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24. ストゥルターナの母


★三人称視点


 学園より出立した数百機を超える王女派閥のオプスレイド集団は王家の宮殿がある首都を目指していた。


 機体の種別は様々だった。


 デミリス家の家紋をつけた血統者専用機体もあれば、初期カラー、初期ロッドの機体といった素体の顔ぶれもあり、多様だった。


 通常であれば数百機というのはオプスレイド戦においてはかなりの数で、これらが王都軍に加わればかなり心強い戦力となるだろう。


 だが、それは〝通常であれば〟という話だ。


 学園で使用される訓練機は軍で使用される通常のオプスレイド同様、それなりに破壊能力は存在するが、いずれも所詮は訓練機。平均的な軍の武装に比べれば見劣りする。


 つまり、数が多くとも、かなりの力量差が無ければ軍のオプスレイドに勝つことは出来ない。


 それを大半のパイロットが分かっているのか、緊張した面持ちで徐々に首都の激戦地へと近づいていた。


『諸君らへ、今日は特別な日ではない。歴史の一ページに刻まれる、新たなるストゥルターナの建国の日だ!』


 各機体のコックピット内に響き渡るのはシオネの演説だった。


 シオネは集団を先導する、ミレイア・デミリスの操縦するゴテゴテの装飾がされた悪趣味な機体に同乗していた。


 本来、機体サイズが三メートル前後のオプスレイドには二人乗りの設計などなされていない。


 だが、ミレイアの機体は特別仕様で機体サイズも五メートル前後。コックピット内がかなり広く、王女はパイロットの席の背後部分の空間に腰を下ろすことが出来る。


 といっても、二人乗りように設計されたわけではなく、座る場所は小さな段差のような突起だけでかなり狭い。


 そんな中、シオネは涼しい顔を浮かべながらパイロット席側の異変を感じ取っていた。


「はあっはあっ……」


 戦場に近づくにつれ、ミレイアの呼吸が尋常ではないくらいに乱れていた。


 シオネはそれを見て、少し心配していた。


 これから戦争だというのに、最強戦力であるデミリス家の当主が狼狽えているのだろうか?

 

「……ミレイア、大丈夫か?」


 我慢できずシオネが問うと、ミレイアは首だけで振り返った。


 その紅潮した頬を見た王女は思わずゾッとしていた。


「すみません、シオネ様。カズヤ・ギークのあの戦いを見てから、昂ぶる感情が抑えられません。早く戦いたくてウズウズしております」


 狂気をはらんだ血走った目に、シオネは作り上げた笑みを浮かべた。


「勇ましいことだ。お前を配下に出来てよかった」


「光栄です……早く私の戦いをお見せしたく思います」


 ミレイアは視線をモニターに映し、クククッと小さな笑いを断続的に漏らしていた。


 シオネはそれを見て、内心ため息を吐きたくなっていた。


(……このような者達も従える、それが王なのだ)


 そんな感想を浮かべながら、王女は気を取り直してミレイア同様、モニターを見つめる。


 気づけば雨粒がカメラにぶつかり、オプスレイドの高速移動で逃げるようにして霧散していく。


 大雨の予感をさせていた。


(カズヤ……トリスから無事だった旨は出発前に聞いたが……お前が側にいないだけで私はこんなにも不安なんだ。生きて帰れたら必ず思いを……いや、その時にはカズヤはこの星から……)


 シオネが人知れず、そんな思いを浮かべていた時だった。


『ミレイア様』


 ミレイアの機体の後方に位置していた腹心のトリスが交信してきた。


「どうした?」 


『本家より、残存兵力二百機がこの戦列に加わりたいと打診してきました。いかがなさいますか?』


「チッ……なんだ、まだそんなに残っていたのか?」

 

