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13. シオネ・キッカ・ストゥルターナ③

★シオネ・キッカ・ストゥルターナ視点


 その後、私は二人が話している間にシャワー室へと赴いていた。


 久しぶりの暖かいお湯に、身がほぐれる思いだった。


 それと同時に、少しガッカリしている自分がいることにも気がついた。


 ……カズヤ・ギークには本当に邪な思いなど無かったのだろう。


 それは、喜ばしいことだ。


 しかし……。


「ゴホッ」


 唐突に咳がもれ、手で口元を覆う。


 湯気のせいとは違う、霞んだ視界の中、私は自身の吐き出したモノを見て、絶句していた。


「そんな……」


 シャワーによって、手からこぼれ落ちていくように排水口に落下していくのは真っ赤な血液だった。


 私は吐血をした。それを理解した瞬間、背中に猛烈な痛みを感じた。


 呻きながらも鏡に背中を向けてみる。


 するとそこには……。


「ああ……」


 血管が浮き出て、まるで蜘蛛の巣のように広がる黒いアザのようなものが出来上がっていた。


 これは……恐らく夕方に飲んだあのスープのせいだろう。


 私は、私には……時間が残されていなかったのだ。


「うう……」


 やっと幸運を掴んだと思ったのに……友を得たと思ったのに。


「あぁ……」


 もう、明日を待つことは出来ないのかもしれない。

 

「……」


 ……いや、何かの勘違いだ。


 きっと、そうに違いない。


 私は現実逃避するように、シャワーの蛇口をひねって止めた。


 これは疲れているだけだ。


 きっと一晩ぐっすり寝入れば、体も元通りに。


 私はシャワー室で唐突に倒れていた。


 震える体で、たぐり寄せるようにタオルを手に取り、体を拭く。


 もう少しだけ……もう少しだけ夢を見ていたい。


 そんな思いで、私はバスローブを羽織って浴室の外へと出た。 


 すると、楽しそうに会話をする二人の姿が目に映った。


 ズキリッと心が痛んだ。


「驚いた……使用人と、そんなに仲が良いんだな」

 

 そんな言葉を吐いたところまでは覚えている。


 その後は虚ろな状態で会話をしていた。


 気づけば、何か固い大きなモノが私にぶつかってきた気がした。


 それが床だと理解するまでに、数秒を有した。


 頭に血が上っていく感覚がする。


 私は床に倒れたのだ。


 心配そうにする二人の声だけは聞こえていた。


 ああ……私はもう死ぬのだろう。


 それは何故か分かっていた。

 

「ああ!? 王女様!? 大丈夫ですか!」


 確か……ベルミーだったか?


 褐色の少女に抱きかかえられたが、尋常な力ではなく、驚いた。


「バカ! お前馬鹿力なんだから気をつけろよ! それより、何か食べ物無いか? 消化に良いものが良いんだが……」


 カズヤ・ギーク……カズヤの声が聞こえた。


 彼には申し訳ないことをした。


 この部屋で私が死ねば、何かと不都合な問題が彼には起こるだろう。


 せめて死ぬ前に私をどこか別の場所へ……。


 必死の思いでそう口にしようとした時。


「えーと、えーと……あ! そうだ、未開拓惑星の住人に打つ用の栄養剤があります!」


 何か、理解の出来ない単語吐くベルミーの声が聞こえた。


 未開拓惑星……?


 彼女は一体何を言っているのだろうか?


「なんて都合のいいものが!? 早く打ってやってくれ!」

 

 しかし、カズヤは当然のように彼女の言葉に同意していた。


「了解です!」  


「何だか俺の打ったナノマシンと似ているな」

 

 バツンッと……首元に何かを打ち込まれるような感触がした。


 その瞬間、私の体で何か急速に細胞が入れ替わっていくような……言い様の知れない感覚が満ちていた。

 

「な、なんだ……どうしたんだよ?」


 遠かった二人の声が、段々と鮮明になってきた。


 それと同時に、頭が冴え渡るような万能感がしていた。


「そういうことは、もっと早く言ってほしかったですぅ……」


「は?」


「間違えて、ナノマシンを打ってしまいました……」

 

 そんな会話が聞こえる中、私の体調は既に全回復していた。


 ……なんとなく起き上がるタイミングを脱していた私は、そのまま暫く二人の会話に聞き入っていた。


 どうやら二人は私になんらかの薬を注射したらしいのだが、その中身を間違えてしまい、焦っているようだった。

  

「え? そしたらどうなんの!?」


「……これから王女様は、私達と同じ不老で病気もしない存在ですぅ」


 不老で……病気もしない存在だと?


