八十五日目
もう、あの日記はおしまいだ。
物語風に書くのが大変だし、なにより俺はもうこれ以上、ウソを重ねられない。
重ねてもいいけど、これ以上はもう、物語風日記じゃなくて、ただの物語になっちゃうから。
そもそもあれは、ゆうかに見せる用の日記だったし、もういいや。
物語の流れとか、登場人物たちの設定とかも、もう考えない。
(どうでもいいけど、今日は七月二十八日。完全数)
前までの日記は、自分で言うのもなんだけど、かなり美化してある。
一番大きい美化は、俺らは普通の学級で普通の人として生活してる設定。席替えとかは俺らは無いから、たまに抜け出してどんなふうにやってるのかをメモったりして、大変だった。
登場人物たちは、ほとんど本物。起こったことも、結構ほんと。
だけど、普通のクラスに存在しているってだけで、俺のあこがれのような物語になっていた。
……ゆうかはこれが目的だったのだろうか?
読み返しているうちに、そんなことを考えるようになった。
彼女は物語の中だけでも、普通の人間に成りたかったのかもしれない。
なんとなく、わかる。
俺のような異常者にとっては、普通の人間はうらやましい。
自分の意見に共感してもらえるから、生きやすそうだし。
でも、残念だけど、俺も桜もゆうかも、物語の中ではやっぱり異常者のままだ。
「うーん……」
それか、俺が普通の人間に近づいていくような物語にしたかったのかな。
障がい者じゃなくて「普通の人間」という設定で、おかしいところを少しずつ直していけば、現実でも気づかないうちに普通の人間になってるかもしれない。そう、期待したのかもしれない。
でも、俺は物語の中の少年と変わらず、異常なままだ。
なんなら前までは自分の考えを話すことはなかったから、今のほうが普通から遠ざかってるかもしれない。
「うーん……」
わからない。
あの日記、あの物語で、満足そうな顔をしていた、ゆうかという人間。
「…………アハハ」
俺の日記で、笑ってた人間。
「普通になるには心理学を学ぶのが一番だと、オレは思う」
自分の日記で、心理学を知ると不幸になる、と言っていたのに、わざわざ俺に教えた人間。
きっと、そういうことなんだろう。
だとすると、彼女は相当な異常者だ。
そうじゃないと納得できない。
彼女が異常者でないと、説明がつかない。
なんと気味が悪い言葉だろうか。「事実は小説よりも奇なり」とは、よく言ったものだ。




