表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/31

1. プロローグ

 異常気象もなんのその。


 今年の春も順当に咲き乱れ、四月特有の華やかなピンク色の雨を降らしたりもした。


 そして、舗装(ほそう)された道路に点在するピンク色の物体も、数日が過ぎればいつの間にか姿を消し、直ぐに人々の興味関心は別のものに移っていく。


 通常であれば、梅雨よりかは知名度の劣る〝入梅(にゅうばい)〟までの期間、誰々の不貞(ふてい)を報じた(ぞく)っぽいニュースが(はば)を利かせているはずなのだが——。


 今年はちょいと、風向きが違った。


 新聞ならば一面、テレビなら特番、国会なら臨時会見を組まれる様な、マスコミ垂涎(すいぜん)のビッグなネタが、(かも)とネギとコンロと味噌まで背負ってやってきたのである。


『わ、我々は今現在、人類の歴史上、最も重大な転換点を目の当たりにしています!!』


 何処かの局のベテランアナウンサーが、大袈裟に——いや、順当に慌てながらカンペを読み上げていた。


 それもその筈。全世界の主要都市上空に、全長何十キロもの巨大な未確認飛行物体——宇宙船が現れたからだ。


 もちろんそれは地球製では無く、宇宙の何処ぞの超文明からの来訪者であるのは誰の目から見ても明らかだった。


 そして、人類は打ち震えていた。


 彼ら——人類にとっての超越者が一体全体、何を目的にやってきたのか。


『ッ!? 今、速報がやってきました! 宇宙からの来訪者と政府高官が接触し、彼らの目的が分かったそうです!それは……えっ?』


 ニュースキャスターは、ゆっくりと画面に顔を上げ、困惑した様に首を捻りながら口を開いた。


『か、カガミヤ・カズヤ、という少年。日本人で、十六歳の少年の——カガミヤ・カズヤくんを迎えに来た——そ、そうです』


 その日、SNSの検索ワードがカガミヤ・カズヤで一色に染まったのは、言うまでもない。




★カガミヤ・カズヤ視点


 目が覚めると。何故か俺は、国会議事堂の会議場——そこの議長席に座っていた。  


 ニュースとかの国会中継で見たのと同じ光景だ。違うのは、議長席からの一人称視点であることくらいか。


 どこかで見たことあるような議員達が、神妙な面持ちを浮かべながら議席に座っていた。見渡す限り、全て満席だ。


 議事堂の壁際には、呆れるくらい沢山の報道陣が居て、しかも演壇には。こちらを見上げる、内閣総理大臣の姿があった。


 一瞬、夢かと思ったが、頬をつねってみても鈍い痛みが返ってくるだけ。


 側には銃を持った自衛隊員が二人、逃げられないようにか、置物の様に突っ立っていた。

 

 そうだ、思い出した……。 


 俺、授業を受けてたら、突然教室に突入してきた自衛隊員に連れ出されて、眠らされたんだ。 


「目が覚めた様だね、カガミヤ君」


 不意に、演壇から見下ろす首相がシリアス顔で語りかけてくる。混乱して何も言えないでいると、首相は続けた。


「今、この光景を全世界が注目している」


 壁際を余すことなく占拠するカメラマン達に視線を向け、思わず生唾を飲み込んだ。


「な、何で——ですか?」


「何が起こっているのか説明しよう、私にはその責任がある」







 宇宙では、地球と同じように、生存可能な惑星が腐る程あり、そこには沢山の種族の人々が超文明で快適に暮らしているそうだ。


 昔は惑星間の戦争に明け暮れた時代もあったが、今ではすっかり平和になり、その象徴として、種族が違っても楽しめる共通の娯楽まで作られた。


 その中の一つが、大人気の宇宙配信サイト〝ウーチューブ〟だ。


 〝ウーチューブ〟は総視聴者千百十京人を越えるモンスターサイトで、トップ〝ウーチューバー〟は宇宙でも抜群の人気と知名度を誇っているそうだ。


 そして、その〝ウーチューブ〟には、長らく不動の一位を記録していた〝クロミレンカ〟という美少女〝ウーチューバー〟が居た。


 彼女は数多の難事件を解決してきた事から、〝宇宙一〟とも呼べる宇宙探偵と呼ばれていた。


 そんな彼女は、とある未解決事件を解決するため、お忍びで地球を訪れていた。


 しかし、その時——重大なトラブルが発生したのだ。


 それは、〝クロミレンカ〟の乗ってきた宇宙船の故障だった。


 それにより、彼女は宇宙へ帰ることはもとより、地球において、安全な生活を送ることが出来なくなってしまった。


 クロミレンカは途方に暮れ、怯えながら未開の地球を一人彷徨う事に。


 そんな彼女を救ったのが——。


「カガミヤ・カズヤ君。君だったのだよ」


「ちょっと待ったああああ!!」


 首相の言葉に俺はツッコミを入れる。


 それもそのはず、俺はそんな漫画チックな体験などしたことが無いからだ。


「俺はそんな宇宙探偵とかいう女を助けた覚えなんか全くないんだけど!?」


「そりゃあ、宇宙の超文明の人間だからね。人類一人の記憶を消す事なんざ、造作もないそうだ」


「はっ?」


 俺はあまりの驚愕の真実に、口を大きく開け放っていた。


 じゃあ、何か?


