六十四日目
朝、教室に入るなり、桜の気味の悪い方の友達(美香?)から、放課後教室に残れと言われた。
最初は、行かないでもいいんじゃないかと思った。正直言って、行きたくなかったのだ。
最近桜は、休み時間になると、逃げるように俺の席のそばまで来ていた。俺の周りを囲う猿バリア(桜は「陽キャバリア」と呼んでいた)を使って、彼女から逃げようとしたのだろう。
どうせ、私の桜から離れて! みたいなことを言われるだろうと思ったのだ。
だが、昼休みになって、同じように短髪の方の友達(琴音)から呼び出しを食らった時には、流石にびっくりした。
「なんで?」
反射的に、口から疑問が出た。
彼女と話した記憶すら、俺の頭の中には無かった。友達の彼氏という関係で、そんななれなれしく人を呼び出すのは、普通に考えて、おかしいと思ったのだ。
「それも後で話すから、とにかく残っててくださいね」
彼女はそう言うと、後ずさるように「失礼します」と言って去っていった。
偶然とは、思えなかった。
そして、桜のことが心配になった。
実は今日、桜は学校を休んでいたのだ。
ゆうかは、彼女が休んだ理由が気になったのか、HRのあとに先生の机まで行ってわざわざ聞きに行っていた。何を言っていたかはわからなかったけど、ゆうかはそれを聞いて、複雑そうな顔をしていた。
桜は、なぜ今日学校を休んだのだろうか?
俺は放課後、何を言われるのだろうか?
俺はそんなことばかり考えていて、もはや授業どころではなかった。
「「今日、絶対桜の家に行かないでください」」
二人から同時に、そう言われた。
桜関係だということは当たっていたが、予想外のことを言われ、戸惑った。
「なんで――」
「いいから、とにかく行かないでください」
短髪の方が、念を押すように追加で言った。
二人の様子が、明らかにおかしかった。
忠告しているのに、威勢がないというか、どこか弱々しく見えた。不気味な長髪の方に至っては、ずっと口を固く閉じてしまっていた。
まるで、何かに怯えているような……
「それじゃあ、失礼します」
そう言って、彼女たちは離れていこうとした。
「ちょっと待って」
俺は、その背中をあわてて呼び止めた。振り返ると、少し疲れたような顔がこちらを覗いていた。
それらをお構いなしに、俺は彼女たちに質問した。
「なんで、二人で来たの?」
これなら答えてくれるだろう、というのを選んで言った。
「なんでって、言われても……」
「桜、独り言で『一人だとダメだったから』とか言ってました。もしかして、なんか心当たりありますか?」
彼女は、それ以上口を開くなと言わんばかりに、こちらを睨みつけた。
「いや、ない」
「あ、そうですか。それじゃあ、失礼します」
それ以上何も言わずに、二人は静かに去っていった。教室には俺だけが残っていて、遠くから野球部が声を張り上げる音が聞こえた。
心当たり?
そんなもの、あるわけなかった。
桜は、大丈夫なのだろうか。
昨日やけにテンションが高かったのには、七夕だったからじゃなく、何か他に理由があるのだろうか。
心配になった。