 二人は何を言っている?


 そんな薬はこの世には存在しない筈だ。


 そんなものがあれば、この世は生まれて来た生者によってパンクしてしまうではないか。


「え? ……それって、大丈夫なのか?」


「大丈夫じゃないです……許可なくこれを行えば、処分じゃすまないですぅ」


「処分じゃ済まない?」


「はぃ……」


「どうなんの?」


「存在と記録ごと、抹消されますぅ」


「〝宙域統合本部〟から?」


「そうですぅ……」


 ……二人はギーク家の者では無い?


 宙域統合執行本部とかいう組織につかわされてきたのか?


 もしかして、私と出会うのも全て計算済みだった?

  

「いや、待て……宇宙の技術なら、元に戻せるんじゃないか? 宇宙の病院とかさ?」


 宇宙……。


 宇宙ときたもんだ。


 宇宙には私達以外の知的生命体が存在するかもしれないというような論調は何度も耳にした記憶がある。


 しかし、二人がそれだと?


 大宇宙のどこかからこの星に潜入しにやってきてギーク家になりすましていた?


 ……そんな超文明の場所からやってきて、私が聞いているかもしれないのにこんな重要そうなことをペラペラと喋っている……そんなことがあり得るのか?


 二人の会話は続いていた。


「無理ですぅ」


「え? なんでだよ?」


「これはカズヤさんに分かりやすいように〝ナノマシン〟と口にしてきたんですけど、そんな代物ではないんですぅ」


「は? ナノマシンじゃない?」


「全ての細胞を瞬時に作り替える装置なんです……つまり、一度これを行えば、元には戻せないんですぅ」


「本当にナノマシンだったのか?」 


「……そ、そうですよね!? もしかすると違う注射だった可能性も——」


「そ、そうだろ? いくらお前がポンコツでも、ナノマシンと栄養剤を間違るなんて——」


 私はそこでパチリと目を開けて、立ち上がってみた。


 すると二人は、まるで幽霊でも見たかのように口をあんぐりとしながら私を見ていた。


「ああ……二人とも心配かけたな。何だか、急に体調が良くなったよ」


 私がそう口にすると、二人は尚も驚いた表情を見せていた。


「何だかずっと背中が痛くて、体調が悪かったのだが……まるで憑き物が落ちたみたいだ。頭も普段と違い、冴えわたっている」


 さらにそう口にすると、二人は顔を見合わせていた。


「どうしましょう?」


「知らねぇよ」 








 一つ、気づいた事がある。


 カズヤ・ギークと、褐色の肌を持つ少女、ベルミー。


 この二人は普通の人間では無いということをだ。


 私は浴室から出てバタリと倒れてから、駆け寄ってきたベルミーによって何らかの注射を打たれた。


 それからはまるで、自身の脳内にコンピューターが内蔵されたかのように頭が回転し続けていた。


 永らく私の頭を巣くっていた霧が突然晴れたかのような感覚だった。


『嘘でしょ……まさかこんな奇跡が起こるなんて……』 

 

 歓喜に打ち震えたているような、若い女の声が頭に響いた気がした。


 ……まあいい、気のせいだろう。それより、現在の状況の把握だ。


 確かに私は……先ほどまで死にかけていたハズ。それはあのスープを飲んだことが影響しているのは明白だ。


 あれを飲んでから私の身体状況は著しく悪化した。それにシャワー室で確認した体に浮かび上がっていた黒い痣のような斑点……あれは王家で用いられる毒と酷似していた。摂取すれば、解毒薬など一切効かず、死に至るという恐ろしい毒だ。


 そんなものを摂取した状態から、私は復活した。


 そして、この二人の先ほど行っていた会話。これらのことから、二人は普通の人間では無いことは充分伺えた。


「ま、まあ……大丈夫なようで良かったよ」


 カズヤはそんな言葉を漏らしながらも、若干同様しているように見えた。彼の反応からして、演技には見えない。これらの事象は偶然起こったのかのように思えるほどだ。


 ——しかし、それすらも演技の可能性がある。


 これらが計画された事象の一部ならば、私は彼らに利用されようとしているのではないだろうか?


