五十七日目
彼女は何か企んでいるのだろうか。
今日の午前中は、ずっと、そんなことばかり考えていた。
人を疑うなと、自分でリストに付け加えておきながら、思いっきり疑っていた。
仕方がないのだ。頭ではわかっていても、体が欲してしまうのだから。ユイという人間が、良くも悪くも、何かを満たしてくれるんじゃないか、と。
いつもの「好奇心」と言うやつだ。
ユイはいつも八時十分頃に来るのに、今日は珍しく、八時前に登校してきた。
教室には俺を含めて五人ほどしかおらず、しかもいつもと同じメンバーだったので、ユイが教室に入ってきた瞬間、なんというか、空気がいつもと違う感じになった。
ユイがいつも通りをぶっ壊してきたのだ。
そして、視線を集めながら席に着いたと思ったら、開口一番、こんなことを言ってきた。
「ヒロトさん、いつもの質問、紙でやることにしませんか?」
こんなことを言われて、疑うな、という方が無理な話だ。
「……うん。いいよ」
口答だろうと何だろうと別に構わなかったので頷いたが、内心疑心暗鬼だった。
なんで?
普通に考えて、意味不明だった。
昼休みになって、紙に質問を書いて、ユイの机の上にそっと置いた。
内容は、シンプルに、気になっていたこと。
「俺の日記を読んで、どう思った?」
彼女は質問に目を通して、そして、一度こちらを見た。
ドキッとして、俺はあわてて目を逸らした。
その目は、まるで絵の具で塗ったように、真っ黒だったから。
彼女は、机の中からノートを取りだして、乱雑に最後のページを破った。そして、筆箱からシャーペンを取り出して、スラスラと書き進めていった。
その一部始終を俺は、ぼんやりと観ていた。書いている内容を覗き見たりもせずに、車の窓を流れる景色を見るかのように、彼女の動きを目で捉えていった。
どことなく、切なかった。
彼女は、彼女は、書き終わった紙を、こちらを見ずに渡してきた。
一行目を読んで、俺は純粋に驚いた。
「もう、話しかけてこないでほしい」
彼女が、こんなに鋭い言葉を使うなんて、想像もしていなかったから。
読み終わって、俺は、何も言えなくなった。
ちがう。なんで。いや。
何を言っても、彼女の回答を、意志を、覆せる気がしなかった。
そういえば、先生が明日、席替えをしたいそうだ。ユイはこれを見越して、今日、別れの言葉を言ったのかもしれない。
俺は、どうすればいいのだろう。
ゆうかの頼みがあるので、ユイとはこれから、仲を深めていかなければいけないのに。




