八十九日目
ゆうかに、映画オタク、もとい「タクミ」のことを書けと言ったのには、それなりに理由があった。
まず俺は、タクミが死んだ日のことを何も覚えてない。
周りの人の話によると、俺は彼が死んだ朝、立ったまま気を失って、たおれた時に頭を打って記憶を失くしたらしい。
そして、タクミという人物についても、あまり覚えていない。
覚えていることといえば、「映画が好きな同世代の男がいた」ってことだけで、その子の名前がタクミだと言われても、正直あんまりピンとこなかった。だから、ぶっちゃけて言うと、今まで書いた日記に出てきた映画オタクは、俺の頭の中の想像の人間であって、「タクミ」ではないのだ。
その上で、俺は知りたかった。
タクミは死んで、過去の人となったので、知ったところでどうにかなるわけじゃなかった。
けど、タクミと過ごした時間を少しでも思い出せれば、その記憶は俺の中に残る。
人間らしく生きるために俺にできることは、もう、それぐらいしかないのだ。
それにしても、ゆうかはあの日のことを書いたのだろうか。
タクミのことを書くのなら、あの日起こったことを書かざるを得ないと思うけど……
あの日、何が起きていたのかも、知りたい。
なぜなら次の日から、すべてが変わっていたから。
ゆうかは俺にあたりが強くなって、桜は気持ち悪いぐらい感情豊かになって、結はまったくしゃべらなくなった。
そして、あの日の次の日から、日記を書かされ始めた。
あの日のことを知れば、ゆうかや桜や結ともっと心からつながれる。
でも、その先は?
俺と桜はともかく、ゆうかや結は?
結は普通の人間だから、どうにかなるか。桜が理解者になってくれるだろうし。
じゃあ、ゆうかは?
俺が救うしか無いのか?
異常者を理解できるのは、やっぱり異常者だけだ。
……そうじゃない可能性もあるけど。それでも、やるしかない。




