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からっぽ  作者: てりやき
ゆうか
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九十八日目

 特別学級のみんなで、タクミの墓参りに行った。

 中学校からはそんなに遠くないところにあった。桜が言うには、タクミの家からめっちゃ近いらしい。

 たった五人でも私服で学校じゃない場所に集まるのは、なんだか不思議だった。クラスの外というだけで、俺以外の全員が普通の人間に見えて、その分だけ自分が浮いているような感覚に陥った。

 墓参りはどうしても気持ち悪くて、小学校五年のときから行くのをやめた。デタラメな設定を疑うことなく全うする大人たちが、気味悪くて仕方がなかったのだ。

 例えば、墓の中にある遺骨は、その骨の元々の持ち主が「眠っている」らしい。最初はお宝が眠っているとか、そういう比喩なのかと思っていたが、どうやら、大人たちは本当に先祖が墓の中でスヤスヤと寝ていると考えているらしい。

 他にも、「墓の前にお菓子を置いたらそれを先祖が食べてくれる」だとか、「線香と呼ばれる芳香剤を墓の前で焚いて、悲しい気持ちを表す」だとか、数えだしたらキリがなかった。

 いつしか、ほとんどの大人は子どもと同じように、都合の悪いことを考えないのだと悟った。だから俺は、墓参りには行かないと決めていたのだ。

 それでも今回、何年かぶりに墓参りをすることにしたのは、端的に言って、普通の人間に近づくためだった。

 ゆうかのように社会から攻撃されないために、俺はまともな人間を取り繕わなければいけないのだ。




 墓場に到着するなり、各々が当たり前のように準備をし始めた。ある子は水を汲みに行ったり、ある子は場所を案内したり。暗黙の了解で人間が動いていくその景色が、もうすでに疎ましかった。

「緊張、してるの?」

 桜が心配そうにこちらの顔をのぞき込んでいた。

 俺は全身が硬直したように動かずに立っていた。少しでも口を開いた瞬間、叫びだしてその場から走り出してしまいそうだった。

「そこの二人! イチャイチャしてんじゃない!」

「行こ!」

 そうして桜は、俺の手を引いて走り出した。俺の体も、コケないようになんとか足を出してついていった。

 前を見ると、桜が長い髪を揺らしながら走っていて、そのシルエットがなぜかいつもとは少し印象が違ってみえた。髪が短い気がする。

「髪切った?」

 その声と同時に、墓場に着いて、俺と桜は走るのを止めて、それから、桜は口をポカンと開けてこちらを振り返った。

「え」

「髪切った?」

 俺は聞き取れなかったのだと思って、一回目と全く同じトーンで言った。

 桜の口角が、みるみるうちに上がっていくのが見えた。そして「ニコニコ」と「デレデレ」を足して割ったような、とにかく幸せそうな顔で止まった。

「ようやくきづいたぁ〜」

 髪をわざとらしくなびかせた。あー、もしかして、今までもずっとそうだったのだろうか。だとしたらとてつもなく申し訳なくなってきた。

「なになに」

「うわ、ニヤニヤしすぎてキモチワルっ!」

「ヒロトくんが髪切ったのに気づいたんだよ? えへへ〜」

 髪を切ったことに気づいただけで大げさだと思ったが、周りの反応は別にいつも通りだったので、俺はその指摘をどこかに投げ捨てることにした。

「タクミくん、見てるー? ヒロトくんが髪切ったのに気づいたんだよー」

 桜は空に浮かぶ飛行機を見つめるように、虚空を見上げてそう言った。

「それより、線香線香」

「はーい。あっ、ほら、ヒロトくんも」

 俺はビシャビシャの石の目の前まで行って、桜と一緒に線香を置いた。

 隣では桜が手を合わせて、何かを祈っているようだった。

 設定では、「八月の半ばはお盆と言って、先祖が家に帰って来る」そうだ。今日は八月の何日だろう。俺にはわからなかったが、もしかしたら、この墓場で家に帰る準備をしているのかもしれない。大人のごっこ遊びの世界では。

 俺も石に軽く手を合わせてからゆっくりと振り返ると、結と目が合った。

「……夫婦かって」

「えっ」

 彼女は吐き捨てるように呟いた。桜の方を見ると、すでに顔を真っ赤にしていた。

「たしかにー」

「お似合いだね」

 ……夫婦。

「まだ結婚できないんじゃない?」

 あまり意味がよくわからなくて、俺は単純に、思ったことを口に出した。

「そういうことじゃない!」

 すると、なぜか笑いがどっと湧き上がった。

「アッハッハッハ」

「ハハハハハハハ」

「ふふふっ」

 おかしな世界。

「はははは」




 俺が彼らのように笑える日は来るのだろうか。

 その日まで俺は、ヒトとしてではなく、人間として、生きていられるだろうか。

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