 ミレイアの悪態にシオネは驚いていた。


 戦力が生き残っているということは良いことである。


 なのに、ミレイアはそのことを残念そうにしていたのだ。


「とりあえず——」


『ミレイア様』


「……なんだ?」


『その前に敵がきました』


 トリスのその言葉を聞いたシオネは目を見開いていた。


 確かにモニター画面の正面——そこには有に数百を超えるオプスレイドがこちらへと差し迫っていた。


「ほう……初戦であの数か。アレはキツいな」


『おかしいですね、機体からして最新鋭機ばかりということは、敵の主力です』


「ふむ、ということは——」


『追加報告きました。どうやら、キッカ王がいる王宮は何とか防衛出来ているものの、物量による攻撃で手一杯だそうです。これは敵の狙いは——』


「シオネ様を囲ってる私達か。我らが王は国営放送が流れてから市民から人気者だと聞いている。連中も厄介に思ったのだろうな」

 

 聞いているだけで、絶望的な内容だとシオネは察していた。


『応援は間に合いそうにありません。本家からは離脱し、この戦闘を回避するよう進言されました』


「バカ言うな。この距離だぞ? これは逃げられん——ということで、シオネ様」


「……なんだ?」


「敵の主力級が来ました。こちらはデミリス家以外は素人同然。これから我々の一部、または殆どの戦力が甘美で名誉な戦死を遂げます。その前に、せめてものお情けをくださいますか?」 


 これから仲間が死ぬ。


 だから最後に言葉をかけてやれということだろう。


 シオネはそれを聞いて、今更ながら後悔していた。


(自分が導いた人間が——自分が原因で、何人も死ぬのだ。両の手では数え切れないほどに)


「王女様?」

 

 いや、分かっていたことだ。


 覚悟していたハズだ。


 だけども——。


 だとしても————!


「お前達! 生きてこの場を何とか切り抜けろ! 死ぬヤツは私が許さん! 敵を根絶やしにし、我らが祖となる礎を作れ!」


 シオネがその言葉を吐けば、雄叫びのようなノイズの走った声が各機体から聞こえてきた。


 対照的に、ミレイアは呆れたように首だけ振り返ってシオネを目で捉えていた。


「それはこの世で最も儚い、残酷な命令ですよ。でもまあ——」


 ミレイアは狂気とは違う、二マッとした少女然とした笑いを浮かべた。


「無茶を言われるのは嫌いではありません。その方が燃えますからね」


 ミレイアは正面を見据えると、オプスレイドを前傾姿勢にし、スピードを上げた。


「野郎ども、我らが王の命令であるぞ! 我が一族が数千年待ち望んだ殺し合いだ! 生きて敵の首を持ち帰れ!」


 各員が強烈な士気の高まりを見せる中——。


 流星のように、シオネ達の背後を縫って駆け抜けていく機体があった。


 その機体は先頭であるミレイア機を追い抜き、やがては迫りつつある敵へと猛進していった。


「何ッ! あの馬鹿げたスピードは何処の誰だ!?」

  

 ミレイアが初めて取り乱した声を上げた。


 それも無理はない。


 オプスレイドの教育を受けた者なら誰でも知っている。


 理論上なら頑丈なエルフライドはマッハを超えることが出来る。


 しかし、それに脳内制御装置——人間の反射神経が追いつかないために、不可能なのだ。


 オプスレイドの操縦はその人間のイメージが反映される。


 故に、イメージがつかない動きは普通行えない。


 つまり、あの高速移動は人間業ではないということだ。


『初期ロッドの訓練機……番号は2207——』

 

 それを聞いたミレイアは毛を逆立たせた。


「ベルミーか! アイツ——やはり、おかしいと思ったのだ。学園の廊下で会った時、私は違和感を覚えた! あんな間抜け面だが、ヤツからは一瞬、隠しきれない戦場の匂いがしたのだ! 勘違いでは無かった……勘違いでは無かったのだ!」


(ベルミーから戦場の匂いがした? 何を……言っているのだ? ベルミーはただ優しくて、私の友人で、笑顔が素敵な——)


 シオネが困惑する中、歓喜に震えたミレイアは嬉しそうに声を張り上げた。


「あの野郎、あんな化け物だったのかッ! アハハッ、死ぬなよぉ! 全部片付いたら私が殺してやる!」


 興奮して信じられないことを口走るミレイアは戦場へと向かうため、更に機体のスピードを速める。


 しかし——。


『接敵! 接敵! コイツは——ッな、なんなんだ!?』


『第一小隊壊滅! 繰り返す、第一小隊壊滅!』


『化け物だ! 誰が乗ってやがる!?』


 ミレイアがそこに到達する前に、戦場は爆音と閃光ともに、大量の脱出パラシュートで埋め尽くされた。そして、数千の反乱軍機体から信じられない者を目撃したという驚嘆を含んだ阿鼻叫喚が上がった。