 もしかしたらあの毒入りスープだって彼らの謀略の一つでは?


 私を懐柔するため、このような演出を施したのだ。そう考えれば一番辻褄があう。


 暫くして、カズヤがシャワーを浴びにいったタイミングで、私はアクションに出ることにした。


 せわしなく部屋をウロウロするベルミーに、私は話しかけたのだ。


「ベルミーどの」


「はひゃっ! ……え、えーと、何ですか王女様?」


 視線をあからさまに彷徨わせるベルミー。

 

「私は倒れた時、二人の会話を聞いていた。〝宙域統合執行本部〟とかいうことについてもな」


 正直、この言葉の意味は分かっていない。故に、ブラフだ。


 だが、その言葉を浴びせれば、ベルミーはサアッと顔を青くさせた。 


「貴君らは一体——」


 私が続きを話かけた時、ベルミーは顔からありとあらゆる液体を垂れ流しながら、シュバッと土下座をした。


「……え?」


「ご、ごめんさい王女サマー! 私、医療ミスでアナタを不老にしてしまいましたあ!」


 ズビーッと鼻水をすすりながら地面に頭を垂れる少女を見て、私は呆気にとられていた。


 少しはしらばっくれたりして、駆け引きをしてくるものだと思ったからだ。


「あの——」


「私は、私は……決してしてはならないことをしてしまったんですぅ……うぅっ」


「いや、あの——」


「いや、コレは謝ってもすまないことです……今から地球で最も反省の色が強いと言われる〝ジャパニーズ・ハラキリ〟をお見せしますので、どうかそれで改めてお詫びさせてくださ——」


「い、いやちょっと待て! ……実は私も全容をよく理解していない。つまり、どういうことだ?」


 思わずそうこうを私が聞くと、ベルミーはすすり泣きの合間を縫って説明し始めた。


 それは私にとって、斜め上過ぎるというか——決して信じることが出来ないような内容だった。


「私とカズヤさんは……この惑星の人間ではないんですぅ」







 カズヤがソファで寝静まった後……私はベルミーの瞬間移動によって、カズヤ達がこの星までやってきたという宇宙船に連れて来られていた。


 それを見た私は心底度肝を抜かれていた。


 神話的な移動方法である〝瞬間移動〟を体験した時も驚いたが、この宇宙船と呼ばれる機械の中はとてつもないテクノロジーが使用されていることは明白だった。


 真っ白な空間の中、ベルミーは様々な装置を稼働させ、私に証拠だと言わんばかりに宇宙の技術力を見せつけてきた。


 宇宙空間だということを証明するように私の体を浮遊させたり、重力を戻したり。挙げ句の果てには体を透過させ、物体を通り抜けられるようになる装置まで存在した。


 どれもこれもストゥルターナではありえないような技術ばかりだ。神話的であり、超越的。これらが〝第一領域〟の技術なのだ。 

 

