六十日目
桜とは、しばらく話していなかった。
原因は、俺とユイのいざこざ、というよりも、むしろ、桜側にあった。
六月初めの席替えで、桜は窓側の一番後ろの席になった。そして、俺やゆうかが居ないのをいいことに、彼女の周りには、よく分からない二人の女が付きまとうようになった。
一人は顔を見た事があった。同じ小学校の…………名前は知らないやつ。髪が短くて、背が小さいやつ。
もう一人は、全然知らないやつ。前髪が長過ぎて目が少し隠れてて、不気味なやつ。席替えで桜のななめ前の席になっていた。
俺にはあまり彼女たちの関係が分からなかったが、遠目で見てた限りでは、桜は二人といる時あまり楽しそうではなかった。
滅多になかったが、三人でいる時が一番しんどそうだった。二人がなにか言い争ったかと思ったら、お互いに桜の腕をつかみ合って、桜は「け、ケンカはやめてよー」と半笑いで言っていた。
六月の下旬になるにつれて、桜は不気味な方と一緒にいるようになった。短髪の方はというと、誰とも話さずに、教室でひとりぼっちになっていた。
桜は、やはりしんどそうだった。
六月を耐えて、七月に入って、この前の席替えで、ようやく桜はそいつと離れることができたようだった。俺は、二人が別々の方向に机を動かしたのを見ていて、ようやく離れられたんだなーと、ほっとしていた。
しかし、次の休み時間になると、そいつは桜の席まで遊びに行って、ずっと、ほぼ一人で喋っていた。
見た目も相まって、最早、ホラーだった。
「ごめん、今日バレーの試合だった。明日ならいけるよ!」
というメッセージで、彼女とは明日デートすることになった。
俺には、今日の夜のうちに、彼女に聞いておきたいことがあった。
もちろん、彼女を振り回している、あの二人のこと。
「あのさ、桜を付きまとってるあの二人って、友達?」
彼女になるべく正直に話してもらいたくて、俺はストレートに聞いてみた。
「うーん」
彼女からのメッセージはそこで一旦止まったが、それから少し経ってもう一回確認すると、雪崩のように続きが送られてきていた。
「どっちも友達なんだけど、なんか二人とも私のせいでケンカになっちゃってる感じ」
「琴音とは小学校の時から仲良かったんだけど、美香ちゃんは図書委員でたまたま一緒の曜日になって仲良くなったんだー」
「私は二人とも仲良くしてほしいって思ってるんだけど、美香ちゃんがどうしても私を独り占めしたいって言い始めて、琴音にいろいろ嫌がらせし始めたの」
「悪口言ったり、汗臭いとか言いふらして仲間はずれにしたり」
「まあ、なんやかんやあって、琴音がみんなにハブかれるようになっちゃったんだー」
メッセージの最後には、悲しそうな顔で涙をこぼす、ペンギンのスタンプが貼られていた。
「つらくないの?」
俺は、そう返信した。
このひと月の間、ずっと思っていたことだった。
彼女は、自分の感情や言いたいことを、隠しているように見えて、そして俺には、彼女がそれを好んでやっているとも思えなかったのだ。
なんで? と聞かなかったのは、彼女に少しでも気を配るためだった。
彼女に好きになって貰うためには、ショッピングに行った時のような、女の「攻略」が必要なのだと最近気づいたのだ。ゆうかが前に、ユイとあんまり仲良くし過ぎるな、と言っていたのも、きっと攻略の一つなのだ。
「わかんない」
「友達が仲間はずれにされて、いじめられてるけど、助けられないのがつらい」
めんどうだけど、気配りも、共感も、すべては攻略のため。
「あー、それはつらいな」
「ところで、明日、歩道橋に十時でいい?」
「いいよー! どこ行くー?」
友達をなんで助けられないのか、なんでそれが桜にとってつらいのか、よく理解できないまま、俺は彼女と明日のデートの予定を考えた。




