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3. カオス領域

★カガミヤ・カズヤ視点


 そうして、なんやかんやで宇宙へとやってきてから一日が経過していた。


 つっても、窓もない真っ白な無菌室みたいな閉鎖空間内では、そんな実感も無い。


 謎技術で重力も保たれているしな。


 宇宙船、通称ウルハ号は、自動運転の為、ラッカやベルミー以外搭乗者がおらず、何区画にも分かれた結構な広さだそうだ。


 一応護衛として、地球を出発したころから軍の大船団が付き従っているらしいが、この目で見たわけでは無いのでこれまた実感も沸かない。


 時折ラッカやベルミーが、思い出したように『〇〇地域を通過しました!』


 みたいな報告をしてくるが、俺にとってはそんなことどうでもいいし、知らない。


 最初の目的地であるという、何とかかんとか星に到着するまで、ソファみたいなふわふわした椅子でだらだらと過ごしていた。


「暇で死にそうだ。まだ到着しないのかよ?」

 

 俺の傍らで突っ立っているラッカに尋ねる。


 初日以来、ラッカは俺のそばから離れずに穴が空くほど見つめてくるのだ。


 再び何故そんなことをするのか尋ねたが、返答は最初から何も変わっていない。


 カメラマンだから——だそうだ。


 彼女のそれが何を指しているのかは不明だが、どうでも良くなった。


 こんな超技術の宇宙船を前に、いちいち疑問を抱いていたらきりが無いからな。


「地球基準であと、五日はかかるっすよ。そんなに暇ならゲームでもします?」


 ほう、ゲームだと?


 気になった俺は体を起こした。


「そんなもんがあるなら早く言ってくれよ。どんなゲームなんだ?」


「宇宙ではナノマシンでは追いつかない危険地帯があるんすけど、そこを移動したりするのに使う高機動スーツがあるんすよ。それの搭乗シュミレーターっすね」

 

 機動スーツだって?


 もしかしてロボット的なやつだろうか?


 男の子のロマンじゃないか。


「ほう、やってみたいな。ベルミーも行くか?」


 俺が何となしに声をかけると。


 床に寝転がりながら雑誌みたいなものを読んでいたベルミーはピクリと反応し、こちらに視線を送ってくる。


 心なしか動揺しているような、そんな瞳の揺らめきがあった。 


「え、遠慮しときます」


「あ、そう。ほんじゃあ、ラッカ、案内してくれよ」


「はいっす」


 ラッカに連れられ、何区画かを移動してシュミレータールームとやらに移動する。


 そこは少し薄暗く、中央にガラス張りの搭乗ポッドのようなものがあるだけの、殺風景な部屋だった。


 というか、宇宙船内部は殺風景な部屋が多い。


 工場勤務の父を持つ息子としては、配電盤もパイプも無い施設には違和感を覚えるのだが、彼ら宇宙の住人からからすれば、『ごちゃごちゃしてるほうが落ち着かない』らしい。


 それが宇宙人たちにとっての美的感覚なんだとか。全く持ってロマンの無い連中だぜ、全く。 


 そんな感想を浮かべながら、俺は搭乗ポッドの椅子の前まで到着していた。


「これに座ればいいの?」


「はいっす。カズヤさんも物好きっすよね」

 

 そのラッカの物言いに、俺はポッド内の椅子に座りながら思わず眉根を寄せた。


「はあ? お前が提案したんだろうが」


「宇宙の多くの人々は、だらだらする何もない時間を大事にしてるんですよ。暇なときに何かしたいって感覚は地球人特有っす」


「ああ、そう……まあ、何でもいいや。それより、どうやって使うんだよ、これ?」

 

 見れば、操作する用のハンドルやらボタンも無さそうだった。


「すぐに画面がきりかわ——」


 ラッカが言い終わる前に、景色がガラリと変わった。


 ガラス越しに見えていたラッカは消え、ポッドのガラス面には鬱蒼(うっそう)と緑の生い(しげ)った森林地帯が映し出される。

 

「おお、すっげ」


 感動しながら辺りを見回していると、遠くでキラリと光る何かが見えた。

 

「なんだありゃ?」


 目を凝らしていると、ご丁寧にその光る物体がズームされて映し出される。


 それは——何やら、ビームガンのようなモノを携えたロボットだった。


 あれが敵か?

