表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からっぽ  作者: てりやき
普通
65/95

六十三日目

 今日は、七夕らしかった。

 七月七日、オリヒメとヒコボシが一年で一度だけ会える日。

 こういう、言い伝え? 伝説? を聞くたびに、俺は頭がおかしくなりそうになる。

 なんで周りの人間たちは、こんなデタラメな設定を、事実であるかのように受け入れているのだろうか。オリヒメ? ヒコボシ? 誰だよ。誰かそいつらを見たことあるのかよ。

 さらに意味不明なのが、短冊に願いを書いたら叶う、ってやつ。

 何言ってんだ?

 いや、冷静になって考えろって。

「今日は七夕という特別な日だから、このちっちゃい細長の紙に自分の願いごとを書くと、それが叶うんだ!」

 誰が信じるんだよ! バカかよ!

 …………はぁ。

 つい殴り書きしてしまった。

 周りの人たちが、誰かに洗脳されているかのように七夕七夕七夕と言っていたから、こうでもしないと、正気を保てそうになかったのだ。

 俺の席の周りの猿たちはもちろん、桜やゆうかも、洗脳の餌食になっていた。

「ヒロトくん、今日七夕だよ!」

 特に彼女は、重症だった。

 彼女はホームルームが終わると同時に、猿たちの結界を押しのけて俺の席までやってきた。そして、周りが、「痛っ」とか「ちょっと」とか言いながらよろけていたのをお構い無しに、「七夕」がどんな日かを説明し始めた。

 休み時間になるたびに彼女は、願いごとの内容を知りたがった。

「ヒロトくんは、何書くの? 願いごと」

 ホームルームで先生が配った短冊をヒラヒラとなびかせながら、彼女は言った。ニヤニヤと笑う顔が、どこまでも愚かに見えた。

「そういう桜は、何お願いするの?」

「えーそれ聞いちゃうのー?」

 聞かれるのを待っていたと言わんばかりに、食い気味で彼女は言った。憂鬱な俺の気持ちとは反対に、彼女のテンションは不自然に上がっていた。

「質問したのこっちが先なんだから、普通、ヒロトくんが先に答えるべきでしょー? まあ、そこまで言うなら――」

「じゃあいいや」

「え」

 俺は正直、その叶いもしない七夕専用の願いごとに、まったく興味がわかなかった。

「興味、無いの?」

「無い」

 俺がそう言うと、彼女はまるでアニメのキャラクターのように、口をポカンと開いて驚いた。いつもよりテンションが高いからか、リアクションも大げさだった。




 放課後、昇降口の短冊の掛かった竹の前に、ゆうかが立ち尽くしていた。

「どうしたの?」

「んー。ちょっと見て」

 そう言って、彼女は短冊のひとつをこちらに向けた。

「……は?」

 そこには、びっしりと数字が書かれていた。

 暗号なのだろうか? それとも、なにか意味のある数字なのだろうか? どちらにせよ、短冊に書く願いごとでは無いことは確かだった。

「多分、なんかの暗号なんだろうな。ここにちっちゃくpとかqとか書いてあるし」

 そう言って彼女は短冊の端の方を指差した。

 確かに彼女の言うとおり、小さくpとqとeが書いてあった。

「まあ、だからなんだって話だけどな」

「解けるの?」

 俺は、探りを入れようとした訳では無く、純粋に質問してみた。

 彼女が解けるとしたら、何か面白いことが始まるんじゃないかと、期待したのかもしれない。

「えっ、解けるわけねーじゃん!」

 彼女はあっさりと、否定した。

 少し馬鹿にするように笑っていたのを見る限り、嘘をついている様子も無かった。

「おーら、帰っぞー」

 そして、俺とゆうかは何事も無かったかのように、昇降口を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