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からっぽ  作者: てりやき
幸せ
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三百四十三日目

 久しぶりにこの日記を開いて、今日がちょうど343日目だということに気付いた。なんという偶然だろうか。




 今日の朝、見慣れないアイコンからメッセージが来ていて、開くと一言、「家、こない?」と書いてあった。

 ゆうかだった。

 突然すぎて困惑したが、それを見越したかのように追加で説明が送られてきた。どうやら、先週少年院を出てきたばかりだったのだとか。

 俺は話の流れなど気にも留めずに、「今から家出る」とだけ打って、家を出た。相手がゆうかだから、気を遣わなくていいのが本当に楽だった。

 ゆうかの家は、以前よりもだいぶ酒臭かった。

 ゆうかは玄関から見てすぐ右のリビングに居た。玄関に突っ立ったまま斜めに顔を合わせるなり、まるで以前までのような、アップテンポな会話が始まった。

「久しぶり、ヒロト」

「酒臭い」

「変わってねーな」

「お互いさま。これ、借りてた本」

「あーテキトーにそこ置いといて」

「わかった」

 一通りジャブを終えると、お互いしばらく黙った。玄関に立ち尽くしたままの俺を見ても、彼女は何も反応しなかった。

 靴を脱ぐつもりはなかった。

「もう一年ぐらい経つか。普通の人間には成れたか?」

 彼女はほくそ笑んでそう言った。俺は何も言わない。

「タクミのこと、覚えてっか?」

 彼女はポケットからおもむろにタバコを取り出し、ライターで火をつけた。その一つ一つの動作から目を離せなかった。

「昔、付き合ってた時、あいつが言ってたんだ。人生は、映画だって。そして、誰かと一緒に生きることは、その映画をそいつと共有することで、だから人は、誰かを求め続けるんだって」

 俺は、黙っていた。

 話に一つずつ区切りをつけていくように、ゆうかは途中でタバコ休憩を何回もはさんだ。

 その光景は今までどこかで観たことがあったような気がした。今思えば、あれがデジャヴというやつだったのだろうか。

「でも、オレは。オレは、もう、無理だ。無理なんだ。わかるだろ?」

 俺は、黙っていた。

 これが、ゆうかとの最後の会話になるのだろう。

 まともには生きられない。生きられないのだ。もう、ゆうかは。そんなこと、彼女に自首することを勧めた時点でわかっていたのに。

 俺自身がそれでも、死んでほしくなくて、生きてほしくて、こうなるように選んだくせに。その現実を目の当たりにした途端にとてつもなく悲しくなって、つらくなって、悔しくなった。

「おいおい、もういい加減泣くの止めろよ」と言った彼女の声は震えていた。

「お前の映画の中に居たオレが、お前の中で生きるなら、それで良いんだ」

 ゆうかはそうして、タバコの火を灰皿で消した。

「……ごめん……ごめん…………」

「謝るんじゃねーよ!」

 泣きながら笑っていたゆうかが、リビングから出てこちらに歩いてくる気配は微塵もなかった。玄関の段差が、誰にも踏み越えられない境界線のように感じた。

「むしろこっちが感謝したいぐらいなんだから。ヒロトのおかげで、オレは今生きられてんだ」

 いよいよ俺は踵を返して、玄関を開けた。

「ヒロト」

 一歩踏み出して、そこで止まった。そして、ぐちゃぐちゃな顔を見せたくなくて、ひかえめに後ろを振り返った。

「ありがとう」

「……どういたしまして」

 俺は精一杯の天然ボケをかました。そうでもしないと、色々ともたないぐらい、限界だったのだ。

 チャリにまたがって、すぐさま俺はゆうかの家から飛び出した。後ろから微かに笑い声が聴こえて、余計に胸が苦しくなった。

 ゆうかにはそのままずっと、ずっと、笑っていてほしかった。

 ただただ、幸せになってほしいと願った。

 たとえ前科があろうと、たとえ快楽殺人者であろうとも、ゆうかという人間には幸せになる権利があるのだ。たとえ世界中の人がそれを否定しても、俺は絶対に認めない。

 それだけは、どうかそれだけは、彼女から奪わないでほしいかった。

「ああああああああああああああああああああ」

 俺は叫んだ。逃げるように全速力でチャリを漕ぎながら、全力で叫んだ。

「うぅ…………あああああああぁぁ」

 誰かが通り過ぎた気がしたけど、どうでもよかった。それよりも、涙で前が見えないことが鬱陶しくて仕方がなかった。




 今日のことを、俺は一生忘れないだろう。

 どうやら、今日の日付は、令和三年、四月十三日の、火曜日? だそうだ。

 四月十三日……

 四月十三日……

 なるほど。みんな、日付を覚えているのは、このためなのか。

 面白い。

 また一つ、勉強になった。




 ありがとう。

 そして、さようなら。

長らくご愛読ありがとうございました!

これで「からっぽ」完結です。

小説を書き始めたばかりの頃に行き当たりばったりで始めた物語でしたが、なんとかうまく完結できて良かったです。

読み終わった方々には、ぜひ感想を残していってほしいなと思います! 一言、何かもらえるだけでも励みになりますし、苦情や文句だろうとそれは良い気づきになるので、気軽にコメントを残していってもらえればなと思います。

あとがきも少し書いたので、そちらを投稿して本作品は正式に完結とさせていただきます。三日後に予約投稿してあるので、興味があればそちらもぜひぜひ読んでいってください。


改めまして、ご愛読ありがとうございました。

これからも、応援のほど、よろしくお願いします!

おやすみなさい~

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