 俺は宇宙探偵の女を助けたが、その時の記憶をゴッソリ消されていたってのか?


「そ、それじゃあ——その子を助けた功績で、俺は宇宙人から探されていたの?」


「少し、違う。それが原因ではあるが、君がここに呼び出されたのはもっと違う理由だ」


「違う、理由?」


「続きを話そう」


 地球人に擬態(ぎたい)し、地球をあてもなく彷徨っていたクロミレンカ。


 そんな彼女に、一人の少年が声をかけた。


『君……大丈夫?』


 彼の名はカガミヤ・カズヤ。


 ちょっぴりエッチな、思春期まっさかりの男子高校生だ。


「やかましいわ!」


 クロミレンカは地球人の目から見てもかなりの美少女だった。


 不安げな彼女に擦り寄る輩は沢山いたが、カガミヤ・カズヤだけは親身になって優しく話しかけ、やがてクロミレンカの氷の様な鉄壁のガードを勢いだけで崩した。


 まるで、全盛期のマイク・タイソンの様に。


「さっきから何なの? そのちょっぴりエッチな、とか。マイク・タイソンみたいに、とか……しょうもない小ボケを挟んでんじゃねーよ!」


 あー……ゴホンッ……。

 

 ともかく、クロミレンカを家に連れ帰ったカガミヤ・カズヤは、なんやかんやで彼女と仲良くなり、宇宙からの救援が来るまで楽しく暮らしていた。


 しかし、そんな日々を送っていた二人に、最大の試練が訪れる。


 何と、そんな二人の様子は何故か〝ウーチューブ〟によって配信状態になっていたのだ。


 それは瞬く間に拡散されていき、〝ウーチューブ〟史上、最大の配信数を記録していた。


 それが幸運な事に、救難信号代わりとなり。彼女のファンや自警団を名乗る連中は地球に殺到した。


 しかし、良いことばかりでは無い。


 その情報を知った、クロミレンカを欲していた犯罪組織が密やかに地球へと降りたっていた。


 そうして二人は事件に巻き込まれていく。


 その過程で二人の絆は高まり、なんやかんやで未解決だった事件も無事解決。


 宇宙の救援部隊も到着し、一件落着に思われたが——。


 一つ、問題があった。


 本来なら、未開惑星である地球人との接触。それも〝自身の身分を明かす、またはバレるような行為〟は許されていない。


 しかし、長年未解決だった事件を解決した事と、〝ウーチューブ〟の視聴者達による嘆願により、〝クロミレンカ〟には恩赦が与えられ関係者(、、、)の記憶削除のみで放免される事となった。


 これにて本当の一件落着——の、ハズ……だった。


「ハズ、だった?」

 

 カガミヤ・カズヤとクロミレンカのコンビによる一連の事件は映画化され、宇宙で絶大的な支持を受ける迄に至った。もはや宇宙を統合する中央組織では抑えが効かないくらい、絶大な人気になってしまったのだ。


 地球の知名度も上がった事により、ただの未開惑星として置いておく事も出来ない。


 更に、カガミヤ・カズヤを広告塔とした、政治利用をしようとする輩が出てくる始末だ。


 こうなればやる事はもう一つしかない。


 いっその事——。


「カガミヤ・カズヤを〝宙域統合本部〟お抱えの宇宙平和大使に任命し、宇宙を飛び回って平和に貢献してもらおう」


「は?」


 俺が呆気に取られていると、何処からともなく拍手の音が聞こえ、瞬く間に会場中に大歓声が広がった。


「地球を代表して日本の若者が宇宙との交流を図る! 何とも誇らしい話ではありませんか!」


 更に歓声が大きくなる。


 俺は机をバンバンと叩いて叫んだ。

 

「ちょっと待ったあああ!!」


 会場がシンッと静まり返った。


「俺の意思わあっ!?」


「君が行ってくれないと、地球はどうなることやら分からないのだよ。君が条件を呑めば、我々地球は未開惑星から〝宙域統合本部ちゅういきとうごうほんぶ〟という星々を統合した強力な組織の傘下に入れる。しかし、条件を飲まなかった場合。再び未開惑星と認定され、たちまち地球は様々な組織に狙われるそうだ」  


