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16. 食堂にて

★カガミヤ・カズヤ視点




「はーい、今開けるっす」


 そう言って、ノックの鳴らされたドアまで近寄っていくラッカ。


 それを見て、俺はあからさまにワタワタとしていた。 


「ちょちょっ——」


 多分、兵士の巡回だろう。


 解散するときに教師達は集会行為は禁止と言っていた。


 今ラッカが俺の部屋から出てきたら問題になるんじゃなかろうか。


 そう思っていたら、唐突に脳内にラッカの声が響いてきた。


『大丈夫すよ、心配しないでください。扉の前にいるのは兵士じゃありません』

 

 え、そうなの?


 ていうか、テレパシーは使えないんじゃ無かったっけ?

 

『ベルミーさんの妨害電波の発信源を特定できたので、先ほど解除しました。これからは喋らずに会話が再開出来るっす』 


 ラッカはそれだけ言うと、扉をガチャリと開け放った。


 そこに立っていたのは……。


「王女!? 無事だったか!」


 凜としたたたずまいの王女だった。


 王女は腕を組んだまま、ゆっくりとした動作で部屋に入ってくる。


 そして——。


「ギーク家の長女か」


 その目はラッカを見据えていた。


 ラッカは即座に膝をつき、王女に臣下の礼をとった。


「はい、ラッカ・ギークと言います。お見知りおきください」


「うむ」


 王女はツカツカと部屋内に入ってきて、備え付けの椅子へと向かう。


 ラッカはシュバッと王女が座る前に椅子を引き、王女を座らせた。


 そして、もの凄い手際でお茶菓子の用意を済ませ、王女の前のテーブルにセットした。


 王女は涼しい顔で当然のようにお茶を啜る。


 そして、フッと笑った。


「美味いな」


「王女様は不信徳者たちのせいで暫く何も口につけられていないと聞きました。なので、勝手ながらお体に触らない、刺激物の少ないお茶にございます。不詳な私めのお茶ですが、召し上がっていただきありがたく存じ上げます」


 ……あのッスッス言ってるラッカが正しい敬語を駆使し、すげーへりくだってるな。


 目的のためだろうが、その光景は違和感を覚えていた。


「ふっ……別に浮浪者のように過ごしていたから格別に感じるのでは無いぞ? 舌は肥えているつもりだ。飾りの王女だがそれ相応の作法は身につけてきた」


「勿論、そのように覚えております。そして、光栄です王女殿下」


 頭を下げるラッカ。


 まるで往年の部下と家臣のような貴族然とした二入の所作に面食らっていたが、我に返った俺は口を開いていた。


「そういやさ、大丈夫だったのか?」


「何がだ?」


「何がって……教師達に連れて行かれただろう。その時だよ。脅されたりしていないか?」


 俺が聞くと、王女はクックックと不気味な笑いを漏らした。


 ……昨日の今にも折れそうな儚げな王女に比べると、やっぱり別人だな。


 コレもナノマシンの影響だろうか?


 でも俺はこんなにも豹変してないけどなあ……。


 そんな事を思っていると、王女は静かにお茶を置いて返答していた。


「逆だ」


「え?」


「脅してきた」


「……マジで?」


「ああ。今や私は、新入生最大派閥の人間だ。それぐらいの胆力が無ければ舐められる」


 そこまで言った所で、王女は鋭い視線をラッカに送った。


「して、ラッカよ」


「はい」


「会場での一幕を見るに、貴君は私への介入はあまりよくないと考えているのではないか?」


 そういや、王女の目の前で、俺が派閥入りしようとした時、ラッカが立ちはだかっていたな。


 それを見れば、王女がそのように思うのは必然だろう。


 ラッカはその言葉を受け、涼しい表情で衝撃的な回答をもたらした。


「あまり、ではないでしょう。状況は最悪です」

 

 ラッカの言葉に、王女はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「正直者は大歓迎だ。その理由を説明してくれ」


「今回の騒ぎで王女派に回った人間達は一時の熱に浮かされているだけです。熱が冷めれば、多くが敵へと回るでしょう」


 え? マジで?


 アメコミ市民みたいに変わり身の早い連中だとは思っていたが、そんなに直ぐに裏切るのか……。


 俺が内心、失望していると。


「その通りだ。カズヤは良い妹を持ったようだな」


 王女がそう口にして、お茶を啜っていた。


 俺が何とも言えない表情で頭を掻く中、王女は続けた。


「今なら抜けても良いぞ?」


 抜けても、いい?


