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20. 何が為の戦い

★カガミヤ・カズヤ視点


「え……死んだ?」


 俺がそんな言葉を吐けば、ベルミーが無念そうな表情で俺の肩に手を置いてきた。


「……そのようです。生命反応を感じません。彼女は亡くなったようです」

 

 は?


 こんなにも……呆気なく?


 いや、そんな筈はないだろう。


 だって……だってさ、


「俺たちは不死身で……」


「不死身ではありません、不老なだけです」


「どんな怪我も、一瞬で……俺は首の骨が折れても平気だったんだぞ?」


「……個人差はあります。許容できない怪我を負えば、死ぬことはあるんです。それは、生命ならば逃れられない運命なんです」


「いや、だってさ……コイツは、コイツには夢があって、それで——」


 俺が尚もそんなことを口にしようとしたとき、ベルミーが俺の両襟を掴んで力業で正対させ、思い切りぶん殴ってきた。


 今まで食らったパンチの中で一番に重いパンチだ。


 軽く意識が飛びかけたが、何とか思いとどまった。


 生まれたての子鹿のような動作でフラフラとしながらベルミーと向き合うと、彼女は——。


「目は覚めましたか?」


 凜とした表情でそう口にした。


 俺は漠然としない心情のまま、


「ああ……」


 そう口にしていた。


 ラッカの顔はもう見なかった。


 見れなかった、というのが正解かもしれない。


 彼女は夢半ばにして、唐突に亡くなったのだ。


 夢を見ているような感覚だった。


 ベルミーは薄情なのか、とっくに気持ちを切り替えたようで現状の説明をしてきた。


「オプスレイドはこちらを攻撃した後、音からして上方向へと飛んで行きました」


「……上?」


 俺が聞くと、ベルミーは頷いていた。


「恐らく、今度は自分の元仲間達に意趣返しに向かったのでしょう」


「……サイモンに対しての復讐か?」


「はい。我々への攻撃には一度の攻撃だけで第二撃もなく、本気さを感じなかった為、敵は上のサロンへの攻撃が本命のようです。ですが、またこちらに追撃が来ないとは限りません。早くここから全員で逃げましょう」


 彼女は状況の割に、とても冷静に思えた。


 俺が何と答えようか迷っているとき。


 ようやく煙が晴れ始めた廊下の奥から、慌てたように走り寄ってくる一年生の姿が見えた。


「王女様はおられますか!? 王女様!」


 俺は手を上げてその生徒をこちらに呼び寄せた。


「カズヤどのですか!? いや、無事であらせられてよかった。王女様のほうは?」


 その生徒は王女派閥の最有力者、トレバーだった。


 俺が無言で王女を指すと、


「良かった……本当に良かった」


 トレバーはひとしきり安心したように息を吐いた後、俺へと向き直ってキリリとした表情を浮かべていた。 


「実は報告があります!」 


 報告か……どうせろくでもないことだろうな。


 当然だが、ラッカの補足は頭に響いては来なかった。


「聞かせてくれ」


「カイト・ホフマン率いる手勢が動き出しました。その手勢はオプスレイド訓練機に搭乗して学園中に攻撃を行い、混乱を誘っています」

 

 手勢……つまり、カイトの単独攻撃では無いようだ。


 出世コースから外れたってのに、ヤツにまだ付き従う連中がいるとはな。


「目的は分かるか?」


「恐らく……学園中の有力血統者を始末しようとしているのでしょう。純血舎の歴史上でも、このような暴挙に出た者は居ません。正気とは思えないです」


「敵はどれくらいいる?」


「分かりません。ですが、五機程度だと言われています。現在も暴れています」 


 警備隊が苦戦?


 それも、五機か……もし俺たちの王女が生きていると知られたら、こっちに再びやってくるかもしれない。


 周囲の奴らは敵だらけだ、決して助けてはくれないだろう……。


 その時、俺は宇宙船にいた時にオプスレイドシュミレーターで訓練を行っていたことを思い出した。


 オプスレイド……俺でも動かせるかな?