 そんな中、狂気の表情を浮かべていたミレイアが一瞬真顔に戻り、とあることを呟いていた。


「敵の声……? なぜ通信がオープン回線になっている?」

 






★カガミヤ・カズヤ視点

  

 俺はカイトと共に、王女達が向かった戦場となる首都へと向かうことになった。


 しかし、オプスレイドの訓練機は殆ど出払っていて一機しか残されていなかったし、弱っている俺は操縦出来ない。


「……これ、大丈夫なのか? 普通に空飛ぶ車で走ったほうがよくないか?」


 俺は空飛ぶ車に乗り込みながらそんな疑問をカイトの部下達にぶつけていた。


 カイトから先ほど聞かされた案では、ストゥルターナの主な交通手段とされている空飛ぶ車に乗り込み、それをカイトが操縦するオプスレイドで掴んで飛行するというものだ。


 つまり、これから俺たちはなんとかストーリーのオモチャ好き少年に掴まれた人形みたく、上空を飛行することになる。


 聞かされた時は何の疑問も抱かなかったが、車に乗った途端、ジェットコースターを待っている時のような焦燥感が襲ってきたのだ。


「車はスピード制限がかかっているんで、オプスレイドで掴んで飛ぶ方が早いんです。カイト様の操縦なら我々に負荷がかからないようにしてくださいますので、ご心配には及びません」


「ふーん……」


 よくわからんが、そういうことらしい。


 俺は車の助手席でシートベルトがちゃんとはまったか確かめながら、ふと沸いてきた疑問を運転席に座るカイトの部下……確かワグナーだったかな。彼に、ぶつけてみた。

 

「ていうかお前ら、なんでまだカイトに従ってんの?」 


 中には一人、女の子もいたりもする。


 カイトはサイモンによって派閥から退けられ、最早付き従う理由なんてないように思えたのに、未だ従っているのだ。


 俺が聞くと、ワグナーは苦笑しながら口を開いた。


「私達はほとんどが他派閥から見捨てられた者達なんです」


「見捨てられた?」


 こうして聞いてみると、ラッカを薬漬けしようとしていたカイトも、良い奴に聞こえてくるから不思議だ。


 それと同時に、俺の心中にはキレイな青髪を赤に染めたラッカの姿が浮かんだ。


 俺は頬を張る。


 だめだ、ベルミーも言っていたではないか。憎しみに支配されていてはならない。


 俺はベルミーや王女を救いたい。


 今度こそ、正しい選択を行わないといけない。 


 ま、今の装備の俺たちが行った所で何も出来ないだろうけどな。


 それでも俺は——


『くだらねえ話してんじゃねえよ! そろそろ行くぞ!』


 カイトがオプスレイドのスピーカーを使ってそう叫んでいた。


 車内での会話なのに聞こえていたのか。


 凄いな、オプスレイドの集音機能は。


『やばくなったら直ぐに引き返すからな! 分かったか大将!』


 カイトはそう口にするなり、オプスレイドで空飛ぶ車の屋根部分を掴んだ。


 車両が浮かび上がる。


 すぐさま上空五十メートルは上昇し、前進し始めた。


 機体スピードを上げたのか、俺は自身の体に降りかかった強烈なGを感じながら、シートに張り付いた。 

 