「これで信じてくれましたかぁ?」


 赤い目を浮かべたベルミーに聞かれ、私は呆然としながら答えていた。


「信じるも何も……瞬間移動した時点でもう驚いていた。二人が普通の人間ではないと言われても頷けるな」


「そうですか……では、さっそく信じていただいた所で、私達がストゥルターナにいる理由について話します」


 その後、私はベルミーから様々な事を聞かされた。

 第一領域と呼ばれる宇宙組織のこと、地球とかいう未開惑星で宇宙平和大使を任命されたカズヤのこと、そして、この星にやってきた経緯等諸々含めて。


 全てを聞き終わる頃には、私は神妙な表情を浮かべていた。


「つまり、カズヤは宇宙平和大使という仕事を請け負っているから私を助けたのか?」


「いえいえ、カズヤさんはラッカさんから王族とは関わるなと厳命を受けているはずなので、それとは因果関係が無いはずですよ?」


「ラッカ?」


「ああ、すみません、ラッカさんというのは——」


 どうやらストゥルターナに存在する〝ギーク家〟は本来存在しない作られた家系だったようだ。


 ラッカというのは優秀なカメラマンで、現在のカズヤ達の参謀をしているらしい。


 その参謀は面倒ごとになるので王家の人間にだけは絶対に近寄るなと厳命していたのだとか。


 しかし、それだと腑に落ちない。


「じゃあ……何故カズヤは私を助けたのだ?」


「カズヤさんは、どちらかというとアナタと近い立場にあります」


「近い?」


「未開惑星で生まれ育ち、宇宙の常識とはかけ離れた環境化から突然やってきました。つまり、第一領域のルールや既存概念なんか彼には関係ないんですよ」


「……私を見て、同情したということか?」


 そのコトを聞けば、美しい褐色の肌の少女は目をぱちくりとさせていた。


「カズヤさんは何て言ってました?」


「は?」


「カズヤさんの日常配信が行われていた宇宙の中では周知の事実なのですが、カズヤさんは思ったことがそのまま口に出る残念なタイプなんですよ。口に出ない時は顔に出ます」


「……つまり?」


「彼の言っていたことが事実だと思いますよ?」


 その時、私はカズヤと出会った時のコトをフラッシュバックしていた。


『それを望んじゃいない人間だっているはずだ』


『誰が望んでいないというのだ! この学園の者は全て私を忌み嫌っている! 私は食堂に入ることすら許されていないのだぞ!?』


『俺ですよ』


 フラッシュバックを終えた私は、いつの間にか微笑を浮かべていた。


「ふっ……口にしたことが真実か」

  

 自身の胸が熱くなってくるのを感じていた。


 それと同時に、本当の意味で自分は救われたような気がしていた。


 私は目を瞑り、これからの未来について考えてみた。


 私は心から欲していた味方……底なしのお人好しに命を救われた。


 助けてくれるとも言ってくれた。実際、私は救われていた。


 ならばそれを……今までみたいに不貞腐れず、自身の命を。


 有効に——いや、信念をもって行動せねばならない。


 再び開眼した時。私の瞳は力強く光っていたのだろう。


 ベルミーが驚いたように目を見開いていたからだ。


「ベルミー」


「は、はい……なんでしょう?」


「私は今、ナノマシンとかの影響で年を取らない状態……不老だとか言っていたよな?」


 私がそう口にすると、彼女は再び鼻水を垂らした。


「ここはジャパニーズ・ハラキリで……」


「それはもういい。受け入れた。お前のことも怒っていない。むしろ、感謝したいくらいだ」


「ええっ!?」


 年を取らない、老いない……正直、それについてはイマイチ、イメージが沸かない。


 だが、今の私にとってそれは今は重要ではないのだ。


 無事五体を駆使してこの場に立っている。そのことのが意味は大きい。


「ほ、ホントですかぁ!?」


 やったー、ご本人からお許しが出た! と、喜ぶベルミー。


 ……カズヤのことを残念とか言っていたが、彼女も感情が顔や行動に出るタイプみたいだ。


 宇宙の住人は皆、こんなに分かりやすい性格なのだろうか?


 そんなことを思いながら私は腕組みをし、何もない真っ白な天井を見つめていた。


「ベルミー……ここにストゥルターナを写せるか?」


「は、はい」


 ベルミーが私の視線の先に立体映像を展開する。


 しかし、映し出されたのは黒いスーツを着たハンサムな黒人だった。


「す、すみません。間違えて私の推しを写してしまいました。この人は〝サミュエル・L・ジャクソン〟という方で……なんて、どうでもいいですよね、エヘッ」


「……」 


 やっとストゥルターナが映し出された。


 それを見ながら、私はニヤリと笑みを浮かべる。


 これは作り笑いだ。なるべき不敵で、勇ましい笑みを作り上げることを意識した。


 私なりの決意表明である。

 

「これから私は巻き返すぞ」


 私がそう口にするなり、ベルミーは不安そうな表情を浮かべた。

 

「えっと……あの、何をされるおつもりですか?」


「学園内の派閥形成だ」


「あの……申し訳ないんですが」


 その言葉に、私は苦笑した。


 ベルミーの先ほどの説明で、本来カズヤやベルミーは私の手助けは出来ないことは察していた。


「分かってる、お前達は側にいてくれるだけでいい。友人としてな」


 それだけでどれだけ私の心の救いになるだろうか。


 ベルミーは「え、それだけ?」みたいな不思議な表情を浮かべていた。


「それと、私のことは王女ではなくシオネと呼んでくれ」


「シオネちゃん……良いお名前ですね♪」

 

 彼女の笑みを見ながら、私は打ち震えていた。


 やっと今、自分の人生がこの瞬間、始まったような気がしたのだ。

 

 私は突き進む。何があろうとも。


 そう思えば、私の向かう先に誰一人、敵はいないように思えた。



第四章 家族だ

※明日四話、一挙公開予定

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