「愛されることは幸福ではない。愛することこそ幸福だ」(ヘルマン・ヘッセ)
「いらっしゃいませ~」
コンビニエンスストア。
「私、お手洗い行ってくるね?」
「わかった」
女性がデート中にトイレに行くのは、尿意以外にも理由があるらしい。なぜだかは知らないが、化粧を直したり、髪型を直したり、やることがあるらしい。
そういうものなのだ。
俺は待っている間、ふと、グラビアアイドルの雑誌に目をやっていた。
表紙にはデカデカと、布の面積が少ない水着姿の女性。
そういえば、ゆうかは親の遺産で酒を買いたくないからと言って、一時期ジュニアグラビアとして活動をしていたらしい。
「需要と供給が釣り合ってねーから、めっちゃ簡単に採用してくれたんだぁ」
酒で顔を真っ赤にしながら、そう言って笑ってたっけ。
ゆうかは何を見てきたのだろう。
人間の、自分の、日本の闇を、どれだけ知っていたのだろう。
知りたくなかった。
知ってしまったら、もう、戻れないというか……
俺の中の「ゆうか」という人間が、壊れてしまいそうだったから。
「おまたせー」
桜が帰ってきても、俺はまだ少しだけぼーっとしていたかった。
「……どうしたの?」
「いや。未成年で、どうやってお酒って買うんだろうなって」
俺は、考えていたことと絶妙に関係ありそうなことを呟いた。こうやって、本音と建前のちょうど間のことを言うのは、俺が最近ハマっていることだった。
「多分、大人の人とかに買ってもらうんじゃない? え、ヒロトくん飲んじゃダメだからね」
「わかってるよ。ただ……」
横目で通り過ぎたおつまみコーナーは、おそろしいほど品薄だった。
「酒に酔った桜の顔も見てみたいなって」
「えーなにそれー」
「はははは。冗談だって」
俺は大人になったらまず、どっかの誰かさんみたいに、吐くまでお酒を飲んでみたいなと思った。
そうすれば、ようやく、味わえるような気がしたから。
知りたくなかった、その何もかもを。