「ちょちょっ——あの、宇宙平和大使って、いつまでだよ!? アレだろ? 宇宙に行って帰ってきたら〝相対性なんとか理論〟で地球では何年も経っているんだろ!?」


「おおー良く知っているね」


「良く知っているね! じゃねーよ!?」


「君が光速に限りなく近い速度で進む宇宙船に乗って、宇宙で一年過ごしたとしよう。そうすれば、地球では何千、何万年もの歳月が流れていることになる」


「いやだあああ! そんな浦島太郎みたいな人生過ごしたくないぃぃ! あんまりだよおお!!」


 俺が議長席ですすり泣き始めると、流石に同情的な表情を浮かべる議員達が散見された。


 すると、何やら静かだった議員達が口々に何か喋り出した。


 責務を果たすべきだ——とか。


 さすがに本人の意見を尊重すべき——とか、様々な意見が聞こえてくる。


 首相もその様子に困り顔で、静粛に、静粛にーと口を挟むが、一向に場は治らない。


 そんな中——。 


「アナタは宇宙に行けばモテモテですよ!」


 議場がヒートアップしてきそうなタイミングで、甲高い女の子の声が議場に響き渡った。


 騒がしかった議場が一気に静まり返る。


 俺が顔を上げると、俺が座る議長席の机上、数メートル上空に。

 

 ふわふわと、綿みたく浮かぶ存在がいた。


 呆気にとられた表情の俺を、満面の笑みで見下ろす少しあどけなさの残る少女だった。

 

 いつの間に現れたんだ? どこから?

 

 ていうか——可愛い。


 少女の顔は反則級に可愛いかった。


 AI生成されたのかってくらい端正な顔立ちに、色っぽい褐色の肌。


 報道陣のフラッシュライトで、彼女の美しいショートカットの銀髪は煌めく。


 何だか色んな文化がごちゃ混ぜになった様な、不思議な青っぽい制服を身に纏っていた。


 俺は唾をゴクリと飲み込んで、口火を切る。


「き、君は?」


「えーと〝宙域統合本部ちゅういきとうごうほんぶ〟から来ました! つまりは、役人みたいなものです。宙域統合執行官ちゅういきとうごうしっこうかんの、ベルミーと申します! 地球風に言うと、宇宙人ってヤツですかね!」


 えへへっと可愛らしく笑う少女。


 色々と質問攻めしたいところではあるが、それよりも気になることがある。

 

「う、宇宙では、モテモテ?」

 

 俺が聞くと、ベルミーと名乗った少女は空中から俺の座る席の机へと降り立ち、しゃがんで膝を抱えながら、ブンブンッと首が心配になるほど頷いていた。


「カズヤさんは、宇宙では大大大大だーい人気ですからっ! 一度宇宙に飛び出せば、取っ替え引っ替えですよ!」


 も、モテモテ……?


 十六年間=彼女いない歴の俺が取っ替え引っ替え?


 ……しかも、目の前の少女は相当な美少女だ。


 宇宙ではこれがデフォルトなのだとしたら——。


 そうなのだとしたら——。

 

 その言葉を聞き、気づけば俺は立ち上がっていた。


 そして、議長席にあるマイクを片手に掴んでいた。


「へっ、モテモテ、か。舐めてもらっちゃあ困るよ……お嬢さん」


「いやっ本当ですよ! カズヤ君は——」


「シャアラップ! 黙れ、宇宙人! そこどけファ◯ュメーン」


「きゃっ!」


 少女を押し抜け、何するんですかあ〜と、尻をさする少女をよそに、俺は口を開いていた。


「良く聞けッ、全人類のカスども! 俺は今から、家族、兄弟、友人、飼い犬のペス、続きの気になっていた漫画、アニメ、八坂精肉店のコロッケ、ささやかな夢、飼い犬のペス! これらかけがえのないものを全て捨ててぇェッ、遥かなる無限の宇宙に飛び立ぁーつ!!」


 お、おぉーう、と。議席では急変した俺に困惑する様などよめきが起こっていた。


 構わず、俺は言葉を続けた。

 

「それはひとえに! 全人類の為だああ!」


 上半身を反らしながらの俺の魂の叫びに、議席だけでなく、カメラマン達までもが『お、おおおおお!』と、歓声を上げていた。

 

 人生初のスタンディングオベーションが——国会で、だ。ここから俺のハーレム伝は始まるのであろう。


 俺は額を流れる汗を拭い、少女に問いかけた。

 

「で、いつ出発すんの?」


「え? 今からですよ」


「は? 今から?」


 少女は唐突に、困惑する俺の首元に筒状の物を押し当てた。

 

「チクッとしますよー」


「チク?」


 バツンッという音と共に、首に何かが入り込んでくる感触がした。


 拳銃で撃たれた様な衝撃だ。


 思わず、その場でのたうち回った。


「チクッじゃなくてバツンッてしたあ! バツンってしたよおおッ!?」


「ナノマシンです。宇宙には沢山の病原菌がいますからね。これで一安心!! さあっ宇宙船までワープしますよお」


「え!? いきなりすぎ——」


 全部言い終わる前に、俺の視界は包まれるような強烈な光の後に、突如ブラックアウトしていた。



詳細や投稿スケジュールについては、

【近況報告 ※暗室経路】

https://ncode.syosetu.com/n0552jv/ を、ご参照ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