 俺が口を開く前に、ラッカが淡々と言葉を返した。


「我が家の当主であるカズヤ・ギークは、会場で一番に王女様への忠誠を誓いました。つまり、王女派の筆頭を宣言したも同義です」


「無かったことにしてやる……と、言ったら?」


「王女様も人が悪い。そうなればギーク家は——」


「別にそれでも構わんだろう、貴様らなら」


 え? どういう意味だ?


 そんなバカなことをしたら、学園でいじめられっ子になることは確定したようなものだろう。


 そう思っていると——意味ありげにニヤリと笑ったラッカが口を開いた。


「ギーク家は騎士の誇りを持っています。一度忠誠を誓えば、二度と裏切ることはありません」


「愚問だったな。詫びをしよう」


「必要ありません。私らめは忠実な僕でありますから」


「なるほど、良い部下をもったものだ」


 王女はお茶を飲み終わったのか、ほうと満足そうに息を吐いた。


 カチャリとコップが受け皿に置かれると、ラッカが即座におかわりを注ごうとしたが……。


 王女はそれを手で制した。


「ラッカ、お前は頭が良いようだな」


「はい」


 ラッカが謙遜することなく答えると、

 

「何か面白い策はあるか?」


「手堅い策でなく、面白い策となると……博打になりますが?」


「博打は嫌いだ」


「では——」


「だが、一世一代の大勝負ならば好んでいる」

 

 その答えに対し、ラッカはニヤリと笑みを浮かべた。


「最高の策がございます」


 二人はそれから、暫く無言で見つめ合っていた。


 気まずい空気感に、俺は視線の行き場を失ってベルミーの方向を向いていた。


 ベルミーは自身が消滅させられる事は無いと聞いて安心したのか、いつの間にか安らかな眠りについていた。


 コイツ、どんだけ寝るんだよ!


 呆れていると——。


 ラッカと王女の二人は無言で見つめ合ったあと、示し合わせたようにニッと笑った。

 

「面白そうだ。準備は任せたぞ」


「ハッ、仰せのままに」


 ラッカが膝をついた。


 俺が呆気にとられる中、王女が椅子から立ち上がっていた。


「カズヤ、食堂だ。ついてこい」


「え?」


 俺が間抜けな返答をもたらすと、王女はニカッとはにかんだ。


「腹が減った」





★シオネ・キッカ・ストゥルターナ視点


 第一領域に属する一人。カズヤの妹を演じているラッカと初めて出会った。


 場所はカズヤの部屋で、私はティーカップを手にしていた。


 所作も言葉遣いも会話内容も完璧な少女。


 カズヤやベルミーと違い、裏表のある性格。それが第一印象だった。


『私の言う通りにして頂ければ、アナタをこの国の王にすることが出来ます』


 彼女は自身が宇宙人であるということを隠す様子も無く、直接脳内に語りかけて取引を持ちかけてきた。


 いいのか? ベルミーは私の手助けは出来ないと言っていたぞ。


 そう心で返答すると、


『全ての決定権は私に存在しています』 


 聡明そうな目に浮かぶのは、少しばかり隠しきれていない冷酷さ、野心の目だ。


 なるほど……彼女が三人の中ではバランサーなのか。


 恐らく、彼女はこの狡猾で残酷な社会であるストゥルターナにおいて、人の良すぎる二人を正しく導いてきた参謀なのだろう。


『理解が早くて助かります。私は善人ではありませんが、悪人であるつもりもございません。アナタに尽力することが我々のメリットにも繋がります。以後、よろしくお願い致します』

 

 その答えは気に入っていた。


 善人で無ければ悪人でも無い切れ者。組織に欲するのはこういう人材だ。


 私の人生は好転している。


 信頼できる理解者と、聡明な協力者と、仲間。やっとツキが回ってきたのだ。


 私はこの星の王となるだろう。そんな根拠のない自信が存在した。


 正直言えば、そのことにあまり興味があるわけではない。


 権力は美味だが、私が変化したことによって順当にリアクションをとってくれるカズヤが側にいなければつまらないだろう。


 彼らは私への手助けが終了すれば、この星を去ってしまうのだそうだが……。


 そうなれば私は、また一人ぼっちになるのだろう。


 だからその時の為に……思い出の一つや二つ、残しておくのも悪くはない。


 今が人生の絶頂期なのだ。ならば、楽しまなければ損だろう。





★カガミヤ・カズヤ視点

 

 俺と王女は並んで暫く無言で歩いていた。


 食堂へと行く道すがら、出くわした連中は黙って道を譲ってきた。


 その連中は軒並み頭を下げている。


 今日の一幕だけでこれか……昨日までしかも連中、直ぐに裏切るんだろ?