 

『敵、オプスレイド急速接近中。回避行動を取ってください』


 機械音声で発せられたオペレーターの声が、ポッド内に響きわたる。


 ほう、AIの音声案内的なやつか?


 粋だねぇ。 


「要は、あいつをぶっ壊せばいいんだな?」


『肯定します、対象を無力化してください』


 ほう、俺の言葉に反応もするのか、すごいな。


 よし、同意も得られたところで反撃に——って、ちょっと待て。


 ピクリとも動かないんだが?


 そもそも操作レバーもボタンも見当たらないし、どうやって攻撃すればいいんだ?


『早急に回避行動を——』


「おい、どうやって動かすんだ?」


 AIは暫く無言になったのちに、機体を浮かび上がらせた。

 

『自律モードに移行します』

 

 浮かびあがった機体は、敵機が飛んでくる方向とは逆の方向に飛び出す。


 どうやら俺が動かせないと知って、AIが自分で動かし始めたらしい。


 シュミレーターなのに随分実戦に即しているんだなあ。


 関心していると、後方から真っ赤なビームのようなものが駆け抜けていった。


『このまま回避行動を続けます』

 

 振り返ると、敵がライフルを構えながら何発もビームを発射してきていた。


 俺の機体はビームを避けながら防戦一方だ。

 

「なあ、使い方を教えてくれよ?」


『現状を回避するための能力に疑いがあります。コントロールを移譲することにより、パイロットの安全性が確立されない可能性があります』


「だから、その使い方を教えて欲しいんだ」


『現状では困難です、ご理解ください』


 まじか、なんて面倒なゲームなんだ。


 これじゃあ遊園地の何とかライドと一緒だぞ。

 

「ならせめて反撃しないのか?」


『我々AIは規定により、反撃が禁じられています』


「はあ?」 


『AIは高度知的生物を傷つけることはできません。その為、反撃は不可能です』


 ロボット三原則みたいなもんか。


 AIになんでもかんでも任せたら支配されたりして危険、みたいなのは地球でも言われていたことだ。


 しかし、その制約のせいで俺は敵にやられねばならないのか? 


「逃げ切れる可能性は?」


『ゼロパーセントです。敵オプスレイド部隊、包囲網を構築しつつあり、生存は絶望的状況にあると申告します』


「そんじゃあ、お前の回避行動も、俺の命の危険を害する行為に当たるわけだ」


『結果的にはそうなります』


「じゃあ、俺に使い方を教えて生存率を上げたほうがよくないか? そっちのが生き物に優しいと思うぞ」

 

 AIは暫く黙っていたが、諦めたように説明を始めた。


『操作方法を説明します——』


 操作方法を聞いたがなんと、ロボットに念じて直感的な操作を行うらしい。


 回避行動をとりながらなんとか通常操作をものにし、敵一機に攻撃を繰り出すことに成功した。

 

『……お見事です、素人ではありえない習得スピードです』


 ほう、お世辞までついてくるとは流石宇宙技術だ、気に入った。


 そこからは長い闘いだった。間髪入れずにやってくる敵を探し、興奮しながらビームを打ちまくった。








「わりー、待たせたな」


 ポッドから出ると、体育座りをしたラッカが出迎えた。


 心なしか、少し不機嫌そうに。そして、疲れているように見えた。


 彼女は俺の顔を見るなり、皮肉っぽく口を開いた。

  

「ずいぶん長い間……お楽しみでしたねぇ」


「だから悪かったって、三時間くらいか? なかなか面白かったよ」


 俺の言葉に、ラッカは呑気な後輩スマイルを浮かべていた初期からは想像もつかないような無表情を浮かべていた。


「三十時間っす」


「は?」


「カズヤさん、三十時間もオプスレイド・シュミレーターに乗り続けてたんすよ。飲まず食わずでよくやるっすね」


 う、嘘だろ? 確かに長いこと座ってた気がするけど、体は別に疲れて無いし——。


「あと、良い知らせと悪い知らせがあるんすけど、どっちから聞きたいっすか?」


 有無を言わせないような雰囲気だ。


 俺は戸惑いながら返答する。 


「じゃ、じゃあ悪い知らせから」


「トラブルにより、予定していた航行区域から外れました。今ウルハ号には護衛艦もおらず、孤立した状況です」


 護衛艦が——消えた?