「悪い、ちょっと抜けるわ。王女のこと頼むぜ」


「え? ……あの、カズヤどの?」


「カズヤさん!」


 名前を呼ばれたが、俺は止まらなかった。


 視界の端に写ったのは赤髪の少女だ。


 俺は無意識下で拳を握りしめていた。


 それを見かねたのか、ベルミーが走り寄ってきて俺の肩を掴んできた。


「……どこへ行くつもりですか?」


「お前には関係ない」


 俺がそう吐き捨てるように言うと、彼女は俺の正面へと向き直った。


 そして——。


「関係……ないんですか? 本当に、本当に私には関係ないんですか? 今まで一緒にこうやってやってきたのに……本当に私とカズヤさんは何の関係も無いのですか!」

 

 彼女は張り詰めたような頬に、キラリと光る液体を流していた。


 俺はその言葉に罪悪感を覚え、思わず俯く。


「……奴らを止めるんだよ」


「どうやって、ですか?」


「そりゃあ……オプスレイドの訓練機とかあるだろ?」


「素人のカズヤさんじゃ自殺行為です」


「俺はほら、シュミレーターとか——」


「……仮に上手く動かせたとして——」


 ベルミーは涙を流しながら、真剣な表情で俺の目を見据えていた。


「カズヤさんは人を殺すんですか!」


 その言葉に、ガツンと頭を殴られた気分になった。


 そうか、あれには人が乗っているんだっけ?


 これはシュミレーターじゃない、ていうことは……。


 仮に上手く動かせて敵を撃墜したとして、アレに乗っているパイロットは——死ぬのだ。


 それが頭によぎった所で、俺の脳内にとある映像が駆け巡ってきた。


 それは、マグマのように滾る熱い感情と、情動によってひしめく、今まで感じたことのない得体の知れない何かだった。


「奴らは俺の大事な友人を殺した」


「復讐ですか?」


「いや……多分違う」


 本当に違うのか?


 これは復讐では無いのか?


 自分のことなのに、全く分からなかった。


 ただ、確かなことは——。


「アイツの夢は叶えられなかったけどさ……王女を王にするってことは、約束したんだ。俺がアイツを……ラッカをそう焚きつけたしな」


 そう口にすると、ベルミーはなおも涙を流していた。

 

「……だからって、人を殺すんですか?」


「いや、戦うんだ。人を殺しに行くんじゃない。今ここに居るヤツも俺は守らなくてはならない」


「それは、戦争に行く者の——人殺しの方便です! 戦いに正義も、思想も、道理も関係ありません! 血と鋼鉄と憎悪がその場に残るだけだなんです!」


 彼女の優しげな瞳から発されたにしては、重みがある言葉だった。


 だけど俺は——。

 

「じゃなきゃ……多分、俺は一生ここで足踏みしたままなんだよ」


 そう口にすれば……ベルミーは涙を流しながら呆然とした表情のまま俺の肩から手を離した。


 俺はそれを受けて——彼女の横を通り過ぎ、再び足を進めていた。


 そんな中——。


「お姉ちゃん……私、どうすれば」


 消え入りそうなベルミーの言葉が、妙に耳に残った。









 異常事態の警報は学園の外でも不快に鳴り響いていた。


 学園内はどこもかしこも大騒ぎになっていた。


 無理もない、生徒が訓練機に乗って学園の有力者を殺そうとしているのだ。


 地上から上空を見上げてみれば、警備隊と訓練機の乱戦が各地で巻き起こっていた。


 それにしても——生徒の姿が先ほどから見当たらない。


 既にどこかに避難したのだろうか?


 ……参ったな、オプスレイドの訓練機が置いてある場所を聞こうと思っていたのに。


 校舎の外に出る。


 暫く続く庭園の中、歩みを進めていると——。


 縁石に腰を下ろし、上空の戦いを肩肘ついてつまらなさそうに眺める小さな少女の姿があった。


 彼女は燃えるような赤髪をしていて、非常に整った顔立ち……高貴な印象が見て取れた。


 頭上の表示を見れば上級生——先輩だった。


 座っているが、かなり小柄なのが見て取れる。


「なあ」


「うん?」


 少女が億劫そうに俺へと視線を寄せてくる。


 俺は構わず続けた。


「オプスレイドの訓練機って、どこにあんの?」


「……ふーん」


 その言葉だけで、何をするかは理解したようだ。


「お前、アイツら……カイト・ホフマンを殺しにいくのか?」


「まあな」


「新入生のくせに?」


 俺が新入生だと知っていたのか?


