?」


 ベルミーが驚愕していたので、気になって尋ねてみると。


「これは宇宙船と連動して情報処理してるんですが、同時にこんな多くの処理が出来るのは宙域統合執行本部のエリートでも難しいと思います」


 ……やっぱり宇宙基準が分からないので凄さの実感が沸かない。


 そんな感想を浮かべていると、ラッカは「解析が終わったっす」と、俺たちの前に巨大な立体映像を浮かび上がらせた。


 それは銀河系を表した宇宙地図のようなモノだった。


 ベルミーはそれを見た途端、顔を青くしていた。


「ええ!? 何処ですかあ、ここ!?」


「は?」


 俺が首を捻っていると、ラッカが口を開いた。


「どうやら……私達、周囲をカオス領域で囲まれた、未到達の銀河系に到達してしまったみたいです」






 ラッカの説明によると……。


 俺たちは別にカオス領域を抜け出ることには成功したが、カオス領域に囲まれた宇宙文明未到達の銀河系に降りたってしまったらしい。


 レーダーで感知出来ないカオス領域に何故囲まれているのかが分かったかというと、ウルハ号に搭載されているドローンを四方に飛ばして、その全ての接続が切れたから、だそうだ。


「じゃあ……あまり状況は変わらないってことか?」


 俺が聞くと、ラッカは首を横に振った。


「エネルギーが吸収され、電波も通さないカオス領域とでは天と地の差ですよ。今はドルクスラ通信も入ってきますし、何とかなりそうっすね」


「え!? 通信が入ってきてんの!?」


「ええ。ですが、四方に飛ばしたドローンの接続が切れたという事は、周囲をカオス領域に囲まれている可能性があるということです。宙域統合本部も未開拓の銀河系ですし、何処でまた二の舞になるかは分かりません。そうなると、外からの救助も難しいでしょうね」


「まじか……でも、希望は見えてきたな」


「そうすね。ひとまず、今はウルハ号の重要部品が欠落した状態です。補填が急務なので、資源を得られる惑星が無いか探してみましょう」


 ラッカはそう口にするなり、立体映像をスイスイと動かして、早速何かを見つけていた。 


「ん? ……なんだコレ?」


「どうしたんだ?」


「早速見つけたんすけど、あまりに生命に対して条件が良さ過ぎるんで不思議に思ったっす。ちょっと近づいてみましょうか」

 

 ラッカが見つけた惑星というのは、地球に似た青い惑星だった。


 ラッカは立体映像を駆使して様々な操作をして……。


 犬歯を覗かせた口端を歪ませた。 


「どうやら、ここは知的生命体が住んでいるようですね」


 そんな衝撃的な発言をした。


「マジか!?」


「ズームアップします」


 立体映像の地球に似た天体がズームアップをする。


 そこに映し出されていたのは——。


 地球よりも遙かに進んでいるとみられる先進都市の姿だった。











  

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