 アメコミ市民よりクソな連中だ。 

  

「なあ、さっきのは何だったんだ?」


「お前は気にするな」


 気にするなって……。


「なんか旧知の仲っぽい雰囲気だったよな」


「ふ……それだけラッカが優秀ということだ。あれほどの人材が私の配下にある、それだけで希望が見えたぞ」


「ちょっと話しただけで分かるのか?」


「今年、学園の新入生試験で首席だったのは私に他にはラッカだぞ? 二位とはかなり差がついていた。それだけでも判断材料となるだろう」


 ……そんな裏設定あったのかよ。


 ラッカのヤツ、俺に目立てとか言っといて、自分もちゃっかり優秀設定で目立っているじゃないか。


 俺がそう思っていると、ラッカの声が脳内に響いてきた。


『それは違うすよ』

 

 はあ……またラッカに思考を読まれる生活が始まるのか。


 これじゃあエロいことを考える暇も——ゴホンゴホンッ。


 そんなことより、何が違うってんだよ。


 学園首席が目立つってのは学園モノじゃ鉄則だぞ。


 ギャルゲーじゃ大体、図書館で勉強するクールっ子なんだ。


 主人公がたまたましょうもない本を借りに図書館に訪れた時に出会うのがテンプレだな。


 まあ、大概がサブヒロインだけど。


『それは知らないっすけど、私が首席の設定になったのには理由があるんです』


 理由?


『はい。王女派閥に入ると決まってから設定を修正しました。本来私は中間の成績の設定だったんですが、王女派に首席レベルの秀才がいるのは(はく)になるので設定変更をしたわけです』


 ミリタンなんとか作用ってやつでか?


 相変わらず、仕事の早いヤツだ。

 

『その通りっす。学園内の記録と記憶をゴッソリ改変しました。ミリタン粒子も同時に弄っていますが、巧妙に細工しました。宙域統合本部の鑑識が見ても分からないハズっす』


 ……必死こいて勉強してた奴らがかわいそうになる話だな。


『そんなことはありませんよ。実際、私は無茶苦茶頭良いすからね』


 ま、それはなんとなく分かるけどさ。


 というか、王女も首席か。


 それも記録を弄ったのか? 


『いえ、元々王女様は優秀なんですよ。私の介入が無くても成績的には首席でした。何にせよ、これは今後の策を行使するのに、プラスになる要素っすね』


 へえ……王女凄いな。


 無茶苦茶差別されてきたってのに、成績はトップか。普通に尊敬出来る。


 俺が横顔を見つめていると、王女ははにかんだ。


「なんだ、急に黙ったり見つめてきたりして変なヤツだな」


「いやあ、横顔もお綺麗だな、と」


 そう言って誤魔化すと、王女は黙って正面を見据えた。


 アレ、照れたのかな?


 ちょっとキュンときたぞ。


 そうこうやってると、遂に食堂へと到達した。


 中に入るなり、再びラッカの声が脳内に響く。


『王女様の食事はカズヤさんが配膳してください。派閥のトップ、ましてや王女が自分で配膳するなんてあり得ませんからね』


 ……面倒だけど、まあ俺が自分で乗った船だ。


 それくらいは当然か。


「王女様、俺が取ってきますよ」


 そう言うと、王女は薄く微笑んだ。


「悪いな」


 席に向かって行く王女を尻目に、俺はトレーをとってきてバイキング方式の


 うーん女子の食事か。


 どんなの取ればいいんだろう?


『中央に魚の香草焼きを置き、周囲に野菜を配置してください。まるで庭園のように華やかに、っすよ』


 さすが困ったときのラッカえもんだ。


 俺は指示通り、ヒョイヒョイと料理を皿に配置していった。


 こんな感じかな?


『良い配置です。センスあるっすね』


 ……皿に料理を乗っけるだけだろ。


 歩いただけで過剰に喜ばれる一歳児の気分だ。


『本来、人間は体の構造上、三歳半まで歩かない筈なんすよ』


 は?