  

 一体、何故、どうして——俺は絶え間なく沸く疑問を必死に飲み込みながら、言葉を続けた。

 

「じゃ、じゃあ……良い知らせは?」


「ありません、言ってみただけっす」

 

 

  




 

 俺とラッカは、びえーんと幼子のように泣きじゃくるベルミーが待つ会議室へと赴いた。


 最初ここへ来たとき、ラッカにちょっとした歴史のお勉強をしてもらった部屋だ。


 尋常じゃない様子のベルミーに、今回の事態が相当ヤバい出来事なのを悟った。


 ラッカは部屋に入るなり、ベルミーは完全無視した状態で立体映像を開き、解説を始める。


 どうやら俺たちの乗るウルハ号は、突如として現れた謎の武装船団に奇襲され、混戦の中、味方艦隊とはぐれて孤立無援状態になったそうだ。


 因みに、護衛艦隊なしにウルハ号のような非武装船が宇宙を航行させるのは、三歳児に戦場を歩かせるくらい、キケンなことらしい。

 

「つっても、そんなに危険なのか? 宙域なんとか本部のおかげで宇宙は割と平定されてるんだろ?」


「本部がある星間の周りはかなり安全っすけど、今の航行区域は特殊な位置にあります。よって、そこまで安全性が確立されていません。それでも、あの規模の艦隊を崩せる軍事力は野盗程度ではないのは確かです。それに、既存のどの艦艇にも該当しない新型戦艦でした。それこそ——本来はあり得ない〝第三領域だいさんりょういき〟からのちょっかいと考えるのが妥当だと思うっすね」


「第三領域?」


「本来は説明する義務はないっすが、非常時です。説明しましょう」


 この宇宙には、三つの領域が存在しているらしい。


 まず、〝宙域統合本部〟と呼ばれる機関が掌握(しょうあく)し、管理している〝第一領域(だいいちりょういき)


 特殊なガス星雲に覆われ、入れば二度と帰還は叶わないとされる〝第二領域(だいにりょういき)


 そして最後に——まだ全く手を付けれていない、未開拓領域の〝第三領域〟


 第三領域は未開拓ではあるが、宇宙文明の最高到達点と言われる第一領域より、発展している文明があるとは思われていないそうだ。

 

 そこから新型戦艦がやってきたってことは——


「まあ、とにかく……敵はヤバい連中なんだな」


「そうっす。しかし、今となっては、それすら些細(ささい)な問題にすぎないっす」


「は? 追われてるんじゃないないのか?」


 そこで、嗚咽(おえつ)交じりだったベルミーが叫ぶように言った。


「わ、私達……逃げてる最中にカオス領域に入っちゃったんですー!」


「は? カオス?」


「カオス領域は、第二領域の通称っす。カオス領域は我々のレーダーでも感知出来ない、未知の星雲っす。通常の安全な航行区域を外れて逃げたのが、運の尽きだったっすね」


「……それってやばいの?」


「無茶苦茶やばいです。入ったら二度と出ては来れないガス星雲に入り込んでしまったんすからね」


「それじゃあ、俺たちは孤立無援でこのまま宇宙に漂うのか?」


「まあ、端的に言えばそうっすね。カオス領域は我々の科学力をもってしても、解明できていない謎多き星雲なんす」


 フーン……。


 二人には悪いがあまり危機感を抱けなかった。


 だって、この船には謎原理で色んな料理を生成できるぶっ飛び装置もあるし、実際、船も問題無さそうに見える。


「食料なんかは大丈夫なんだろ?」

 

 一応聞いてみると、ベルミーがなおも泣きじゃくっていた。


 ラッカがその様子を見て、ため息交じりに残酷な真実を告げた。

 

「食事を供給する装置は〝ドルクスラ通信〟によってまかなわれているんですよ」


「ん? つまり?」


「地球で言う携帯と、携帯会社を想像してください。携帯会社の電波が届かなったら携帯はどうなります?」


「そりゃネットとか使えなくなるけど——ま、まさか!?」


「そのまさかっすよ。第二領域ではドルクスラ通信が入ってこなくなるんす。つまり、食料生成のための装置が動かなくなるんす。これが、死の領域の所以っす。そもそも、宇宙船も似たようなシステムですから自走できなくなっちゃいます」

 

