宮田桜について。7月19日(日)
中学校に入学して、私は桜と出会った。
結とキンチョーしながら登校して、教室に入って、初めて桜を見た時は、特別学級になんでいるんだこいつ、って思った。
教室まちがえたんか?って。
だって、めっちゃふつうだったんだもん。
見た目はけっこう美少女だったけど、それ以外は精神も身体もふつうっぽかったし。授業が始まってからも、別にふつう。
少なくともオレには、なんの問題もない、正常な人にみえたんよ。
ただ、問題が起こったのは、昼休みになってから。
オレがトイレから帰ると、桜は、呼吸ができなくなってた。
むねというか、のどの下らへん(鎖骨?)を押さえながら、苦しそうに息を切らしてた。
「おいおいおいおい」
オレは、桜のもとまで急いで近づいて、自分のバカさをのろった。
バカかよ、ここは特別学級だぞ。
んなわけねーだろ!
桜はオレに気づくと、ふるえる手で、机の上にあったノートに何かを書き始めた。よくペン持てるな、って思うぐらい、ぷるぷるしてた。
ノートには、一言。
だいじょうぶ。
その文字は、ほとんどラクガキみてぇな、フニャフニャの線だった。
オレは、泣きそうになっていた。
もしかしたらこいつ、死ぬんじゃねえのか、って。
「ダイジョーブなわけねーだろ! 救急車呼ぶかんな?」
しかし桜は、オレの制服を引っ張って、首を横にふった。そうして、今度はゆっくり、机にかかったカバンを指さした。
オレはその瞬間、なにかを察した。
ここで救急車を呼んだら、ダメだ、と。
今思えば、あれが第六感?ってやつだったのかも。
とにかく、オレはいつの間にか周りにいたやつらに、こう言った。
「救急車は、呼んじゃだめだ。先生もだめ。桜がそうしたいらしい。な?」
桜は、弱々しく2回うなずいた。
「オレは桜を保健室に連れてく。だれにもこのこと言うんじゃねーぞ」
そう言って、オレは桜を背負って、教室を出た。
もちろん、保健室になんて連れてくわけない。階段を登って、向かったのは、屋上へつづくトビラんとこ。
「やっぱ開かねえ」
トビラが開けばそれが一番だったけど、やっぱ開かなくて、オレは階段を登りきった先の、せめぇおどり場に桜をおろした。
そこは、かくれんぼのときにたまたま見つけた場所だった。手すりが石だから、カベになって気づかれないんよ。
「ハァハァ……ハァハァ……」
桜の息切れは、予礼が鳴る時にはだいぶおさまってた。背中を丸くして、横になってる桜は、なんとも言えない顔をしていた。
5時間目が始まる頃には、桜はいつも通りにもどってた。さっきまで息切れ起こしてたとは思えないぐらい、元通りになってた。
それから、学校に電話して早退したことを伝えたり、教室にバッグ取りに行ったり、ぼーっとしてたりしたら、ブラスバンド部の音が聞こえてきて、もう放課後かよ、ってなった。
「ゆうかちゃん、だっけ」
オレは、数段下から桜を見上げた。
半分ねてたから、多分変な顔してたんじゃねーかな。
「なんで、救急車呼ばなかったの?」
頭に「?」をうかべたような、きょとんとした顔をしてて、やっぱり、さっきまで息ができなかった人にはぜんぜん見えなかった。
「呼ぶなって言ったの、そっちじゃねーか」
「そうだけど、それでも、ふつーだったら呼んじゃうんだよ」
桜はうれしそうにニコニコしていた。なにがそんなにうれしかったのか、今でもわからん。
その笑顔は、オレには悪魔のようにみえた。純粋さと、美しさで、人を狂わす悪魔。
「なにかあるんだな、っては思った。ただ、それだけ」
「そっか。ありがとう」
桜はそれ以上、何も言わなかった。
こうしてオレは、桜となかよくなった。
ちなみに、バッグの中には手帳が入っていた。パニック障害、というらしい。
結とも友達のままだったけど、オレは桜と時間を過ごすことが多くなった。
なんでだろう。
わからない。けど、オレは桜といっしょにいたい。
知りたい。
桜は自分のことをほとんど話さない。
だから、惹かれてしまったのかもしれない。
次は、大翔か。
うーん……