『だから、一歳で歩くのは凄いんすよ。体には結構悪いすけどね』


 あ、ああ、そう……。


 ラッカの謎情報に面くらいながらも、食事を運ぼうとすると。


「ギーク様」


 ニコニコと笑みを浮かべた同級生が立ちはだかった。


 ……コイツは誰だ?


『トレバー家の長男、ユーリですね。王女派閥に名乗り出た中では一番の有力者です。ですが、今日の夜には実家からお叱りの連絡を受けて派閥を抜けます。付き合っても損な男ですよ』


 は? お前過去だけじゃ飽き足らず、未来も見えるの?


『情報収集した結果、推定される未来予測です。大したことはありませんよ。トレバーの他にも、四十パーセント以上が家から怒られて派閥入りを辞退します。それは全て、今夜行われることです』

 

 ……そうですか。


 まあ、いいや。


 俺がトレバーとやらを無視して通り過ぎようとすると、


「お、お待ちください」


 俺は掴まれる勢いで再びトレバーに止められていた。


 わざと不機嫌そうな顔を作り、トレバーを睨みつけてやると、


「トレバー家は王女派に加わります」


「家から怒られるぜ? 多分今夜あたりだな。どうせそうなったらお前も抜けるだろう?」


 俺がラッカから仕入れた情報を交えて口にすると、彼はギョッとした表情を浮かべていた。 

 

「例え、そうなっても……」


 トレバーは後方で心配そうに様子をうかがっている女子生徒へと視線を寄せていた。


 ほう、多分アレがコイツの婚約者だろうな。


「女のためか?」


 俺がそう問うと、トレバーとやらは頷いた。


「今日、二年生に奪われそうになりました。彼女は私の最愛の人です。決して、奪わせはしません」


「俺はギーク家の当主だ」


 俺の発言に、トレバーは意図が分からないといった風に見つめてきた。


「俺がやりたいことは俺が決める。まあ、お前の事情は分かった。派閥入りしなくても同級生のよしみだ、困ってたら助けてやるよ。寝取られは嫌いだしな」

 

 俺の言葉に、トレバーが驚いた表情を浮かべていた。

 

「……派閥入りしなくとも救う? それでは、派閥入りのメリットが無くなりますよ?」


 トレバーの質問に、俺はピースサインを浮かべていた。


「最終的に何とか上手いことするさ。なんせ、大団円のハッピーエンドが好きなもんで」


 その言葉を聞いたトレバーは、俯いていた。


 通り過ぎ様、トレバーのギリッと歯を食いしばる音が聞こえた。


 ……自分の無力さに憤ってるとか、そんな感じ?


 まあ、知らんがな。


 やれやれ、腹ぺこ王女に持ってく食事が遅れてしまったではないか。


『うん……?』


 唐突にラッカの不思議そうな声が聞こえた。


 どうしたんだ?


『……いや、なんでもありません。未来予測に軽微な変化がありました。まあ誤差の範囲ですけど』


 ……お前がそう言うとすげー不安になってくるんだけど。


 そんな事を思いつつ、俺は王女へと食事を運び終えた。


 因みに次の日——。 


 トレバーはラッカの推測に反して、正式に王女派閥への参加を表明した。









★三人称視点



 純潔舎の屋上にはドームで覆われた庭園型のサロンが存在する。


 内部はホログラムの花弁が散り、現実では表現できないような幻想的な雰囲気を醸し出していた。


 そこは有力血統者達の中でも、軍の高官になることが確定した選ばれた者しか入室できない、純血舎入りした者なら誰にとっても特別な空間だった。

 