 ……ああ、頭上に名前が浮かび上がるんだっけ。


 まあ、そんなことどうでもいい。


「ああ」


「運転は出来るのか?」


「ちょろっとな」


「ふっ……新入生のくせに乗り方を知っている理由は聞かないでおいてやる。だが、一つ忠告しておいてやろう。アイツら……特に、カイト・ホフマン。アイツはチビだが、中々やるぞ」


 それを聞いた俺は気づけば、拳を握りしめて。


「殺してやる」


 そんな言葉を吐いていた。


 少女はそこでようやく立ち上がり、面白そうなものを見る瞳を浮かべて犬歯を覗かせていた。


「何故だ? お前は王女の派閥だろ。上級生連中が消えたらそっちのが都合がいいんじゃないか?」


「奴らを倒すのは……王女だ」


「ふむ。つまりは王女を信じているということか?」


「ああ、約束したんだ。王女をこの星の王にするとな」


 俺がそんな言葉を吐くと、赤髪の少女は目を見開いていた。


「王……だと?」


 続いて、少女は豪快に笑い出した。


「所詮学生である王女にその器があるとでも?」


「ああ。アイツ以外、あり得ない」


 短く返答すると、赤髪の少女はスンッと。


 真顔になった。


 そして——。


「トリス、降りて来い」


 そう発した。


 その瞬間——赤髪の少女の後方五メートルくらいの位置だろうか?


 ドズンッと、砂埃をあげながら四メートルの巨体を持つオプスレイドがその場に降り立ってきた。


 そのオプスレイドの肩には槍が貫通した盾のシンボルマークみたいなのがシンボルがカラーリングされてあった。


『……どうされました?』


 オプスレイドから拡声器で発されたような声音が聞こえてきた。


 どうやらオプスレイドにはこんな機能もあるらしい。


 赤髪の少女は腰に手をやりながらオプスレイドと向き直った。


「この新入生と代わってやれ」


『……死んでも嫌です』


「そうか、じゃあ死ね」


 少女がそう口にすると、オプスレイドのパイロットははあ、とため息を吐いた。


『今度は何の気まぐれですか?』


「さあな。風の吹くままに、だ」


 赤髪の少女がそう言うと、オプスレイドのコックピットが高級スポーツカーの扉みたく上に開放された。 


 そこから、不機嫌そうな黒髪の美少女が降り立ってきた。


 彼女はダークグリーン色の作業服を着用しており、手足がすらっとしていてモデルみたいだった。


 黒髪の美少女は地面に降り立ち、俺を見るなりキッと睨みつけてきた。


「おい!」


「うん?」


「うん、ではない。私の愛機を壊したら殺すからな」


 そう言ってオプスレイドまでの道を空けてくれる黒髪の美少女。


「ああ、ありがとう」


 俺はお礼を言って、なおも睨みつけてくる美少女の横を通り過ぎてオプスレイドのコックピットへと向かう。


 少しだけ漂う柑橘系の芳香剤みたいな匂いを感じながら、俺はオプスレイドへとよじ登り、コックピットを閉めた。


 すぐさま画面が暗転し、外の景色が映し出される。


 操作系統はボタン一つも見当たらず、俺は宇宙船でのシュミレーターの動かし方を思い出していた。

  

「確か念じるだっけ?」


 空に落ちる感覚——エレベーターで感じるような浮遊感と共に、俺は激戦が巻き起こる大空へと飛び立っていた。

 







★三人称視点


 カズヤの乗る機体が飛び上がった後、暫くその場にいた赤髪の少女と黒髪の美少女は無言だった。


 危なげなく戦場に向かうカズヤをひとしきり見送った後——。


 黒髪の美少女、トリス・ゲラートは口を開いていた。


「……アイツは王女派閥筆頭のカズヤ・ギークですよね?」


「ああ、そのようだな」


 赤髪の少女がそう答えると、トリスは神妙な面持ちでカズヤの機体を見つめていた。

 

「……何故、新入生のくせにオプスレイドを運転出来るんでしょうか?」


「知らん」


 その返答にため息を吐いたトリスは、ジト目で赤髪の少女を見つめていた。


「ていうか……アイツがウチの機体で何かやらかしたら、我々デミリス家に傷がつきますよ」


「だろうな。だが、逆を考えてみろ」


「逆——?」


 その言葉に、ハッとした表情を浮かべたトリス。


「まさか……今回の件を貸しにして王女派閥に恩を売る気ですか?」


 トリスの質問に、赤髪の少女はニヤリといやらしい笑みを浮かべていた。


「それにしても、フフッ……現王がいるのに、王女を王にするときたか」


「あの……まさかとは思いますが」


「トリスよ。現在、デミリスが忠誠に誓うに値する王はいるか?」 


「……さあ、どうでしょうか?」


 トリスがしらばっくれたようにそう口にする中、


「楽しくなってきたな、トリスよ」


「全く……ミレイアさまときたら……」


 赤髪の少女、ミレイア・デミリスは狡猾そうな笑みを浮かべて、天空を見つめていた。








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