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からっぽ  作者: てりやき
ゆうか
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九十三日目

 今日で、日記を書き始めてから、タクミが死んでから、九十三日目になる。




 ゆうかが自首してから丸一日が経った。

 俺は桜といつもの歩道橋のところで待ち合わせしていた。

 昨日の新聞によると、ゆうかはタクミを突き落としたことだけじゃなくて、ご丁寧に自分の母親も殺したことも白状したらしい。

 少年院に行くことになるのだろう。出てくるのは、何年後になるのだろうか。

 調べたところ、14歳からは色々裁かれるそうだ。ゆうかは先月、ちょうど14歳になったばっかりだった。もしかして、わざと自分が14歳になるまで待って、裁かれようとしたのだろうか。

「おまたせー」

 そんなこと考えている内に、桜は相変わらずそこら中を露出させた服で現れた。

「今日のコーデもかわいい」

 俺は初っ端から褒めちぎっていった。こうすると、好感度というものが上がるそうだ。

 かわいいとか、こわいとか、感受性を求められる部分は未だによくわからないままだった。ただ、それでも、わからないなりに精一杯「かわいい」と言うことで、脳がそのうちかわいいという感覚を覚え始めるのだとか。

 テストと一緒。何事も、傾向と対策でなんとかなるのだ。

「ありがと」

 桜は少しひかえめにそう言った。褒めるのがテキトーすぎたか、それとも、まだゆうかのことを引きずってるか。

「ゆうか、自首したんだって」と、確認のために話題を振ってみた。

「私はまだ、納得できない」

 自分に言い聞かせるように、彼女はそう言った。

「なんで?」

「だって、おかしいじゃん! あんなにやさしかったゆうかが人殺しなんて!」

 彼女が突発的に叫び始めるのは、珍しいことではなかった。

 ただ、俺は黙った。ひたすらに、頑張って、黙り続けた。

 桜はそんな俺の様子に気付いていないようだった。

「私、人殺しだけは本当に許せないの。命を粗末にしてるみたいで、めっちゃ嫌。なんでなの? わざわざ産んでもらったのに」

「たしかにね」

 その相づちは驚くほど感情が死んでいて、自分でもびっくりした。

 いつぞやは、「人の生き死にを語れるほど、偉くないと思う」と言われたことがあったが、こういう思いがあったのかと、今更になって納得した。

「まあ、人それぞれの生き方があるんじゃない?」

「そんなの、関係ないじゃん!」

 俺のささやかな主張は、彼女の盲目的な熱量にかき消された。

 それからも彼女は、自分が一方的に喋ってるとわかっていた上で、なおも喋り続けた。車道側を歩く俺には、左に少しカーブしている道の先に、信号機が何個も並んでいたのがちらっと見えた。

 彼女にはいつか、俺の足並みに追いついてもらわないといけないのかもしれない。

 いつの間にか着いていたカラオケ屋さんに駆けこむ桜を見て、そんな風に、漠然と不安になった。

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