★三人称視点


 首都上空では異常な光景が広がっていた。


 王家派と反乱軍によって散発的に発生する戦闘——それとは別に。


 一機の訓練仕様のオプスレイドを中心に、四十機以上の軍用オプスレイドが、光に集まる羽虫のように群がっていた。 


『訓練機相手に何やってやがる! 敵の弾は尽きただろ、さっさとスクラップにしてやれ!』


 隊長機の檄が飛ぶ。


 多数のオプスレイドの方は近接戦用の剣のような鉄塊を構えていた。


 これは命知らずなことに集団の中心に入りこんできた機体を銃撃し、その貫通によって起こる同士討ちをさける為の措置だ。


 普通なら、この圧倒的多数の暴力によって押さえ込まれる。


 しかし、その訓練機はまるで液体かのようにスルリと機体の合間を抜け、鉄塊を奪い、容赦ない攻撃を繰り返していた。


『どんな操縦能力だ! 訓練機だろ!』


『あり得ねえ、一体誰が乗ってるんだ!』


 指示をしていた隊長機——そのコックピット内部では、部下達の断末魔が通信で響いていた。


 痺れを切らした隊長機が苛立ったように指示を出した。


『クソッ! 近接戦をやっている者は離れろ! 遠巻きで統制射撃——面攻撃だ!』


 そもそも、この隊長機は遠巻きからの攻撃で通用しなかったので近接戦という現代ではあり得ない措置を取ったのだが——


 それすらも忘れてしまう程、隊長機は混乱していた。


 しかし、更に最悪な状態は続いていた。


『隊長! 離れられません!』


『何を言ってる! ヤレ!』


『コイツ——意図的に』


 また一機、性能が勝っているハズのオプスレイドが爆発した。


 どうやら近接戦をしていたオプスレイドが下げていたライフルを奪われたらしい。


 訓練機は空中を踊るような独特の動きのままトリガーを引き、敵を撃墜し続けていた。


 戦場はたちまち、脱出を図ったパイロット達のパラシュートで埋め尽くされる。


 それを見たパイロット達は脱出者を巻き込むことを察し、銃撃を躊躇する。


 その繰り返しだった。


『クソクソッ! どうなってやがる! 何が王家派は碌な戦力が残っていない、だ! スタイルズ家のバカ共が嘯きおって! 敵にまわりやがったデミリス派はまだ大勢残っているし、この訓練機のツラを被った化け物……この調子でいけば本当に全滅するぞ!?』


 隊長機が信じられない光景にそんな愚痴を零している時だった。

 

『隊長ーッ!!』


 部下の叫びに、隊長機は振り返る。


 そして、その目に飛び込んできたのは——。


『そのデミリス派とは私のことかぁッ!? アハハハッ!』


 デミリス家の家紋をつけた、大型オプスレイド。ミレイア・デミリスの乗る機体だった。 


 隊長機は咄嗟に回避行動を取ろうとしたが——。


『遅い!』


 重量級のミレイア機に足蹴にされ、その衝撃によって、動きを止めた。


 ミレイア機はすかさずそこへライフルの雨を降らせる。

 

『どうした! 学生相手にだらしないぞ諸君! 我はミレイア・デミリス、デミリス家の首領だ! 我らが当主を始末した力を見せてみんか!』


 戦場で高笑いを始めるミレイア。


 それはオープン回線となった通信により、全コックピット内に響いていた。  


 それに気圧された反乱軍の機体達は、隊長機を失ったこともあり、たまらず撤退行動を始めた。


 一部散発的に戦う機体もあったが、それはベルミーの乗る機体にもれなく蹂躙され始めていた。


『んあっ? ……まさか逃げるのか? 恥知らずめ、そんなお前達にはケツにはコイツがお似合いだ!』


 ミレイアはモニター越しにライフルの銃口を見つめ、クククッとサディスティックな音を鳴らした。


『者ども! これより討伐戦だ! 奴らはこの星の害悪——』


『もうよいッ!!』


 ミレイアが指示を出しかけた時、それを遮る声音があった。


 途端に戦場は 敵味方関係無く、沈黙に包まれる。

 