 まじか、超技術かと思ってたらそんなシステムなのかよ。


 業者はぼろ儲けじゃないか——なんて思ってる場合じゃないな。


「現在の船外はどうなってるんだろうな……」


「真っ暗すね〝俯瞰(ふかん)カメラ〟を使って確認したんすけど、何も見えませんでした。カオス領域のエネルギーを吸収する性質のせいだと思うっすね」 


「……ほう? そうか。それでさ、俺はどうすればいい?」


 俺の言葉に、ラッカはキョトンとした後に笑いだした。

 

「だから、お手上げっすよ。いくら寿命が無いからって、何も食料を摂取できなければ死にますからね」


「いや、食料はあるだろ? ベルミーが持ってきた地球のインスタントだよ」


「うわーん! 死ぬ前に食べようと思ってたのに」


 俺の言葉に、少し泣き止みかけていたベルミーが再び大泣きし始めた。勿論、無視した。


「それを何等分かして、最大何日生きれるかを計算しよう。そういうの得意だろ?」


 提案すると、ラッカは今までの呑気そうな表情が消え、自嘲するように笑っていた。

 

「そんな生き汚いこと……後が苦しくなるだけっすよ」 

 

 はあ?


 生き汚い……? あまり馴染みのないワードだな。


 ラッカも、ベルミーも何だか諦めムードっぽいな。


 極端に影を落とし、どよ~んとした空気漂わしている。


 温室育ちの宇宙人の感性的には、この状況は積みなのかもしれない。


 しかし——。


「生き汚くて何が悪い! こちとらドブネズミが美しいって歌われる田舎惑星出身だ。それに俺は宇宙平和大使だぞ? その役職ってのは軽いもんなのか、安っぽい仕事なのか? へんっ、お前らも実は大したことないんだろ。だから簡単に諦められるんだな」

 

 俺が煽るように言うと、それまで泣いていたベルミーがムキになって口を開く。


「とんでもない! 宙域統合本部発足以来の重要任務です! 私の同僚は私が抜擢されたことを知ったら血の涙を流して悔しがってました! 私のお姉ちゃんも、この任務に就くことを知って、『すご過ぎ、カズヤさんにサインもらってきて』って泣いて喜んでいました!」


 俺はその言葉に、我が意を得たりとニヤリとする。


「じゃあ、俺はその重大な任務を果たすために生きなきゃならない。だけど……俺は宇宙のことも何も知らない。二人に協力してほしい」


 ラッカが神妙な表情で俺を見つめていた。


「……我々の高度文明をもってしても、歴史上誰も抜け出たことがないんですよ?」


「俺は宇宙一の有名人だ、それは誰もが成せることなのか?」


「い、いえ、宙域統合本部始まって以来の異常事態です」

 

 ベルミーの言葉に、我が意を得たりと俺は腕組みをした。

  

「そんな非常識を起こした俺なら、もう一度それが起こせるかもしれない。つまりは——」


「へえ、なんかプランがあるんすか?」


 俺の言葉を遮って、彼女は口をはさんできた。


 そんなラッカの瞳には——。


 先ほどまでにはない、光が戻っていた。


「この船に、爆薬はあるか?」


 俺の問いに、ラッカはあからさまに噴き出した。


 意味を瞬時に理解したようだ。


 ベルミーの方はいまいちピンと来ていないみたいだな。


「また、原始的な発想すね。爆発の推進で止まった宇宙船をカオス領域から抜け出させるって寸法っすか? 面白いっすけど、カオス領域に入った時、何回転かしちゃったんで、どっちに抜け出ればいいのか分からないっすよ? 深みにハマる可能性もあるっす」


「ギャンブルは嫌いか? 敏腕カメラマンくん」


 俺が聞くと、ラッカは胸元から十点と書かれた札を取り出し、満面の笑みで——。


「大好きっす!」


「ええ!? 私、姉からギャンブルだけはするなって言われてるんですけど!」

 

 そんなベルミーの言葉は無視して、俺は腕まくりをした。


 ラッカも瞳をギラつかせてやる気だ。


「さて、マイケル・ベイも腰を抜かす爆破をお見舞いしてやろうぜ」


「だれですかあ!?」

 

 インデペンデンス・デイ知ってたくせに、ハリウッドの爆破王を知らないのか?


 西部劇から出直してきな、カウ・ガール。

 

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