「ふっ、今年の新入生の参加者は……ゼロか。我が校の歴史上でも」


 中央の豪勢で巨大なテーブルでお茶をしている数人の三年生の内、一人がそう呟いた。


 彼の名はサイモン・メンデン。


 白人で高身長、明らかに高貴な出であろう艶やかな金髪をしており、落ち着いた物腰。


 端正なマスクは市民からも人気が高い。


 彼は格式的に四王家の次点であるメンデン家の長男であり、実力者。


 彼は三年生の中でも絶大な権力を誇っている有力血統者の一人だ。


 それを聞いた一人の三年生が眉を寄せていた。


「笑い事じゃ無いぞ、サイモン。一年の婚約者を奪えなかった二年生の中でも動揺が広がっている。このままじゃ一生独り身だとな」


 そう口にしたのは褐色の肌を持ち体格の良い男、グレイ・トルーマンだ。


 彼もメンデン家同様にトルーマン家の長男で、軍で高官になることが確定していた。


 それを聞いた他の三年生達は、お茶菓子を頬張りながら口々に発言していた。


「婚約者を奪われるのは家に力が無いからだ。泣きながらメイドでも抱いて我慢すればいいものを」


「二年生の中でも王女派閥に参加しようかと言い出す輩が出てくる始末だ。このままじゃ俺たち最上級生にも飛び火するぜ、新入生も管理できないのかってな」


「王女派閥など滅び行くことが分かっているだろうに……連中はバカなのだろうか?」


「ヤツは我が校の風習を演説によって食い止めた。内容もタイミングも見事だった」


「敵を賞賛している場合か?」


「なら良い手はあるのか?」


「そもそも王女派閥に降った連中の本家は何をしている? こちらの軍門に降る人間が少なすぎるぞ」


「トレバー家の長男が筆頭に扇動しているらしい」


「トレバー家だと!? それは厄介だな……」

 

 会話が白熱する中、ほんのりと笑みを浮かべた童顔の白人生徒が発言した。


「手ならありますよ」

 

 彼も有力血統者であり、選ばれし生徒であるカイト・ホフマンだった。


 全員の視線が自ずとカイトへと寄せられていた。


 しばしの沈黙の中、グレイが興味深そうに口を開いた。


「ほう……お聞かせ願いたいね」


「連中の結束なんて脆いモンです。王女さえいなくなれば、即座に瓦解しますよ」


 その発言に、他の三年生達はバカにしたような笑みを浮かべた。


「ふん……つまらん。そんなこと誰でも分かっている」


「他の血統者も巻き込めば本家の連中が黙ってない、内戦になったら誰が責任を取る」


 ヒートアップしそうな雰囲気で、一人の男が口を開いた。


「黙れ」 

  

 そう口にしたのはサイモンだった。


 それで静まりかえる生徒達。


 その様子を見れば、三年生達の王がサイモンであろう事は誰の目から見ても明白だった。


 サイモンはつまらなそうな目でカイトへと視線をやった。


「ホフマン、何をするつもりだ?」


 それに対し、カイトはゾッとするような不敵な笑みを浮かべた。


「人質ですよ」


「人質?」


「王女派閥の中でも、最も側近である家はギーク家です」


「ほう」


「ギーク家は当主が内戦で死亡しました。つまり、本家が存在せず、後ろ盾もありません。つまり、現在の当主が一年生のカズヤ・ギークであるという訳です」


「いくらなんでも当主はまずいぞ。バレたらどうするつもりだ?」  

 

 サイモンの疑問に、カイトはにこやかな笑みで答えた。


「だから、狙うのは妹の方ですよ」


 カイトがホログラムでギーク家の長女、ラッカの画像を投影すると、その場に居た者達は思わず声を漏らしていた。


「……美しいな」


「これほどの容姿の人間が今までノーマークだったのか?」


 口々に他の物が感想を述べる中、サイモンは声を漏らしていた。 


「ほう、顔は上等だな。間抜けな顔のカズヤ・ギークの妹とは思えん」


 事実、その青髪の少女は学園では見たことのないほど整った顔立ちをしていた。


 カイトはサイモンの言葉を聞き、にんまりとした笑みで話を続ける。


「シンプルですが、コイツを薬漬けにして、薬が無いと駄目な状態に仕上げます」


「ホフマン家のお家芸だな。どうやるつもりだ?」


「食堂のコックに、薬を混ぜさせます。それで中毒になったのを頃合いに我々が薬物を提供、それで懐柔します。そうすれば王女の側近が裏切りをしていることになり、王女の派閥に動揺を引き起こせます。それを嫌った王女に交渉の機会を与えることも出来るでしょう。そうなれば我々の勝ちのようなものです」


「……食堂の食事はバイキングだぞ。どうやってその薬入りを選ばせるつもりだ?」


「良い手があるんですよ。それに、この上等な青髪の美少女……思い通り動くようになったら、サイモン様に献上しますよ。どうです?」


 その言葉に、神妙な面持ちだったサイモンの表情筋がピクリと動いた。


「面白いな」


 それはヤレ、の意だった。 


 カイトは笑みとともに、深々と頭を下げる。


「ありがとうございます」


「何がありがとうございますだ。俺は面白いと言っただけだ」


「分かっていますよ」


 サイモンは立ち上がり、取り巻きを連れて去って行く。


「ちっ……あの女はサイモンのモノか」


 グレイや他の有力者達も口々に何かを言いながら去って行き、お茶会は終了した。


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