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ミケミケ ミケランジェロ  作者: マクスウェル・スミスフィールド
2/2

2 ミケと会社

田中は2週間の休職を経て、今日から職場に復帰する。

心の準備はできているつもりだったが、緊張は拭いきれなかった。エレベーターを降り、オフィスのドアを開けると、


「おはようございます、田中さん!」口々に挨拶をされる。


なぜこんなにみんなが明るいんだ?俺に気をつかっていんだろうか。

田中はすぐにその原因が分かった。


「嘘だろ…」


田中のデスクには、しばらく会っていなかったミケの姿があった。


ミケは田中のデスクの上に座り、まるでこの場が自分の居場所であるかのように寝ている。


「おい、なにやってんだよ」と田中が話しかけると、ミケがにっこりと笑った。


「おかえりなさい、田中くん。待っとったよ」とミケが言って起き上がった。


その言葉に、田中は心の中で小さく笑った。

ミケが本当にここにいる。そして、幻覚ではなかったのだ。


「待っとったじゃなくて、え?なんで、まだいるの?」

ニヤつきながら田中は自分の椅子に腰を下ろした。


「あんた、私がおらんかったら危なかったよ」

すると、隣のデスクから佐藤が話しかけてきた。


「田中さん、お久しぶりです!ミケちゃんが救急車を呼んでくれたらしいですよ」


「え?ミケが?」


「そうよ、田中くんがあのまま椅子から倒れてしまって、私が119したと」


「まさか!救急隊員は駆け付けた時、誰もいなかったって…自分で押したんだろうって言われたんだが…」


「ミケちゃん、電話できるんですよ」なぜか佐藤が得意げに言った。


「22年も生きとったら、知恵もある。ペンば持ってから電話のボタンば押したと」

そう言って、会社の電話を押す真似をした。


「そ、そうなのか」と田中は驚きながらも、複雑な気持ちになった。

今度は俺が猫に命を助けられたとは!


「なんか、今度おごるよ」


「手作りの鶏ハムでよかよ」

ミケは机の上から田中の膝に飛び乗った。


「おい!なに、なんで膝に乗る?」

田中はミケを下した。


「いいじゃないですか、田中さん。ミケも仕事してるんですよ」

佐藤が代わりにミケを膝に乗せた。


「仕事?」


「『癒した課』に所属してるんです。ミケちゃんはうちの社員ですよ」


「いやしたか?なんだそれ?」


佐藤はミケの鼻筋を撫でていた。

「癒すのが仕事です。みんなのストレスを吸い取るんだよね」


「そうですよ。じゃ今日は仕事頑張ろうね、田中さん」と励ましの言葉をかける。


ミケが邪魔者扱いされるのではなく、皆の心を和ませているのだと知り、彼自身も少しだけ安心した。


田中はミケに感謝しつつ、パソコンの電源を入れた。


画面が点灯し、未読メールが山のように積もっているのを見て、少し気が遠くなった。


「ミケ、手伝ってくれないか?」と冗談半分で言うと、ミケは佐藤の膝の上で「もちろん」とニャっと笑った。



その日一日、田中はミケの存在に助けられながら、仕事に取り組んだ。


ミケはデスクを巡りながら、他の社員たちとも楽しげに話していた。彼女の博多弁と愛らしい姿が、オフィス全体の雰囲気を和らげ、皆のやる気を引き出していた。


昼休みになると、ミケは田中のデスクに戻ってきた。


「田中くん、お昼一緒に食べようね」と言った。


「ミケのお昼は何?」


「ネズミ」


は?


「嘘よ。実は、田中くんが作った鶏ハムを期待しとるんよ」とミケはにっこり笑った。


「おいおい、冗談はよしてくれよ。さすがに鶏ハムはまだ作ってないよ。でも、お昼は一緒に食べよう」と田中は苦笑しながら応じた。


田中はミケを連れて休憩室へ行った。社員たちが驚きと興味の目を向ける中、田中は自分の弁当を広げた。


「鶏ハムはないけど、これでもどうかな?」田中はミケにささみを差し出した。


「まって、塩分があまりよくないかも」

田中は水で洗って持ってきた。


ミケは嬉しそうに目を輝かせ、ささみをぱくっと食べた。


「ありがとう、田中くん!美味しかよ。ささみはタンパク質が豊富やけん、ミケランジェロに近づくね」


休憩室の一角で、田中とミケの会話が弾んだ。周りの社員たちもその光景に和み、自然と笑顔が広がった。


「田中さん、ミケちゃんのおかげで社内が明るくなったんですよ。彼女が来てから、みんなの仕事の効率も上がったし、ストレスも減ったみたいです」と佐藤が言った。


「そうなんだ。ミケがここに来てくれて、本当に良かったんだな」と田中は感慨深げに頷いた。


午後の仕事に戻ると、田中はメールの山を片付けながら、ミケが他のデスクを巡る姿を見ていた。彼女はそれぞれの社員に話しかけ、時には肩を揉んでリラックスさせていた。


「ミケ、君は本当に皆の癒しなんだね」と田中が声をかけると、ミケはにっこりと笑った。


「ありがとう、田中くん。私は皆が元気になるのが嬉しかと。あなたも無理せんで、頑張りすぎんようにね」と優しく言って、田中のデスクの上に寝転んだ。


ゴロゴロゴロゴ、とミケの喉からなる音に田中は驚きながらも、心の中でほんのりと温かい気持ちを感じた。ミケの心地よい喉の音が、まるで穏やかな音楽のように響き、彼の一日を明るく照らしてくれていた。


その夜、田中は家に帰り、再び鶏ハムを作ることを決意した。「ミケに感謝の気持ちを込めて、明日は特製鶏ハムを持って行こう」とつぶやきながら、キッチンで鶏肉を準備し始めた。

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