『もう十分だ。王宮に向かおう。現王が心配だ』


 それはシオネだった。


 ミレイアはそれを受け、あからさまに不満げにしていた。途端熱の冷めた声で問いかける。


『お言葉ですが、閣下。我らが王はシオネ様です。どうしても、と言われるなら王宮に向かいますが……現王がシオネ様を認められない場合、我らは現王の敵となります』


 それは残酷過ぎる問いだった。


 シオネは王となると宣言し、仲間を引き連れた。


 そして、今回の戦いは敵が曖昧なまま王家派閥として戦闘に参加している。


『それについてはいかがお考えですか?』


 その戦場にいた誰もが、固唾を呑んでそのやりとりを聞いていた。


『私は——』


 その時だった。


 冷酷な表情で問いかけをしたミレイアの眼前に、本日二度目となる緊急放送を知らせる立体映像が浮かび上がったのだ。


 これは国民の階級表示をする原理で行われているもので、緊急時に全市民の眼前に表示が浮かび上がる仕組みになっていた。


 ミレイアはそれを見て、初めて面食らった表情を浮かべていた。


 それもその筈、その立体映像に映し出されていたのは——誰でもない、目の前で決意を固めて演説しようとするシオネの姿だった。


(……何がどうなってる? 数刻前流れたサイモン達の映像といい、この国営放送……これは一体、誰が撮影して誰が配信したモノだ? シオネ・キッカは私の前にいるのだぞ……)


 ミレイアの疑問は当然だった。


 本来ではあり得ないことが起こっていた。


 国営放送をジャックし、カメラも見当たらないのにどこからか生放送を行っている。


 そんな芸当が出来るのは、国家レベルの存在——いや、人間業とは思えなかった。


(何者かによって今の状況は操られている……そんな予感がしてならない。それはシオネ・キッカによってではない……もっと別の何かに)


 ミレイアが密やかに疑念を抱く中、シオネはしゃべり出した。


『私は……この星で唯一、王となる器がある。確かにお前達にそう言った。だが、訂正させてくれ。それは誤りであった』


 凜とした声だった。


 その映像は、文字通り全世界の人間が視聴していた。


 シオネに付き従った者達の眼前。


 内乱が始まり、子の未来を憂いて抱き寄せる市民の眼前。


 先ほどの戦闘でパラシュートで脱出を果たし、地上に到達して仲間達と共に地面に座り込む兵士の眼前。


 数少ない王家派閥の防衛に回った忠義モノの眼前。


 王宮で王座につくキッカの王の眼前。


 酷くやつれ、窪んだ目に涙を浮かべるシオネの面影をさせた中年女の眼前。


 そして、戦場へと向かう道中で映像を目の当たりにし、目を剥くカズヤ達の眼前にも。

 

『四王家も……私にとっては偽りの存在だ。王家と血統者、血統者と市民……そんなものに違いがある、特別なモノあるとは私は思わない』


(だとしても……この少女には魅了されてしまう。抱いていた疑念など、全てがどうでもよくなってしまう程に……)


 ミレイアが人知れずそんな思いを抱く中、シオネの心中を支配していたのは、とある少年の顔だった。


『私達は一つの星に足をつけた……〝家族〟だ』


 言いながら、シオネは涙を流していた。


(また、私はお前に助けられた……この言葉は、お前が言っていた言葉だ。お前が道を指し示してくれた)


 口に伝ったそれは、別れの味がしていた。


 賢いシオネは理解していた。


 この放送を行っているのはラッカであるのだろう、ということを。


 彼女が生きていたとすれば……今、全てが予定通りに動いているということだ。


 それはつまり、カズヤ達と過ごす時間がもう残されていないことを物語っていた。


『新たなストゥルターナを作れるのは……私以外、あり得ない! 王家や血筋、この星のあり方などという固定概念は捨てろ!』


 今度は、シオネはとある女性のことを思い浮かべていた。


 それはシオネがこの世で最も憎み、最も愛してやらねばならない存在だった。


『今日から私がこの星の全ての者達の……ストゥルターナの母だ!』


 シオネは全てを許すことにした。


 学園の裏切った友人のことも、母のことも、そして……世界を憎み、暗がりでいじけていた自分ことも。


 そうすれば、彼女の心から醜いモノが剥がれ落ち、まるで羽が生えたかのように楽になっていた。


 これから重い命運が彼女を待ち受けるだろう。


 しかし、シオネはそれを感じさせない、まるで聖母のような笑みを浮かべていた。


 たまらずミレイアはシオネを直視出来ず、顔を伏せていた。


 そして、汗を流していた。


 それは彼女が、今まで実母にも感じたことのないような感情をシオネに抱いていたからだ。 



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